第13話 鬼の残滓
酒乱ゴーストは掌をサキへと向け、魔法を発動させた。
先ほどと同じような液体の塊だが、その形が違う。浴びせるために面積を優先させていた先ほどとは違い、今回のはダメージを与えることに特化している弾丸状になっていた。
そして足元がおぼつかないサキへと、容赦なく弾丸が放たれた。
「“春風流・酔桜”」
サキは千鳥足を利用して、不規則な連撃を放つ。聖なる炎を纏った刃は魔法を斬り裂き、ダメージから肉体を保護する。
連続で放たれる魔法をどんどんと斬り裂いていき、少しずつ酒乱ゴーストとの距離を詰めていく。そしてあと一歩踏み込めば刃が届くところまで近付いた。
「喰らえェ!」
全力で踏み込み、刀を振り下ろした。確実に酒乱ゴーストを捉えた軌道で刀を振り下ろしていた。しかし手応えはなく、そこに酒乱ゴーストの姿はなかった。
「きゃはははは!!!」
「うぐっ――」
酒乱ゴーストはサキの背後で笑いながら、掌を向けていた。そしてサキの背中に痛みが走った。
あまりの痛みに片膝をついてしまう。しかしそんな状況でも武器を手放すことはなく、冷静に攻撃が当たらないカラクリを分析していた。
「……刀を全力で振れば当たるかな?」
戦況を冷静に見ることができる観察眼を持っていようと、彼女自身が脳筋である以上、あまり意味のない能力となってしまう。
サキは一度刀を鞘に仕舞った。
「行くよ……“春風流・天桜”」
足に力を籠める。刹那、目に留まらぬ速度で酒乱ゴーストとの距離を詰めた。同じように目にも留まらぬ抜刀術で鞘から刀を抜くと、目を大きくしている酒乱ゴーストへと袈裟切りをした。
「きゃぁぁぁぁ!!!」
耳が痛くなるような悲鳴を上げながら、酒乱ゴーストはポリゴンとなって消えていった。
「……倒せましたか?」
物陰で縮こまっていた幽霊少女が近付いてくる。
「うん、倒せたよ。こんなところに野生のモンスターが居るとは思えないし、君関係のモンスターなんだと思うけど、何か思い出したことはある?」
「うーん、特に記憶が戻ったとかはないです」
「そっかぁ、まあ気長に探そうね」
「はい!」
2人は裏路地を進んで行く。酒乱ゴーストによって歪められていた空間は元に戻り、サキが通って来た道を帰ることができた。
「やったぁ! 戻って来れた!!」
思っている以上に声が出てしまい、周りの視線を一手に浴びることになった。周囲の痛い視線を浴びたサキは、恥ずかしさでいたたまれなくなり、逃げるようにその場を後にした。
「いやぁ、流石に恥ずかしかったなぁ」
「視線が痛かったですね」
「そうなんだよ、ただでさえ人混みが苦手だからさぁ。あんなに大人数の視線を集めるなんて、恥ずかしくておかしくなりそうだったよ」
幽霊少女は言葉の通り幽霊だ。幽霊とは、霊感がある者しか視認できない存在、つまり大多数の人間からは見えない存在である。
周りの人間からすれば、そんな幽霊少女と会話しているサキは、大きめの声で独り言を呟いているようにしか見えない。つまり変な人を見る目で見られることになる。
「なんで見られているんだろう」
先ほどは自覚があったため、恥ずかしくなって逃げてしまった。しかし今回は見られる理由が分からないため、首を傾げるだけで終わっている。
「……私は幽霊ですから、周りからすれば独り言のように見えています」
「なるほど」
幽霊少女に指摘されてようやく気付いたが、サキとしては独り言が恥ずかしいものという認識がないため、特に逃げる必要性を感じていなかった。
「とりあえず、ギルドに行こうかな」
「ギルド……依頼者と冒険者の取次ぎをするところですよね」
「知っているってことは、冒険者との繋がりがあったのかなぁ?」
2人はそんなことを話しながら、ギルドへと向かっていた。
「クエストをクリアしたことを報告しに来ました」
「サキさんですね……はい、スケルトンの骨片5つの納品を確認いたしました。こちら報酬の3500ラオになります」
「ありがとうございます。ヒトダマの残滓を納品するクエストを受けたいのですが」
「申し訳ありませんが、そちらのクエストは先ほど別の方が受注されてしまいました」
「そ、そうなんですね」
サキは一気に素材を集めてから、素材を納品するつもりだったが、別の人が受注して、自分が受けられなくなることは想像もしていなかった。
「代わりと言ってはなんですが、このクエストを受けてみませんか?」
特別クエスト
【増加した鬼の調査】
難易度6
成功条件
“北の森”で増加している鬼系統のモンスターについて調査する
失敗条件
特になし
成功報酬
10000ラオ+別途成果によって追加される
「まだ“東の平原”と“東の森”にしか行ったことがないんですけど」
「ですが、夜の“東の平原”で戦えるのであれば、“北の平原”までならば苦戦することなく、戦っていけると思います。“北の森”はどうなるか分かりませんが、“北の平原”でレベルを上げれば、できない事ではないと思います」
「……じゃあ受けます!」
「では、お願いします」
サキは夜が明け次第、北の平原へと向かうことにした。
tips
・幽霊少女
幽霊少女はモンスターではなく、NPC扱いになるので特別な条件を満たさなければ、見ることができない。
・ゴーストなど
ゴーストなどの敵性存在はNPCではなく、モンスターという分類になるため、《《基本的》》には目視で確認ができる。




