第10話 新たなクエスト
――ファスター、リカ宅。
「帰りました」
「そのネックレス……リカ! もしかして街の外に出たの!?」
「……ごめんなさい」
リカの姉は、サキの首に移った守護のネックレスが掛かっているのを見て、リカが危険な目にあったことを理解し、声を荒らげてしまう。本当であれば、無事帰って来た妹に「ごめんね」と謝るつもりだったのにも拘わらず、もうそんな空気ではなくなってしまった。
重たい空気、落ち込んだリカ、声荒らげてしまった以上、引くに引けなくなった姉。せっかく姉が目覚めたのに、こんな環境に置かれるリカを可哀そうに思ったサキは、リカを庇おうとした。
「リカちゃんも、街から出たくて出たわけじゃないと思うよ! きっと無我夢中で走るうちに、街の外に出ちゃったんだと思う!」
「違うの。私は出たくて街を出たの」
「そうだったの!?」
リカの姉の笑い声が洩れる。サキが想定する結果ではなかったが、重たい空気が多少和らいだため、結果オーライだと思っていた。
「無事帰って来てよかったよ」
「ごめんなさい、お姉ちゃん」
「私もごめんね。私のためにやってくれたことを怒って」
2人は優しく抱きしめ合う。
姉のぬくもりを感じたリカはグスグスと涙を流し、街の外に出たことも相まって、姉の胸の中で眠りについてしまう。
「私も、妹もお世話になって、本当にありがとうございました」
「いえ、やりたくてやったことなので、全然気にしないでください」
「もしそうだったとしても、私たちの命の恩人であることに変わりないですから」
「……お礼は受け取りますから、ここまでにしましょう。ここから先は対等な関係でお願いします――えーっと、リカのお姉さん」
「私はリリルカです。親しい人はリリと呼ぶので、ぜひリリと呼んでください」
「じゃあリリさん、私はサキです! これからよろしくお願いします!!」
「はい、お願いします」
その後、リリが起きるまでの間、2人は記憶に残らないような雑談をして時間を潰していた。
そして十数分後、リリが目を覚ました。
「お姉ちゃん」
「あっ、起きたの?」
「うん、起きたの。でもまだ眠いから、サキお姉さんにお別れを言ったら、また寝るの」
「私のために起きてくれたんだ! ありがとね。また会いに来るから、今日は寝てね」
「うん、またねなの」
「またね」
サキはリリルカにお辞儀して、家を後にした。
「そろそろ夜になるから、“東の平原”に行ってみようかなぁ。昼と夜でどこまで変わるのか知っておくのは大切だしね」
目的を決めたサキだったが、一度ギルドへと向かうことにした。
「ギルドにはどんなクエストがあるのかな」
彼女がギルドに向かった理由は、普通のクエストを受けてみたいという好奇心と、武器を新調するための資金稼ぎのためだ。
――ギルド
「目ぼしいクエストはこの2つかなぁ」
Eランク・クエスト
【ヒトダマの残滓を納品する】
難易度3
成功条件
ヒトダマの残滓を3つ納品する
失敗条件
クエスト受注から2日が経つ
成功報酬
3000ラオ
【スケルトンの骨片を納品する】
難易度3
成功条件
スケルトンの骨片を5つ納品する
失敗条件
クエスト受注から2日経つ
成功報酬
3500ラオ
「うーん、どっちがいいかなぁ? どっちも“東の平原”による限定で湧くモンスターらしいから、両方とも戦うことになるんだろうけど、Eランクは一度に1つまでしかクエストを受けられないからなぁ……ん? もしかして片方を成功させて、その後にもう1つを受注して、手に入れておいた素材を納品すれば、実質2つ受けたことになるのでは? そうとなればスケルトンの方を受注して……よし! “東の平原”へとレッツゴー」
サキの盛大な独り言に、周りの冒険者たちの視線は子供を見る保護者のようになっていた。
ギルドを後にしたサキは、街をぶらつきながら、モンスターが活発化する夜になるのを待った。
「いろんな露店があって、いろいろ買いたくなっちゃうけど、新しい武器を買うために我慢しないと……でも見るくらいならいいよね」
揺らぐ決意の中、一番最初に寄った露店は、いろいろな飲料を売っているところだ。
「おっ、いらっしゃい! 始めて見る顔だし、正式版からのプレイヤーか?」
「はい、友達に誘われて始めました!」
「へぇ……その肝心の友達は?」
「……私的な事情で、1週間ほどゲームができないそうです」
雑踏が響く露店街、サキたちが居る場所だけが沈黙に包まれていた。しかしその沈黙も一瞬で終わり、店主の快活な笑い声が響き渡った。
「いやぁ、友達を誘っておいて、自分は1週間遅れて始めるなんて、面白い友達を持っているんだね」
「はい! 面白くて、いい友達です!!」
「そうかい、私はこの飲料販売露店の店主兼、情報屋“マル秘”の構成員、“いろは”だよ」
「いろはさん……私はサキです。よろしくお願いします!」
サキといろはは握手した。
強く握り合う2人、数秒間沈黙の握手が続き、2人して満足そうな笑みを浮かべながら手を離した。
「やりますね」
「サキもかなりできるな。よし、挨拶はここまでにして、ウチの商品を見ていきな」
彼女がそう言うと、サキの前に商品販売用のボードが現れる。
天然水 レア度1 品質D
水分量10%回復
冷たくておいしい
300ラオ
リンゴジュース レア度3 品質D
水分量15%回復
よく冷えてて、甘くておいしい
2000ラオ
いろは特製薬草ジュース レア度4 品質E
体力100回復 水分量1%回復
ぬるくて、まずくて、後味が残る
1000ラオ
「最後の何ですか!?」
「研究がてら、いろいろ作った結果だな」
「何を目指したら、ここまでの物ができるんですか!?」
「研究ってのは、寄り道が一番の近道になる可能性があるからな……まあ試行錯誤した結果だよ」
いろはは何処か遠くを見ていた。サキがそのことを指摘することはなく、“いろは特製薬草ジュース”の話題を無理矢理変えることにした。
「……天然水をください」
「あいよ」
「ありがとうございました」
「おう、今度は情報の売買をしに来てくれよな!」
「(情報の売買?)はーい」
サキは情報の売買のことがあまり分かっていなかったが、夜のモンスターと早く戦いたいという好奇心の方が勝っていたため、特に質問することなく露店を後にした。
tips
・昼と夜
夜になると、昼に湧くモンスターたちが活発化し、日の光に弱いアンデット系のモンスターたちが湧くようになる




