第22話 日常編2
「じゃあ私からお願いします」
美咲と同年代くらいの青年がお辞儀してから、竹刀を構えた。彼の県道の実力は全国クラスで、そこらの剣客には負けない実力を誇る。
「行きます!」
男は縮地と呼ばれる技術にて、瞬間移動のように美咲との距離を詰めた。そして竹刀を上段の構えから振り下ろした。鋭い一撃、並の剣客では認識する前に当たってしまう速度で振り下ろされた竹刀を、美咲は簡単に受け止めてみせた。
「良い一撃だね。でも私に当てるには、もう少し速度が必要かな」
美咲は竹刀を弾いた。男の手から離れることはなかったが、その勢いを殺すために距離を取らざるを得なかった。そこからは美咲の猛攻が始まる。
美咲は男と同じように、縮地で距離を詰めた。そして男と同じように上段の構えを取り、振り下ろした。振り下ろし速度自体は並程度だったため、男は簡単に受け止める構えを取れた。
しかし振り下ろしの威力が異常だった。男の筋力では受け止めきれず、美咲の竹刀は防御を破って、男の頭へと炸裂した。
「一本!」
審判を務める門弟の掛け声にて、1試合目は美咲の勝利で終わった。
次の門弟は攻守万能な中断の構えを取って、美咲の攻撃を待っていた。
「カウンター戦法で来るんだね……なら存分に攻めさせてもらうよ」
美咲は距離を詰めた。本来カウンターを狙う相手に不用意に突っ込むのは悪手になるのだが、美咲は悪手になろうと打ち勝てる実力を持ち合わせている。
そして連撃をお見舞いする。上、右、左、右、右とランダムに放たれる攻撃は、門弟の防御を超えようとする。
「まだまだ行くよ!」
「くっ――」
やがて門弟の防御が遅れ始める。始まりは半テンポ遅れ、段々とワンテンポ遅れるようになり、最後は防御が間に合わず、胴に一本貰ってしまった。
「一本!」
「ありがとうございます」
「カウンターを狙うのは良かったけど、私みたいに反撃の暇すら与えてくれない相手には、もう少し考えた方がいいね」
「はい、ありがとうございます」
「たぶん最後になるけど、誰がやる?」
「では私が」
手を挙げたのは、美咲が剣を握る前から道場に通っていたベテランの男。彼は春風流剣術の免許皆伝であり、地方の道場では師範の立場を賜っている実力者だ。
「……私も本気で行かないと」
「ふぅ――では行きます!!」
免許皆伝の男が先に動き出した。
「“春風流・一閃”」
一瞬にして距離を詰め、竹刀を振るった。竹刀は、門弟たちでは目で追うのがやっとな速度で振るわれたが、美咲はいとも容易く受け止めていた。
道場は騒めいた。免許皆伝の実力もそうだが、その攻撃を容易く受け止めた美咲にも驚いていた。
「じゃあ少し本気を見せようかな。春風流奥義・つk――」
「美咲、ごはん冷めちゃうわよ!!」
美咲が春風流の奥義を使うために腰を下げた瞬間、母親の声が道場の入口から聞こえて来たため、即座に構えを解いて入口へと走って行った。
「ごめんね、もう帰らないとだから、また今度やろうね!! またね!!」
そう言って美咲は、母親と共に自宅へと帰って行った。
残された門弟たちは皆思った。「いや、奥義だけでも見せてくれ!!!」と。
――美咲は自宅へと戻り、夜ご飯を済ませると、風呂で身体を流してから、自室のベッドで寝っ転がっていた。
「うーん、武器を新調して、スキルも整ってきた……それでもオーガに勝てるか分からないなぁ……明日咲良に聞いてみようかな」
NLOのクエストについて考えながら、眠りについた。
そして翌日、学校で咲良にいろいろと相談していた。
「えっ、もうオーガと戦ったの!?」
「そ、そうだよ。まあ負けちゃったけどね」
「で、でもオーガなんて強いモンスターは、ファスターの周りには出てこなかったと思うんだけどなぁ……」
「“北の平原”で出て来たよ?」
「平原!? 森じゃなくて平原で出てきたの!?」
βテスターである咲良は、ファスターの周りは完全に開拓したつもりだった。確かにβ版と正規版とでは差異が生まれるのは当然のことだが、難易度自体がそこまで変わるとは思えなかった。
「もしかして何かクエストを受けた?」
「特別クエストの【増加した鬼の調査】を受けているよ」
「特別クエスト!?」
「何か知っているの?」
「β版では殆ど出てこなかったんだけど、特定のギルド以外で発生するエクストラ、ユニーククエストを受けた状態で、ギルドに行くと発生するクエストのこと……だと言われているよ。症例が少なすぎで完全にそうだとは言えないけど……」
「多分だけど、それで合っていると思うよ」
美咲は幽霊少女との出会いについて話していった。
「なるほどね……その幽霊少女が【増加した鬼の調査】を受注できる条件かもしれないね。それで、オーガについて知りたいんだっけ?」
「そう、攻撃が通らなかったから、武器を新調してみたんだけど、確実に勝てるとは思えなくてさ」
「確かにオーガは強いけど、そこまで気にする必要はないと思うよ。膂力は化け物じみているけど、戦い方に技量があるわけではないから、美咲の剣術と攻撃が通る武器があれば勝てる相手だよ」
「そうかなぁ……今日戦ってみるから、ダメだったら相談するね」
「いいよ、いいんだけどね! 私は赤点採らないために勉強しているっていうのに!! ずるい!!!」
「まあ、それはこれまでの怠慢が原因だから」
咲良はショックで燃え尽き、真っ白になった。
そして放課後になり、帰宅した美咲はVRヘッドギアを付けた。
『ログインしました』
発生に繋がりがあるクエスト群については、一連の問題が終わった話のあとがきで、詳しい条件を書こうと思います。




