第30話 グラスタートル
デスペナルティーが終わり、万全な状態に戻ったサキたちは、酒呑童子戦に向けて、レベル上げに励むことにした。
彼女たちが選んだマップは、“北の平原”に次ぐ難易度になっている“南の平原”だ。
“南の平原”は2種類のモンスターが生息している。
「おっ、あれは亀かな?」
視線の先にあったのは、少し高めの草から覗くゴツゴツした甲羅らしきものだ。それが亀であるという確信はなかったが、サキが持つ知識にある甲羅を持った生物は、亀とスッポンだけであり、なんとなくスッポンは出てこないだろうと思って、亀だろうと予想した。
その予想は的中しており、甲羅が見えているところの草を掻き分けてみると、そこには草をむしり食べている亀が居た。
「グラスタートルだって」
「どうしますか? 物理攻撃は通じなそうですけど」
「確かに効かなそうだよね……アリウムの【水魔法】を頼ろうかな」
「はい! 頑張ります!!」
サキも【神聖魔法】を持っているが、基本的に回復系の魔法がメインで、攻撃に転じられる魔法は“聖炎”しかなく、その聖炎も物理攻撃を強化するような魔法なため、物理攻撃に対する耐性が高そうなグラスタートルには通じないと思い、アリウムに頼んだ。
アリウムはグラスタートルへと“アクアボール”を放った。しかし水の塊が炸裂する前に、グラスタートルは全身を甲羅の中に仕舞ったことで、まともなダメージを与えることができなかった。
「うーん、どうやったら甲羅に籠った相手にダメージを与えられるかなぁ?」
「うーん……」
「きゅう……」
サキたちは甲羅に籠ったグラスタートルに、ダメージを与えられる攻撃方法について、話し合っている。しかし中々意見は出て来ず、そよ風で髪を揺らしながら、ただ時間を浪費していくことしかできなかった。
そんな無意味な状況に終止符を打ったのがアリウム。彼女は自身が持つとあるスキルに勝利への勝ち筋が眠っているのではと考えた。
「やってみたいことがあるんですけど、やっていいですか?」
「全然大丈夫だよ!! 何もしないよりはマシだよ!」
「では……“ポルターガイスト”!!」
物体を霊的な力で動かすポルターガイスト、そのスキルは基本的に無生物にしか通用しない。ただ、そのスキルは生物に通じないのではなく、対象が動いてしまうと効果が解けてしまうだけであり、相手が動かないのであれば生物にも通用し、逆に動いてしまえば無生物にも通用しない。
“ポルターガイスト”を喰らったグラスタートルは、空中へと持ち上げられる。グラスタートルは持ち上げられていることには気付いているだろうが、動くために身体を甲羅から出してしまえば、サキたちの総攻撃を喰らうことになる。
グラスタートルは自身の甲羅の頑丈さを信じ、されるがままの状態でいることを選んだ。
「どんどん上げるよ!」
アリウムの言葉通り、グラスタートルの高度がどんどんと上がっていく。“ポルターガイスト”は止まることを知らず、ガラスがあったとしても足が竦んでしまう高度まで至った。グラスタートルは未だに顔を出していないため、今まで見上げて来た鳥たちと同じ位置にいることを知らないが、そのまま知らない方が幸せだろう。
「じゃあ行っくよぉ!!」
“ポルターガイスト”を解いた。外部からの力で浮遊していたグラスタートルは、外部からの力を失った時点で落下する。重力に従い、甲羅を下向きにして地面へと帰還を目指す。そこにグラスタートルの意志は存在していないが、本来の位置に戻ると考えれば、世界の意志が重力という力を以て、元の位置に戻そうとしているのかもしれない。ただ1つ分かっていることは、グラスタートルに抗う術はないということだけだ。
大きく、鈍い音が“南の平原”に響き渡った。
「倒せてはいないけど、もう倒せそうだね」
「はい、トドメはサキお姉さんが!」
「いや、アリウムがここまで追い詰めたんだから、アリウムがトドメを刺すべきだよ」
「でもサキお姉さんのレベル上げに来ているんですよ」
「いやいや……」
「いやいや……」
2人の譲り合いが続く。彼女たちの視線はグラスタートルから逸れているが、逃げ出すことはない。甲羅のおかげでダメージを殆ど受けていなかったが、落下の衝撃を殺し切るには至らず、頭が酷く揺れたことによって意識を失っていた。
「きゅう」
鶴の一声ならぬ、兎の一声によって白熱する譲り合いには終止符が打たれた。それまで過剰なまでの譲り合いを行っていた2人は笑いながら、辺りを見回す。周囲には、草の中から覗く甲羅がいくつか見られ、ここでトドメを刺さずとも、次があることが分かった。
結果、アリウムがトドメを刺すことになった。今までより一回りほど大きな“アクアボール”を生み出し、ボロボロになっている甲羅へと撃ち放った。水の塊が所々剥がれ落ちた甲羅に炸裂すると、落下の衝撃によってヒビが入っていた甲羅は完全に崩れ落ち、体力を削ることができる部分が露出。そこからは“ポルターガイスト”で石を放り、アクアボールをぶつける。そんな攻撃を数回繰り返すと、グラスタートルの体力が潰え、ドロップアイテムを残してポリゴンとなった。
「すごいよ、アリウム!!」
サキは勝利したアリウムを抱き寄せると、褒めの言葉と共に頭を優しく撫でまわす。
カグヤは2人の間に形成される百合百合した空間を、少し寂しそうに眺めていた。
そんなカグヤの様子が、サキの目に入った。
「おいで」
彼女の右手はアリウムを撫で続けているが、空いている左手でカグヤを招くジェスチャーをする。カグヤは自分の心に正直になり、とてとてと近寄る。
そしてサキは自分が満足するまで、テイムモンスターの頭を撫で続けていた。
tips
・ポルターガイスト
動かないものを操れる。
Lvが上がるにつれて動かせる速度が上がる。




