第2話 最初の街【ファスター】
「すごいなぁ、滅茶苦茶きれい。目に映る全てが現実そのものみたい……でも人が多すぎて、おぇ吐きそう」
サキは人混みが苦手で、あまりに多いと酔ってしまう体質だった。
彼女はギルドに行くことが目的だったが、ギルドの場所を知らなかったため、見知らぬ人に聞くしかなかった。
「あのぉ、すいません」
彼女は勇気を出して声を掛けた。
しかし声を掛けられた者は、聞こえていなかったのか、自分に話しかけたとは思っていないのか、反応を示すことがなかった。
「すいません」
肩をトントンと叩いて、やっと反応を示した。
振り返った男の顔を見て、サキは少し後悔した。その男の顔は、現実で言うところのヤのつく職業の人と思うほどに強面だったからだ。
「はい、なんか用か、お嬢ちゃん」
「――っあ、えーっと、ギルドの場所ってどこか分かりますか?」
顔に似合わない丁寧な言葉遣いに言葉を詰まらせてしまったが、すぐに質問を思い出すことができた。
「ん? もしかしてメニューを開いていないのか?」
「開いていないです。そもそもメニューって何ですか?」
「それすら知らないってことは……初心者か。ならメニューって唱えてみろ。そうすれば分かるさ」
「わ、分かりました。メニュー」
サキは言われるがままにメニューと唱えた。
するとステータスを見た時と同じように、ブォンという鈍い音を鳴らしながら、半透明な板が彼女の目の前に現れた。
一度経験しているため、周りに分かるような驚き方はしなかったが、少しだけビクッとはしていた。
――メニュー――
ログ
インベントリ
フレンド
マップ
GMコール
ログアウト
――メニュー――
「あっ、出てきました!」
「その中にあるマップってのを開けば、ギルドの場所が分かるぜ」
「親切にありがとうございました」
「まあβテスターが初心者に教えるのは当然だからな」
「βテスターだったんですね」
サキがこの男に声を掛けたのは、ガタイが良かったからというゲーム世界では一切役に立たない評価基準であり、βテスターに話しかけられたのは、単に彼女の運が良かっただけだ。
「俺の装備を見て質問をしに来たんじゃないのか?」
「はい、お兄さんのがt――優しそうな後ろ姿だったので! ちなみにβテスターは装備を貰えるんですか?」
「貰える……うーん、貰えるってのはちょっと違って、βテストの時に使っていた装備を少し弱くして引き継げるんだ。まあ持って来られるのは、上半身と下半身と靴の装備だけだけどな」
(βテスターが最初からカッコい装備を持てるなんて聞いてないよ。カッコいい装備を着た咲良の隣に立つのなら、私もカッコいい装備を集めないといけないじゃん!!)
サキはβテスター事情を咲良から聞いていなかった。そのため装備などは一緒に買い進めて行けばいいやと思っていたのだが、βテスターの咲良もカッコいい装備を持ってくるのは確実であり、咲良の隣に立つため、サキはカッコいい装備を集めるのが急務となった。
パーティを組むのに条件などはないのにも拘らず、彼女がカッコいい装備を集めることを急務としたのは、気持ちの問題であった。
「カッコいい装備ですね!!」
「まあ、これはUMがドロップしたUWだからな」
「UMとUWって何ですか?」
「UMってのは、普通のモンスターが進化を繰り返した個体や突然変異で生まれた強個体などの世界に一体しか存在していないモンスターのことだ。そしてUWはUMを倒した戦いで、MVPに選ばれた者に送られるドロップだ。まあ得られる部位自体は、その人の運次第だけどな」
世界に一体しか存在しない強いモンスターのことをUMというため、二体目が生まれるとUMという分類からは外れてしまう。そして片方が討伐されて、もう一度唯一の存在に戻ったとしてもUMという分類に戻ることはない。
「いろいろとありがとうございました」
「気にすんな。……一応フレンド登録しておくか?」
「フレンドって何ですか?」
フレンドという言葉は、メニューを見た際に視界には入れているはずだが、その時はマップに夢中になっていて気付いていなかった。
「何も知らない初心者だったな。フレンドっていうシステムは、相手のログイン状況が分かって、離れていてもチャットで話すことができる機能のことだ」
「します!!」
「そ、そうか」
サキがあまりに食い気味で反応してきたため、男は困惑気味だったが、自分から誘った以上断ることもできず、フレンド登録をした。
「これでできたぞ」
「本当にありがとうございました!」
「おうよ! 狩りをするなら“東の平原”がおすすめだぞ」
「ありがとうございました!!」
「じゃあな」
サキの目には、その男が輝いて見えていた。
ちなみに男の頭と鎧が実際に輝いていたため、彼女は幻覚を見ていたわけではない。
――サキはマップを見てもなお、ギルドまで右往左往しながら進んでいた。しかし最後にはギルドに辿り着くことができたので、彼女のことを方向音痴とバカにするのは良くない。
「本日はどういった御用ですか?」
剣術の心得があるサキから見て、受付に立つ女性は立ち居振る舞いに隙がないように見えた。
しかしこの世界に疎いサキは、そういうものなのだろうと指摘することはなかった。
「ギルドの登録と職業を登録したいのですが」
「ではギルド登録をしますので、こちらの水晶に触れてください」
サキが水晶に触れると、ギルドカードと呼ばれるものが、水晶の下に付いている機械から発行された。
「こちらがギルドカードになります。ギルドのルールをお聞きになりますか?」
「はい! お願いします!!」
「ギルドは冒険者と依頼主を仲介する組織です。もちろん冒険者が依頼主になることも可能です。そして依頼には、こちらが規定した条件に基づき難易度が付きます。下からE,D,C,B,A,S,SSの7種類に分類されます。そして依頼を失敗際に罰金が科せられるものと、科せられないものがあります。これでルールの説明を終えます。次に職業を決めますので、あちらの部屋に入っていただいて、水晶に触れていただくと、現時点で就ける職業の一覧が出てきます」
「いろいろ教えていただき、ありがとうございます」
『称号 【礼儀正しい人】を獲得した』
(あれ、称号を手に入れたみたいだけど、今は早く職業に就きたいし、あとで確認すればいいか)
サキが水晶に触れると、メニューと同じように鈍い音を鳴らしながら、半透明のボードが飛び出てきた。半透明ボードと出会うのは三度目だったため、流石にビビることはなかった。
――職業――
・見習いテイマー(下級職)詳細
・見習い魔術師(下級職)詳細
・聖女(上級職)詳細
(えっ、なんで上級職があるの? 私初心者だし、いきなり上級職が出て来るなんてありえないよ……あっ、詳細で理由がわかるのかな)
職業 【聖女】
神聖な魔法を使える人々に好かれた人が就ける職業
条件
・【神聖魔法】の所持
・NPCの好感度が上昇する称号の所持
(そんな称号なって持っていな――いや、最近取得した称号があったけど、もしかして……)
称号 【礼儀正しい人】
礼儀正しい人に贈られる
効果 NPCの好感度が上昇する
(あー、まあいいよね。きっと気にした方が負けだよね。それにやるからには、強い職業がいいし、聖女にしよっと)
『職業 【聖女】を選択しました』
『称号 【規格外】を獲得した』
(私のどこが規格外なの!?)
称号 【規格外】
初期職業にて上級職以上を選んだ人に贈られる
効果 スキルを獲得しやすくなる
(ま、まあ、気にしない方がいいよね!!)
サキは何処か遠くを見ながら現実逃避をしていた。職業を決める部屋は閉鎖的で、窓もないので遠くを見るなどできないのだが、気持ち的に遠くを見ていた。
「終わったんですね」
「はい」
「差し支えなければ、どんな職業に就いたのか教えていただけると嬉しいのですが」
「聖女になりました」
ギルドの建物にいるイカつい男たちが、ガタッという音を立てながら席を立ち、サキのことを見つめていた。
「え、えっと、聞き間違えてしまったみたいなので、もう一度お願いしてもいいですか?」
「聖女になりました」
「え……え? 初心者がいきなり聖女?」
美人でクールな受付嬢がアワアワとしている光景は、冒険者たちの視線を集め、強面の冒険者たちの顔面をニヤけさせる効果を持っていた。そしてサキも例外ではなく、破願させていた。
「……し、神聖魔法を持っているからです」
サキはニヤける顔を制そうとしながら、言葉を紡いだ。しかしニヤける顔を制し切ることはできず、言葉に詰まってしまった。
「ど、どうして最上位スキルである【神聖魔法】を持っているんですか!?」
「それは、スキルを選ぶときにランダムを選んだからです」
「異人は神様から3つのスキルを受け取ると聞いたことがあります。しかしランダムというのは聞いたことがありません」
「それは、ランダムを選ぶと変なスキル構成になっちゃうから、選ぶ人がいないからじゃないかな?」
「そうなんですね……スキルについてはここまでにしましょう。話は変わりますが、パーティーを組む予定などはありますか? ないのであればこちらであっせんすることも可能ですが」
「運よくテイマースキルを手に入れられたから、1人でやっていこうと思います」
「ソロテイマーは、最初の内は難しい道だと思いますが、成長するにつれて強くなれますので頑張ってください」
「はい! では行ってきます!!」
「はい、行ってらっしゃいませ」
『称号 【ギルドマドンナのお気に入り】を獲得した』
称号 【ギルドマドンナのお気に入り】
ギルドのマドンナに気に入られた人に贈られる
効果 ギルドが表に出ていない情報を教えてくれることがある




