表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/35

元美少女のムキ髭ダンディ、かく語りき

巨躯の髭男――リアはいかにもお嬢様然といった口調で名乗りを上げた。視覚と聴覚の両方から取り込んだ情報に脳の処理が追い付かない。俺には見える。筋肉ダルマ(リア)を通して窓辺に佇む病弱な美少女の姿が……!

俺はジロリと横目でリースを睨む。こんなふざけたキャラメイクをするヤツなんざこの世に一人しか存在しない。俺の言わんとするところを察したのか、リースが慌てて弁明を始める。


「ご、誤解ですっ!リア様のお姿は彼女がお望みになられた姿そのもので……!」


「えぇ、確かにわたくしはあの日、病床で願いました。()()()()()()()()()に生まれ変わりたいと――。」


どこか遠いところを見るような目をしたリアが呟く。リースが必死にコクコクと首を縦に振っているが、要するに病気とは無縁の健康的な肉体をオーダーしたら筋肉ムキムキの髭ダルマにされたってことだろ?コイツ(リース)はまず自分の病的なセンスをなんとかするべきだ。


「リースティア様には本当に感謝していますわ。」


訂正。この人(リア)のセンスも大概だった。俺か?俺がおかしいのか?


「えぇと……やっぱりリアも懸賞で転生チケットを当てたのか?」


「いいえ。わたくしの場合は不治の病に侵され余命幾ばくも無く……最後に甘いものが食べたいと爺やにお願いしたところ、買ってきてもらったチョコレートの包装の中にチケットが入っていたのです。」


チョーリーとチョコレート工場かよ……。えらく手の込んだ仕掛けだがそれも女神(リース)がわざわざ仕込んだのか。というかあの転生チケットって世界に何枚くらい存在したんだ。


「ざっと100枚はばら撒きました!ですが皆様、せっかくチケットを手に入れてもゴミ箱にダンクされる方がほとんどで……。」


まぁ、『異世界に転生できるチケット』なんて見るからに怪しいもんな。俺みたいに望んで入手したわけじゃないのなら……人生が充実している奴には必要ないものだろう。というか人の思考を読むんじゃない。


「わたくしはこうして生まれ変わることができ、本当に感謝しているのです。逃れられぬ死の影に怯えていた私に第二の人生を与えてくれた……両親も爺やも涙ながらに見送ってくれましたわ。」


家族公認かよ。すごいな。転生もので家族公認ってあまり見ない気がするが……。まぁ、確かに娘が死んでしまうよりは、たとえ二度と逢えなくとも生きてほしいと願うものか……まさか筋肉髭ダルマにされているとは夢にも思わないだろうが。


「とにかく同じ転生者に出会えて嬉しいよ。よかったらしばらく一緒に行動してくれないか?」


同じ境遇の相手がいるのは心強い。それにリアは俺より先にこの世界へ転生しているのだから、俺よりも情報を持っていると考えるべきだろう。俺の提案にリアは嬉しそうに頷く。


「それは素敵な考えですわ!わたくし、幼少の頃よりずっとお友達もおらずひとりぼっちでしたから……よろしくお願いいたしますわ、アリス様!」


バリトンボイスにですわ口調って人の脳をバグらせるんだな。悪魔も二度聴きどころか三度聴きするレベルの合体事故だろ、などと考えながら俺はリアのゴツすぎる手と握手を交わす。最後に誰かの手に触れたのはいつだったか……リアの手は武骨だが温かかった。


「私も忘れないでくださいっ!」


言いながらリースも小動物としての小さな手――前脚か?を俺たちの手の上に乗せる。見た目だけは少女の俺と中身が令嬢の大男に小動物の姿をした女神……なんとも珍妙な組み合わせだが、不思議と安心するのは俺も天涯孤独(ひとりぼっち)だったからだろうか。俺たちはしばし談笑したのちに今後の指針について考える。


「やっぱり先立つものは必要だよな……となるとギルドで依頼を請け負うしかないか。」


「そうですわね。何か特別な技術があれば商売でもできそうなものですが……。」


技術……技術か。確かに今の俺が討伐系の依頼を請け負うことは難しい。とはいえ俺自身も商売ができるほどのスキルがあるわけでもない。何か閃きそうではあるんだが……。いや、まずは明日の宿代を確保したい。ここはやはりギルドに出向いて依頼を確認するべきだろう。


「よし、それじゃギルドに戻ろうか。さっきのアイツ(酔っぱらい)、いないといいけどなぁ……。」


「大丈夫ですわ!アリス様はわたくしが守ってさしあげます。」


なんとも頼もしい相棒だ。ニッコリと微笑むリアに苦笑を返し、俺たちは宿屋を後にした。

宿屋のおばちゃんは客に振る舞う晩御飯ディナーを作っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ