第24話 浴びるように呑む
サキは駆け出した。
「“春風流・一閃”」
目のも留まらぬ速さでオーガとの距離を詰めると、首を狙って斬撃を放つ。狙われた個体は、金棒で防御しようとしたが、斬撃の速度に追いつくことができず、首を切られてしまった。
「1体目!」
残り4体となったオーガは、舐め腐っていたサキのことを認め、だらりと引き摺っていた金棒を構えた。そして接近してくるサキへと金棒を振るう。
「おっと」
サキは金棒が触れるギリギリで避け、一気に懐へと入った。刀を振り上げて腹から胸元辺りまでを斬りつけた。致命傷にはなっていないが、痛みでふらつかせることができた。
そのままトドメを刺そうとしたが、別の個体が邪魔に入った。
「オーガにも仲間意識はあるのかな?」
「グラァァァァァ!!」
オーガは脇腹を狙って金棒を振るったが、サキが地面に伏せたことで避けられてしまう。金棒が頭上を通り過ぎると、即座に立ち上がり、刀を横に振り抜いた。斬撃はあっさりオーガの強靭な筋肉を打ち破り、首を斬り落とすことに成功する。
「残り3体!」
オーガは数を減らすにつれて攻撃が熾烈になっていく。金棒のスイング速度は速くなり、そもそもの身体能力も高まっているように感じていた。
「……仲間が死ぬにつれて能力が上がるスキルでも持っているのかな? まあ強い相手は大歓迎だよ!!」
サキは笑った。
そして一度刀を鞘に仕舞った。
「グラァァァァァ!!」
オーガたちは勝機と思い、突撃を行う。金棒を振り上げ、持てる力全てを投じたフルスイングがサキを襲う。3体のオーガが、同時に別方向から放った攻撃は、サキから逃げ道を奪う。
「“春風流・居合花吹雪”」
彼女の最高速度は金棒を置き去りにして、オーガの下へと到達させる。
急接近からの抜刀。目にも留まらぬ速度で鞘から抜かれた刃、その軌道はオーガの首を捉えていた。既にフルスイングを始めていたオーガにその刃から首を守る手段は存在せず、ただ自身の首を斬られる光景を見ているしかなかった。
1体の首が斬られる。そのまま流れるように斬撃が放たれる。舞うように刀を振るう彼女の姿は、狂気的だがどこか儚く、美しかった。
そしてオーガは全滅した。
「……ふぅ、多少は楽しめたよ」
「無事でよかったです……」
「きゅう……」
気まずい空気が流れる。
「あれ? オーガがやられているじゃん」
気まずかった空気が一気に引き締まる。
森の奥から姿を現したのは、人間としか思えない見た目をした存在だ。
刀を持ったその男は腰に掛けた酒を浴びるように呑みながら、サキたちのことを嘗め回すように観察している。
『酒乱の鬼人』
NLOのシステムは、目の前の男のことをモンスターと判断していた。
「うっ……あぁぁぁ!!! お前が私を――!?」
その男を目にした瞬間、幽霊少女が悲鳴を上げ、そして怒鳴り声を上げる。今までフワフワした話し方だっただけに、怒鳴り声を上げた際のギャップで、サキは驚きが隠せなかったが、すぐに状況を理解し、“酒乱の鬼人”というモンスターに刀を向ける。
「なんだ? 俺とやるのかヒック」
「貴方がこの子を死なせたってことでしょ」
「この子って幻覚でも見てるのか? まあいいや。殺気を向けるってことは、やられる覚悟があるってことだよな」
鬼人の姿が消えた。そう錯覚してしまうほどの速度で移動した。移動先はサキの背後で、移動と同時に刀を振り抜いた。
サキは殺気に感じたことで、攻撃を受け止めることはできたが、鬼人の脅威的な移動自体は目で追うことができなかった。
「ほう、目で追えないのに止めるかヒック。ずいぶんと研ぎ澄まされた感覚を持っていやがる」
「褒めても何も出ないよ!」
サキは競り合いでは膂力の差で勝てないと感じ、全力で刀を弾いてから距離を取った。
彼女は追撃を警戒しながら距離を取ったが、鬼人がその場から動くことはなく、徒労に終わった。
「……どうして追撃しなかったの?」
「追撃なんて面白くねえだろヒック」
そんな会話中にも鬼人は酒を浴びるように呑む。その顔は段々と赤くなっていたが、サキは特に気にしていなかった。
再び2人は刀を合わせる。今度は正面からの斬り合い、膂力ではなく技術がモノを言う勝負だが、鬼人は、春風道場の師範であるサキに全く遅れを取っていない。それどころか、ガタイの良い体格を駆使した大振りの斬撃は、サキを追い詰めているようにも見えた。
「どうした、もう終わりか!? 俺はまだまだ楽しめてねえぞ!!」
「くっ――楽しませてあげるよ!!!」
サキは刀を弾く勢いを使い、宙を1回転しながら距離を取る。そして駆け出した。鬼人からすれば全く同じ攻撃にしか見えない。ついにため息をついてしまった。
「はぁ、久々にツマミになる相手かと思ったが、結局殺戮以上のツマミにはならないか」
鬼人は酒を一口呑み、向かってくるサキへと刀を振るった。
tips
・鬼人
亜人種の1つ。森人や土人などと同じで人間の近縁種。本来モンスターと分類されることはない。
・酒乱の鬼人
とある酒で狂った鬼人。とある酒に身体を侵されたことで、モンスターへと変貌してしまった。




