↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不老不死にはわからない  作者: ある
第二章 誰かになる、そのまえに 「魔法訓練」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/85

隠せない匂い

 庭の小道に、ふわりと足音が降りた。


 存在は裸足のまま外へ出ていた。陽を受けた芝が、まだ少し冷たくて気持ちよかった。

 数歩先、弟が火球を操りながら振り返る。まだ幼さの残る顔立ちだが、その瞳には芯がある。

 十一歳くらいの、年相応よりも少しだけ背伸びをしたような印象の少年だった。


「やっぱ来たな。姉ちゃん……いや、お前、魔力あるだろ」


 挨拶代わりにそう言い放つ。

 存在は軽く目を細めるだけで、返事はしない。弟は構わず続けた。


「隠しても無駄。そういうの、わかるんだ。魔力ってのは、匂いみたいなもんだからな」


 弟は誇らしげに胸を張った。


「俺はすごいんだぞ。魔力量も、感知精度も学校の教官が驚いたくらいだし……兄貴よりずっとな!

兄貴の魔法じゃ、火種にすらなってなかった」


 声が裏返るほど嬉しそうに話す弟を、存在はじっと見つめていた。

 その視線に気づいたのか、弟がふいに表情を引き締める。


「……だからさ、お前みたいにコソコソしてるの、ちょっとムカつくんだよ」


「コソコソ?」


「そう。わざと“普通っぽく”してんだろ? でも、お前の魔力、透けて見えてるぞ。静かで、形が崩れない……っていうか、全然漏れてないのに、なんでだ?」


 それは、普通の魔法使いではあり得ない精度だった。

 弟は“すごい”とは思いながらも、あくまで「上手い人」程度の認識にとどめている。

 存在の魔力操作であえて、そのくらいと錯覚させてるのだが。


 存在は、そんな弟の真っ直ぐな視線に少しだけ口角を上げた。


「……あなた、面白いわね。目も、心も、真っ直ぐで」


「褒めたって何も出ないぞ。俺は強いんだからな。弱いヤツは守るって決めてるし、兄貴も、まあ、俺がいなきゃダメなときあるしな」


 存在が小さく吹き出すと、弟はふてくされたように顔を背けた。


「何笑ってんだよ」


「ええ、なんでも。……ねぇ、弟さん。そんなに力があるなら、ちゃんと制御しないと。さっき、草が燃えかけてた」


「ぅ……見てたのか。……あれは、風が急に吹いたせいだ。火は、気持ちが乗ると……こう、爆発するんだよ」


 言い訳のような言葉の中に、少しだけ自責の色が混じる。

 存在は、その複雑な表情を見逃さなかった。


「あなたの魔法って、感情とすごく近いのよ。だから、怒りや焦りが混じると、すぐ形が崩れるの。あなたの火は、今ちょっと、暴れ気味だった」


「……そういうの、教えてくれるんだ?」


「必要ならね」


「ふん。じゃあさ、俺が頼んだら教えるか?」


「頼み方によるかもね」


 弟はしばらく考え込んだあと、唐突に地面に座り込んだ。


「……よし、じゃあ! 試してやる! 勝負だ! 俺と魔法勝負!」


 唐突すぎる挑戦状に、存在は少し驚いたように目を瞬かせる。


「いきなりね」


「だって! 強いなら、ちゃんと見せろよ。俺に勝てるなら、教えてもらってもいいかなって思ったし!」


「なるほど。じゃあ、まずはあなたに認めてもらわないといけないのね」


「当然だ。俺、こう見えて兄貴よりずっと強いからな」


 その言葉に、ちょうど後ろから足音が近づく。


「おい、調子乗るなって……。今度は何してんだ?」


 男がやって来た。コップを片手に、少し眉をひそめて弟と存在の間を見る。


「勝負らしいわよ。魔法で」


「は? お前、相手誰だと思ってんだよ。怪我でもしたら……」


「だいじょーぶ! 俺の火、ちゃんと止められるなら、本物ってことだろ? それに……」


 弟は存在をちらりと見て、小さく肩をすくめた。


「この人、ぜってーただ者じゃねぇって、その澄まし顔……とってやるよ」


 その言葉に、男と存在の視線が交差する。

 その瞳の奥にある、言葉にならないものが、春風に紛れて揺れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。