第38話 日常編3
「ねぇ、咲良どうすれば勝てるかなぁ?」
NLOの世界からログアウトした美咲は、これから行われる酒吞童子のユニーク個体“頼光”との戦闘について、咲良に相談していた。
美咲は剣技においては日本一といっても過言ではなかったが、ゲーム知識については初心者の域を出ない。そのため勝敗を分ける可能性があるスキルなどのゲーム限定の知識は、廃ゲーマーの咲良から得なければならなかった。
『私に分かるわけないでしょ。酒呑童子のUM個体なんて戦ったことないんだし、そもそも他の弱いUMだって、未だにファスターから次の街に移動すらしていないプレイヤーが勝てるわけない相手なんだから、美咲の剣技がなければ一瞬でやられるよ。だから勝敗は、美咲の春風流が何処まで通用するか次第でしょ』
「うーん、剣術自体は通用すると思うけど、問題はスキルとかかなぁ?」
いくら咲良がゲームに対する知識が豊富にあろうと、酒吞童子のユニーク個体などというゲームを始めたばかりの初心者が勝てるはずのない強敵を、美咲のような初心者が勝てる方を探すなんて、不可能だ。
ただ春風の剣術がどこまで通用するか次第で、勝てる可能性も出てくるため、確実に勝てないとまでは言わなかった。
『参考に聞いておくけど、美咲はどんなスキルを持っているの?』
「以前話した神聖魔法はいいとして、【剣術】が【剣豪】に進化してて、あとはテイマーと魔力増加、毒耐性があるだけで、他のスキルは生産系のスキルだったかな」
『そんなスキル構成で、SSランクのモンスターに勝てるわけないでしょ!!』
「そんなに厳しいかなぁ?」
『1匹のアリがゾウに立ち向かうくらい、非現実的な勝率だよ!! そこに春風流の剣術が加わったとしても、1匹のアリがライオンに変わるくらいしか、勝率の変化はないと思うよ』
「いや、アリとライオンではかなり勝率が違うでしょ……もしかして勝てる可能性もあるって伝えたかったのかな?」
美咲は、咲良が彼女なりに勝利できる可能性もあるよと伝えたかったことに気付き、満面の笑みを浮かべながら、電話でその気持ちを伝える。
『……そうよ。――なんでクスクス笑ってるの!?』
「いやぁ、咲良はツンデレだなぁって思ってさ」
『私のどこがツンデレなのよ!』
「何となく語尾もツンデレっぽくなってるよ」
『――はぁ、お遊びはここまでにして、美咲的にはどれだけ勝機があると思っているの? 1回対峙しているわけだから、大体の目安は分かるでしょ?』
「うーん、なんか話の分かるモンスターっぽかったし、相手の剣術が私に劣っていた場合にのみ、勝率はかなり高くなるかな? まあ逆に相手の方が剣術の技量で上回っていた場合、私に勝機なんて一切ないけどね」
頼光に美咲の刀が通用しなかったのは、刀の性能が強靭な皮膚に劣っていたからであり、頼光の技量の全貌は一切明らかになっていない。そのため“頼光”討伐作戦まで、剣技の技量は明らかにすることはできないため、その時まで勝敗がどうなるかは予想できない。
『まだまだ勉強しないといけないから、私は参戦できないけど、応援しているよ』
「勉強中なのにごめんね」
『いいよ、いいよ。ゲームの話をするだけでも、私にとってリフレッシュになるからさ。まあゲームやりたい欲も爆増するけどね』
「ゴベンネェ!!」
『ははは、冗談だから、気にしないで。そのUMに勝てるよう頑張ってね』
「うん、勝てるように頑張るから、応援よろしくね!」
『はーい、現実世界から応援しているよ』
美咲は咲良との通話を終えると、明日に備えて道場へと足を運んだ。
かなり遅い時間帯になっているが、門弟たちが試合に白熱していた。現在試合を行っているのは、全国に置かれる春風道場の支部を任されている猛者であり、一般門弟からすれば雲の上の存在だ。そんな2人の試合が行われれば、春風に属している者としては帰るわけにはいかないのだろう。
そんな猛者同士の戦いも、いつかは決着がつく。
「ふぅ――美咲師範!」
「身体を動かしたくなって来てみたら、――支部の――さんと――支部の――さんが戦っているからさ、見入っちゃったよ」
「では私と手合わせをお願いしてもよろしいですか?」
「うん、いいよ」
あっさりと了承した美咲は竹刀を受け取り、男と対峙して構える。
春風道場支部の師範と春風本家師範の戦いという世紀の一戦に、道場には沈黙が流れる。
ゴクリ。誰かが唾を飲んだ音が明瞭に聞こえた。刹那、両者が縮地を利用して突撃し、舞台の中心でぶつかり合う。竹刀をぶつけ合っているはずだが、竹刀がぶつかり合うたびに火花が散っているような錯覚を見てしまうほど、激しい剣戟を見ている者は、呼吸を止めてしまうほど観戦に熱中してしまう。
「中々やるね!」
「はぁはぁ、褒められて嬉しいです」
仮想の火花を散らす2人の剣戟、余裕そうな美咲に対して――は息切れが著しく表面に出ていた。
体力の差が決着をつけた。試合の序盤は同レベルの剣戟を繰り広げていたが、――の体力の限界に近付くにつれて、剣技のレベルが落ちていき、数分もしない内に美咲の一撃を受け止められずに、頭に攻撃を受けてしまった。
「ありがとね、久しぶりに全力で身体を動かした気がするよ」
――との試合を終えた美咲は自宅に戻り、風呂を浴びてから、ベッドの上で明日の戦いを想像しながら眠りについた。
次回より酒吞童子“頼光”討伐及び、“北の森”掃討作戦が始まります。




