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不老不死にはわからない  作者: ある
対の二人
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学園

 学園長は、二人に背を向けると、そのまま歩き出した。

 年老いた背中だが、足取りは確かで、迷いがない。ここが自分の場所だと、身体が覚えているような歩き方だった。


「こちらじゃ。訓練場は少し奥にある」


 学園の内側は、門の外から感じた静けさとは違っていた。

 広い廊下が幾筋も枝分かれし、その両端には背の高い扉が整然と並んでいる。扉の横には、それぞれ用途を示す看板が掛けられていた。


 ――《基礎魔術訓練場》

 ――《魔力応用実験室》

 ――《元素干渉研究区画》


 扉の向こうからは、低く唸るような魔力の波動や、かすかな衝撃音、呪文の詠唱が漏れ聞こえてくる。


 存在は歩きながら、ふと小さくつぶやいた。


「……中に入ると、魔力が乱雑ね」


 男は思わず彼女を見る。


「乱雑、か……」


「ええ。整っていないという意味ではないわ。ただ、性質が違うものが、同時に動いている。絡まり合って、ほどけないまま流れている感じ」


 学園長は足を止めず、ゆったりとした声で応じた。


「無理もあるまい。この学園には、戦闘に身を置く者もおれば、静かに研究に没頭する者もおる。魔法の使い方も、目的も、皆ばらばらじゃ」


 廊下の先で、重い扉が開閉する音が響いた。

 直後、荒々しい魔力の余波が流れ込み、存在は一瞬、目を細める。


「落ち着かないわね」


「ふむ。そう言われることも多い」


 学園長は苦笑しながら続ける。


「だが、それもこの場所の在り方じゃ。混ざり合うことでしか、生まれぬものもある」


 少し歩いたところで、存在が再び口を開いた。


「……よくわからない魔力も、感じる」


 学園長は、今度は足を止め、振り返った。


「さすがじゃな。気づくか」


 彼は廊下の奥、ひときわ分厚い扉の方を見やる。


「近年、この学園では新たな魔法体系が生まれつつある。人間の“科学”と、従来の魔法を組み合わせたものじゃ」


 男の目が、思わず見開かれる。


「科学と……魔法?」


「うむ。最初はな、まったく噛み合わんかった。理屈は通るが魔力が拒み、魔法は成立するが再現性がない。互いに反発し合っておった」


 学園長は、杖を床に軽くつく。


「だが、長年の研究でな。少しずつ、折り合いがつくようになった。今はまだ実験段階じゃが、いずれは人々の暮らしに落とし込むことを目指しておる」


「……凄い」


 男の声は、思った以上に弾んでいた。

 子供のように、純粋な驚きと興奮が、その瞳に宿っている。


「そんなことが、ここで……」


 学園長は、その横顔をじっと見つめ、ふと呟いた。


「君……昔、この学園の試験に来た子じゃな」


 男は、ぴたりと足を止めた。


「……え?」


 学園長は、ゆっくりと頷く。


「覚えておるぞ。その魔力。控えめだが、癖がある。ここの門をくぐる者は皆、成長や成功に胸を躍らせておる。だが君だけは違った」


 男は、言葉を失う。


「君はな……まるで遊びに来た子供のように、楽しそうに試験に挑んでおった」


 学園長は遠い目をする。


「合格すると思っておった。才能が突出していたわけではないが、魔法に向き合う姿勢が良かった。だから、来なかったことが不思議でならなかった」


 存在は、そっと男を見る。


「……」


「魔法を使える者が、入学を拒むことはほとんどない。君だけじゃ。だから、印象に残っておった」


 男は視線を落とし、気まずそうに笑った。


「……情けない話です」


 学園長は、首を振る。


「人生とは、わからんものじゃ」


 そして、柔らかく続けた。


「もう二度と会えぬと思った者と、違う形で再び出会うこともある。あるいは、新たな可能性として、目の前に現れることもな」


 彼は、存在へと目を向ける。


「君がな……こうして“妻”として、これほどの魔法使いを連れて来てくれるとは」


 学園長は、ふぉっと笑った。


「長生きは、するものじゃな」


 三人は廊下を抜け、外へと出た。

 視界が一気に開ける。


 そこは、丘のように緩やかに盛り上がった広大な訓練場だった。

 遠くには、子供たち――生徒たちが集い、思い思いに魔法を放っている。火球が弾け、水が舞い、風が渦を巻く。


 ざわめきと笑い声が、風に乗って届く。


「今日はな、見学だけでもよい」


 学園長は、穏やかに言った。


「何か指導したくなれば、それも自由。ただ……まずは、この場所がどんな学園か、肌で感じてほしい」


 男と存在は、顔を見合わせる。


「行こうか」


「ええ」


 二人は、並んで歩き出した。

 子供たちのもとへ。


 学びの場の中心へと、足を運びながら――

 それぞれが、胸の内に小さな予感を抱いていた。

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