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ポリコレW杯・弥助サムライ伝説 ~多様性は俺の必殺アイデンティティでゴザル!~

作者: 区隅 憲

「さあ始まりましたワールドカップ2026! 今年は我が国ニッポンで開催しております。選手入場です!」


 アナウンサーが高らかに宣言すると、日本代表の選手たちが入場した。

だがその先頭に立ち旭日旗を掲げているのは、なんと甲冑を来た黒人だった。


「おおっと! 日本の宣誓式なのに明らかに日本人じゃない選手が入ってきたぞ! これはどういうことでしょう!? 解説の佐藤さぁん!」


「はい、こちら解説の佐藤です。先頭に立つ彼はかつて織田信長に仕えたとされるサムライ(自称)の弥助です。弥助選手は海外では非常に人気が高く、その後押しのおかげで日本でも彼を主役としたアニメがMAPPAで製作されました。なお、日本の代表ですが正確な出自はわかっておりません」


「ええっ? そんな日本人ですらない怪しい人物を日本代表にしたんですか!? 一体全体どういう経緯であの甲冑黒人が選ばれたんです?」


「はい、では解説しましょう。弥助選手は昨今のポリティカル・コレクトネスが声高に叫ばれる世の中に配慮した結果抜擢されたのです。『黄色人種ばかり日本の代表に選ばれるのは差別だ!』という批判が海外から殺到して、その圧力に日本が屈したわけですね」


「ええっ!? でも日本って元々黒人なんていませんでしたよね?」


「はい、確かにそうですね。ですが今はグローバル社会。特定の人種を優遇する国家は国際的なバッシングを受ける傾向にあります。現に欧米で有名なかのアカデミー賞では、『黒人や女性、障害者、LGBTQが出演していない映画には受賞資格を与えない』と明確な方針を打ち出しています。この欧米の「ポリコレ同町圧力」は世界中に広がっており、ついにはスポーツ界隈にも浸食しているわけですね」


「……あ~なるほど、そういう事情があったわけですね。弥助選手はいわば海外の都合で作られた『日本の』代表なのですね。まるで憲法9条みたい。でも彼ってサッカーできるんですか?」


「いえ、できません。そもそも彼は戦国時代のサムライ(自称)です。現代のスポーツのルールなんて全く知りもしないでしょう」


「ええっ!? そんなズブの素人をワールドカップに!? そんなんでまともな試合になるんでしょうか?」


「まあ、ならないでしょう。彼はサッカーのルールは愚か、日本のルールすらわかってない様子ですから。現に選手村に彼が訪れた時には『日本から出ていけクロ野郎!』と現地人から野次を飛ばされたのですが、彼はその場で刀を抜いて批判者を斬り殺しました」


「ええっ!? そんな頭のイカれた殺人鬼を出場させるって……FIFAの倫理観どうなってるんですか!?」


「どうもこうも、今は『ポリコレ無罪』が適用される時代ですからね。例え黒人やLGBTQが犯罪を犯しても、ポリコレ的な主張をすれば罪には問われません。日本でも『心が女性』だと主張すれば、いくら女性風呂を覗いても最高裁で無罪を勝ち取れますから」


「……ああ、何かもう色々と嫌な世の中ですね。人殺しを無罪放免にして国際競技にまで参加させるって……今年のワールドカップ、波乱の予感がします。


 っと、ここで日本選手が全員入場しました。弥助選手からの宣誓です」


「センセイ、ワタシタチ選手イチドウハ、黒人ノ誇リニカケテ、正々堂々タタカウコトヲ誓イマス」


「うおっと! 滅茶苦茶カタコトな宣誓だ! 日本人らしさの欠片もないいかにも台本を読み上げたような台詞! しかも『黒人の誇りにかけて』って、お前仮にも日本の代表選手だろ!


 ああっ、案の定日本の観客席から野次が飛んでる! 『日本から出ていけ!』『日本の文化を汚すな!』って、『アサシンクリード』の旗が燃やされてますよ。


 ああ、みんな欧米の警察に取り押さえられた。ここ日本なのに何故外国人の警察? 内部干渉もいい加減にしろよアメ公」


 ピピ―ッ

キックオフ。

日本とブラジルの試合が開催された。


「ああっと、ここでついに試合が始まりました! ブラジルはワールドカップの優勝常連国! 果たして日本はブラジルに打ち勝つことができるのか!?


 ああっと弥助選手! パスを間違ってブラジルに渡してしまった! そのままブラジルがゴールまで追い上げます! フォワードを抜き、ディフェンダーを抜き、そのままシュゥゥート! ブラジルに1点入りましたぁ!」


 その後ブラジル側はどんどんシュートを決める。

前半戦45分、33-4の圧倒的な得点差を日本に叩きつけた。


「ああっどこかで見た悲惨な数字! もはや後半戦で日本が追い上げるのは絶望的か!? 果たしてポリコレに媚びた日本が勝つ未来はあるのでしょうか!? 解説の佐藤さぁん!」


「ええ、落ち着いてください。この程度の差は大したことはありません。日本にはまだ勝機があります」


「おっと! なかなかに強気な発言ですね佐藤さん! 何かこの状況を打開できる根拠などはあるんでしょうか?」


「はい、あります。今年からワールドカップには『新制度』が設けられたのです。それを上手く利用すれば、日本はあっという間に勝利をもぎ取れるでしょう」


「そ、その『新制度』とは?」


「まぁしばらくご覧なさい。ほら、今はハーフタイム。日本側が会議を始めていますよ」


 そこで弥助と別の日本選手が近づき合い、おもむろに背中に腕を回し合う。


 ズキュウウウウウン!


 彼らは唐突にキスをした。


「ああっとこれはどういうことだぁ! 弥助選手がいきなりディープキスをしだしたぞ! 舌を絡ませ合って激しく頬を上気させている! これ、お昼の3時に放送してるんですけど!?」


「弥助選手、どうやら『新制度』を利用して勝利する目算のようですね。ご覧なさい、会場を。審査員たちがスタンディングオベーションですよ」


「えっ、審査員? サッカーにレフェリー以外の審判なんていましたっけ?」

 

「ええ、今年からワールドカップには新たな審査基準が設けられたのです。『試合中、ポリコレに配慮した行動を取れば得点が獲得できる』というシステムです。今回の場合は、ゲイ同士がキスをするというパフォーマンスをしたことが、審査員たちの心を掴んだのでしょう」


「ええっ!? でもそれってスポーツと関係なくないですか!?」


「はい、ありません。ですが今の世の中はスポーツマンシップに則ることよりも、ポリコレに適った行動を取ることこそ何よりも賞賛されるのです。現にネットフリックスなどの動画サイトでは、ゲイやレズビアンがセックスするシーンが度々ドラマや映画にねじ込まれます」


「ええっ!? スポーツを見に来てるのに何でゲイやレズの絡み見ないといけないんだよ! ああっ日本の観客たちが舌打ちしながら帰っていく! 視聴率もどんどん下がってきてるぞぉ!」


「ええ、ですがこのパフォーマンスによって日本は逆転を果たせました。見てください、審査員席を。実写版白雪姫の役に抜擢されたレイチェル、Ubisoftお抱えの歴史捏造学者ロックリー、シン・アカデミー賞創設者であり元CEOのハドソン、みんな感涙しながら弥助選手に拍手を送っていますよ」


「あれっ? その人たちって過去に世界中で大炎上した人たちじゃ……」


「はい、そうです。ポリコレの容認が進むあまり、ポリコレ過激派たちがワールドカップにも手を広げてきたのです。もはや彼らにとってスポーツの試合結果などどうでもいい。いかにポリコレを世界中に染めることこそが彼ら狂信者たちの関心事項なのです。ホワイトボードを見てください」


「ああっと! いつの間にか日本が94点になってるぞ! 現在ブラジル対日本、33ー94で圧倒的に日本の優勢だぁ!


 おおっと、観客たちが帰っていく! 今度は日本人だけでなく海外の観客たちも唾を吐き捨てながら帰っていくぞぉ!


 ああっとブラジル選手、ここでブチ切れてホワイトボードを破壊だぁ! ああまた海外の警察に取り押さえられてる! 全員連帯責任で現行犯逮捕! ブラジル側の選手がいなくなったことで日本の勝利だぁ!」


 ディープキスをしていた弥助は歓喜して咆哮を上げる。

唐突に尻から旗を取りだし、「独島は韓国の領土」というメッセージを掲げながらグラウンドを駆け巡った。


「黒人ハ日本ノ誇リ! 黒人ハ世界ノ誇リ!!」


 恐らく旗に何が書かれているのかすらわかってない。


「おいゴルァッ!! こんなふざけた試合しやがって!! 俺様ポリコレ大っ嫌い!!!」


 だがそこに突然ヘリが現れる。扉から飛び降りたのは、何と現アメリカ大統領のドナルドだった。


「不法移民、絶対許すまじ!! ゲイレズトランス、絶対許すまじ!! アメリカファースト!! アメリカファースト!! お前ら全員関税100%だぁ!!!」


 ウクライナ戦争の軍事特需で大量生産した、ドローン爆撃機をドナルドは放つ。

観衆たちは阿鼻叫喚となり、やがて爆撃に巻き込まれて会場は死屍累々となった。


「コノ野郎! ポリコレヲ認メナイ奴、黒人ヲ馬鹿ニシテルノト同ジ! アノ日仕留メ損ナッタ雪辱、今日ココデ晴ラシテヤル!」


 弥助は腰から機関銃を取りだし(もはや刀ですらない)、それをドナルドに向かって乱射した。


「ウ、ウオオオオオオオオッ!!」


 ドナルドは耳から血を流しながらも、雄たけびを上げながら立ちあがろうとする。

だがついにポリコレ破壊神、ドナルドは膝を屈して絶命した。


「黒人ノ勝利! ポリコレノ勝利!!」


 弥助は「独島は韓国の領土」の旗を掲げながら、再びグラウンドを駆け巡る。

審査員たちは絶叫して失禁しながら感涙し、弥助の雄姿に万雷の拍手を送った。


「ヤ・ス・ケ!!! ヤ・ス・ケ!!! 多様性の時代!!! 多様性の時代!!!!」


 審査員席から、何度も弥助の名前がコールされる。

グラウンドでは弥助以外の日本人選手が全滅しており、サッカーボールが音もなく会場の隅に転がっていた。


「ああもう滅茶苦茶だよ!! こんなもんスポーツの祭典じゃなくてポリコレの祭典じゃねぇか!! 日本はいつからこんなポリコレ狂信者で溢れ返っちまったんだよ!!」


 アナウンサーの叫びに、解説の佐藤は静かに首を振る。


「外国の連中は放っておくと、どこまでも増長して日本を侵略するんですよ。今まで事なかれ主義で誰も抗議しなかったから、日本は被害者面してSNSで文句を言うことしかできない」


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