第31話 走り草
撫でることに満足すると、再びモンスター探しを再開した。しかし出てくるモンスターはグラスタートルばかりで、“南の平原”で生息しているはずのもう1種類のモンスターと出会えなかった。
「うーん、もう1種類いるはずなんだけどなぁ」
「なんてモンスターが居るんですか?」
「確か“走り草”って名前のモンスターだったよ」
「走り草……変な名前ですね」
走り草、言葉の通り根っこが脚のようになっていて、縦横無尽に走り回る草だ。根っこをグルグルと回しながら走る光景は、とても滑稽に見える。
そんな“走り草”だが、“南の平原”で湧く確率はグラスタートルと殆ど変わらない。つまりこの広大な“南の平原”において、グラスタートルと同じくらい存在している。
「もしかして認識するまでは、普通の草と同じように動かなかったりして……」
「まさか、そんなわけないですよ。だってこの平原は、グラスタートルの甲羅が見えるくらいの草が生い茂っているんですよ……そんなわけないと思います」
サキは“南の平原”を見回しながら言う。
そんなサキの言葉を否定するアリウムだったが、周りを見回して自信がなくなったのか、段々声が小さくなっていった。
「きゅう」
「そうだよね。口を動かすよりも、足を動かした方が“走り草”を見つけられるよね」
カグヤと出会ったばかりのころは、言っていることが全く分からなかったが、【テイマー】のスキルレベルが上がったことで、多少の意思疎通ができるようになっていた。
そんなカグヤの言葉で自分は考えるタイプではなく、身体を動かして解決するタイプであることを思い出し、聞いていた走り草のように走り回って探すことにした。
「それにしても、これだけ目立った行動をしているのに、全然攻撃してこないね」
「グラスタートルは見るからに草食ですし、走り草は……分からないですけど、きっと温厚なモンスターなんですよ」
「……流石に、ずっと探し回っているも飽きて来たなぁ」
「走り草は無視して、“南の森”に進みますか?」
「いや、戦いたい気持ちは変わってないから、範囲攻撃で行くよ。“春風流・草刈り”!」
突然抜刀したサキ、その勢いを利用して回転する。彼女を中心に刀身が届く範囲の草が切り伏せられた。しかし3本ほどの草が残っている。
「サキお姉さんの流派に、草刈りなんて技があるんですか?」
「いや、ないよ。そもそも、それっぽい技名を付けただけで、ただ刀を振り抜いただけだし」
「でもカッコよかったです!」
「そ、そう?」
「きゅう」
再び百合百合した空間を展開しようとしていたサキだったが、カグヤの鳴き声によって現実に戻され、攻撃を受けたことでお冠になっている3体の走り草と1体のグラスタートルが迫って来ていることに気付いた。
「グラスタートルはアリウムに任せるから、走り草は私とカグヤでやるよ」
「きゅう!」
「はい! “ポルターガイスト”」
先陣を切って攻撃したのは、アリウムだった。彼女はポルターガイストによって近くの石を掴み、グラスタートルへと投げつけた。当然ダメージを受けることを嫌ったグラスタートルは甲羅の中に籠る。
そのまま流れるようにグラスタートル本体をポルターガイストで掴み、遥か上空まで持ち上げた。
そんなアリウムが前回と同じような戦い方をしている中、サキとカグヤは様子見するように斬撃と蹴りを行った。
しかし走り草の身体は細く、少し風になびくだけで攻撃が当たらなかった。
「むっ、のらりくらりと避けられちゃう」
「きゅう」
サキたちは愚痴を漏らすが、表情に不満は見られない。それどころか口角が上がっているようにすら見えた。
元々臆病で、虐められるくらい弱かったホワイトラビットの頃からは想像できない戦闘を楽しんでいる様子。カグヤは良くも悪くもサキの影響を受けている。
「でも面白い相手だよ!」
「きゅう!」
サキたちは再び駆け出した。
サキは抜刀と共に刀を横に振り抜く。しかしゆらゆらとしている走り草の胴体を捉えることはできず、刃は空を切った。だが彼女は諦めず、刃を返し、再び前方を薙ぎ払う。燕返しを横向きにしたような攻撃は、走り草も考えていなかったのか、胴体と思われる細い草の半分ほどを斬ることができた。しかしそれでもポリゴンへと変えるにはダメージが足りず、走り草の反撃を許すことになった。
「言葉にするなら草魔法かな?」
彼女を襲ったのは、地面から伸びて来た草だ。不意を突かれたサキは、腕で首を庇って致命傷を受けることは避けられたが、思っていた以上にダメージを受けたことに目を丸くしていた。
しかしそれでも冷静に草を分析して、それが魔法によるものだろうと予想して、草は連続で動かすことはできないだろうと、一気に距離を詰める。駆け抜けた勢いのまま、刀を振り抜いた。
刃は円を描き、走り草の胴体を捉えた。真っ二つになったことが致命傷となり、走り草はドロップアイテムを残してポリゴンとなった。
残るモンスターは上空から落とされたことでボロボロになっているグラスタートルと、カグヤ相手に優位に立っている2体の走り草だ。
グラスタートルは瀕死と言っても過言ではないため、サキはカグヤの手伝いに入ることを選ぶ。
「カグヤ、手伝うよ!」
「きゅう!」
今の自分では勝てるかどうか怪しいと思ったカグヤは、サキの提案を素直に受け入れる。
サキとカグヤは同時に駆け出し、それぞれ違う走り草に攻撃を仕掛けた。それぞれが違う走り草に狙いをつけたことで、1対1の状況を作り上げる。サキからすれば、一度勝った相手だ。負けることはない。
この戦いはカグヤに対する試練なのかもしれない。
「きゅう」
カグヤは自慢の健脚で加速する。その勢いのまま、走り草へと飛び蹴りを放った。だが、のらりくらりとしている走り草は、闘牛の赤いマントのように身体をはためかせ、蹴りをいなされてしまう。
「きゅう」
カグヤは分かっている。ゆらゆらと揺れている走り草に攻撃を当てるには、胴体の中心に蹴りを入れなければならないことを、そして自分にはそれをできると信じてくれる人がいることを分かっている。
「きゅう!!」
カグヤは一心不乱に加速と飛び蹴りを繰り返していく。蹴りをいなされ、すれ違う瞬間に草による斬撃を喰らってしまい、体力は残り少なくなっている。回復手段である【月の波動】というスキルを持っているが、気休め程度にしかなっていない。
「きゅう!!!」
あと一撃でも喰らえば、デスする可能性があるところまで体力を削られてなお、小さな身体を一生懸命に動かし、過去最高の加速を魅せる。そして一切の躊躇いなく跳び蹴りを放った。
その跳び蹴りは胴体の中心を捉えていた。走り草は吹き飛び、元々体力が少ないこともあり、一撃でポリゴンに変わった。
「頑張ったね!!」
「頑張りましたね!!」
走り草に勝利したカグヤは、既に戦闘を終えていたサキとアリウムのモフモフ攻撃を受けることになった。
サキたちの間には和やかな空気と、満面の笑みが行きかっていた。
グラスタートルはタンク、走り草は回避型タンクみたい感じです




