表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

ACT.2 松本 圭子

 

彼女は常に生死の選択を与えてくる。

彼女も常に生死の選択に入っているから。


「『針谷 翔』を殺す作戦立案をしてください。」


彼女の一言でオンライン会議は騒々しく議論を始める。

翔の襲撃を生き延びた人間だけが参加出来る会議。

6名の重役がいて、組員はコメントで参加出来る仕組みだ。

古参の左々木組組長の左々木が、気合の入った面持ちでドスを効かせてこう言った。

「第三次討伐戦は毒で行こうと考えている。

我々の組の活動に、CIAからの支援の連絡が来た。

直訳すると『私たちの国にはサリンを散布するクラスター爆弾があります』だそうだ。」


「それで決行は何時?」


「はっ、明晩に防護服を着た突撃隊を組織して、夜戦をやりま」

左々木が画面に向かって破裂した。


コメントは鰻登りで「3回目キター」とはしゃいでいた。

針谷 翔の襲撃と思われるオンライン会議の物理的な破壊は、これで3回目になる。

「左々木」って目白だっけ?

あそこが襲撃されたんじゃ、しばらく新宿あたりも危ないな。


「まだ会議を聴いている方、CIAと連絡をとってサリンを入手してください。

 おねがいしますね。」


そう言うと松本 圭子は土下座した。

土下座のまま、左腕だけにゅっと素早くだして会議を終了させた。

カチッと。


組員公式数5万8千人の聴衆の一人の僕。

舌を刺されてまともに喋れなくなったから無口な時央と呼ばれている。

話す事をやめると、心が穏やかになり初めて物事を本気で考える様になる。

あの普通に美人な人妻は、この事を知っていたのか?

ここまで来ると、死は怖くないって。

だとすると、滅茶滅茶厳しい人たちが不意に魅せた優しさだったのかもしれないな。

さて、サリンでも取りに行くか。

「あうあー」と久しぶりに声に出して気合いを入れた。



中継襲撃から14時間経った。

その間僕は睡眠薬を入れて寝ていた。

起きてSNSを見る。

国が死んでた。


サリンを用いた特殊作戦の露呈から14時間目で、国土を爆撃するかしないかで大阪に移った臨時政府が強行採決に至ろうと儚い暴力を振るっていた。

ぽこ、ぽこ。と。

ダメだこりゃっと気が抜けて、地域組員のサーバーにアクセスする。

【誰々が死んだ〜統一板〜教えて】#18の掲示板を開く。

死にたくない等の文言の束の中に、資料付きの投稿があった。


CIAと大阪の国会は繋がっていて、関東を爆撃する。

避難勧告の後爆撃するが、避難勧告をする囚人ごと爆破する事で成功率を上げる。

被疑者「針谷 翔」は現在新宿の地下街でホームレスをしている。

サリン作戦は避難勧告と同時に進行し、地下のシティモールごと「除菌」する。

作戦は首脳部の一存のタイミングで決行する。


反吐がでる話だ。と思った。

奪うとか奪わないとかの次元の話じゃあないんだなと寝起きの僕は思う。

狙うなら、国が行う全部の公的な作戦が終わったあと。

針谷 翔が疲弊しきったその合間に決められるかどうか。

夜中の3時でも、一本道で新宿に飛んでいけて、かつ作戦司令室に近い安全なエリア。

秋葉原。

針谷 翔が武蔵野市から新宿に向けて移動しているなら、防衛省や警視庁を盾にして反対側。

これだな。と思った。

ここで待機していよう。

狩猟民族だと自称する僕は嗅覚を信じて秋葉原のビデオ個室に出かけた。



2時間後、夜の19時。

秋葉原で今1番賑わっているのは、萌じゃなく武器。

武装屋という個人商店が需要の増加で店舗拡大して半年で、秋葉原一のチェーン店舗になった。

取り扱う武具もミリタリーで、表通りは拳銃以外ならなんでもあった。

ここに来て、諸葛亮孔明の発明品「元戎げんじゅう」の現代版が流行るプチルネサンスな出来事を目の当たりにし、不覚にも涙がでた。

変な時代だなぁって。


「元戎は持っておいて損ないよ。」

そんな会話をしている如何にもなミリタリーオタクが大きめの声を出していた。

「ショットガン的に使えるのもあって、開けて閉じるの動作だけで徹甲矢を9Jで飛ばせるんだ。」

RPG気分で現地の勢いオタクに挨拶し、針谷 諒についてどう思うかミリオタの彼に聞いてみた。


「『レジェンド』だね。

いまやCIAクラスが本気で首突っ込もうとしている、メジャーリーグ級の殺人マシーン。

それが針谷 翔。

彼には色々な『通り名』があるけど、俺は『サイレンサー』って言うのがピッタリだと思う!

彼が音を嫌うという情報はレポートも多くて信ぴょう性高いしな。


僕は昔からこういう純粋な人たちに気に入られやすい。

話を最後まで聴くからだろうか?

最近知ったのは、純粋な人たちは俺が喋れないのを知ると、さらに色々親切にしてくれるという事だった。


「すまない、2時間もすっかり話し込んでしまった。」

そう言ってミリオタくんこと針谷 翔と2時間話をしてしまった。

秋葉原の公園で、コンビニで買った酒を6〜7本開けたあたり。

初めて酒を飲んだという翔やんは「君は本当の意味で、俺に話しかけてきてくれた最初の人間だ。」と言って泣いていた。

最初名乗られたときはキツイ冗談かと思った。

すぐに恐怖に置き換わる。

それほど深層心理化にある舌の痛みの記憶は冷徹だった。


「これはね、こう使う。」

泣き止んだ翔やんが元戎の矢を軽く放り投げると、3秒後にカラスがドサっと真上から落ちてくる

「慣れない事するからドジやっちゃった、ごめんね。」

カラスの爪が僕のメガネを半分ずり落としたあたりで止まり、頭を振ってカラスを落とした。

「矢はもうすぐだとおもうよ。」

そう言って腕を構えた翔やんは、パッと矢を掴んだ。

突然目の前に矢が発生した様にしか見えなかった。


観念した俺は、同時に翔やんを好きになってきていた。

どう考えても感じても、このままいれば翔やんが俺を殺す事はないと信じ始めていた。

謎だ。


「ゴム手袋をして、いじめっ子を遠距離から投石で殺そうと石をヤケクソで投げてみたら、突然対象が近距離で透視している様な感じでさぁ、視えたんだよノリだよ竹下紀三。」

「で俺元々ミリタリー大好きだったから、最初は自分のエアガンで気に入らないやつ撃ってたんだよ。

当たるし、別に殺すほどじゃないストレスには最適だった。」

「『いてっ』とかいって頭こする姿が見えた時はちょっとたのしいんだよな。」

彼の話を遮って、僕はこう言った。


お前の才能をもっと公にして、堂々と日の本を歩ける日が来る。

射撃でオリンピック金メダル取るだけじゃあない。

あらゆる遠距離の投擲の記録を打ち立てて、世界中から最も正確なスナイパー「サイレンサー」として生まれ変わるんだ。


酔って大きく出た趣きもあるが、真意だった。

巷じゃ人間潔癖症とか失礼な事言われれいるけど、本当じゃないだろ?

そう言うと翔やんは「そうだ!」と言ってまた泣きそうになりながら告白した。


「親がさぁ、酷いんだよ。

地獄だよあそこは、お前は子孫残すなって。

自慰もやめろって。

俺、勉強できる方だったのに塾辞めさせられてさ。

そんな中受験失敗したら親父エアガンや資料全部捨てたんだ。

キレたら殺せちゃったんだよ。

笑えるだろ?うちの親父キューピーマヨネーズのボトル頭に刺さって死んだんだよ。

キャップの部分ね。ここ大事だから。」


で親父さんのマヨネーズもボンしちゃったと。


「そうそう、スカッとしたなぁ。

お袋は俺にそこそこ優しかったから、殺さずに父親が死んだあとも面倒見る名目で実家いたんだ。」

でもマヨネーズから俺の指紋出てきて、逮捕されかけたんだよね。」


儚い親孝行だったな。


「それ以来よりゴム手袋大事になった。

ゴム手袋を買うためのゴム手袋もいるからね。」

1番最初にゴム手袋買いに行ったとき、たまたま店員の態度が悪かったから殺した。」


こら。と言って翔やんの刈り上げ頭を殴った。

そういう殺人は不徳だぞ。


「でももう殺しすぎちゃったよ。人間何にでも慣れるんだなぁとおもう。」


そんな強いんだったら、明治剣客浪漫譚みたいに不殺の誓いでも立てて少しセーブしろい。


「厳しい事言うなー時央は。」

そう言って笑った。


翔やん、見てほしい資料がある。

PCを起動して作戦の資料を開示する。


「え、マジ?」

お前は本当にお前が言う通り、メジャーリーグ級の殺人マシーンだよ。

彼は照れながら「怖そうなヤツに片っ端から物投げ付けた『だけ』だったんだがなぁ。」と言った。

「時央は親切だな、俺のことで助けてくれるなんて。」

殺人マシーンにも、友達の一つは必要だろ?

そう筆談に使ったメモ帳を見せる。


「ありがとう、こんな俺にありがとう。」

泣いている彼の肩を摩って、とり会えず新宿の作戦の様子を一緒に見守る事にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ