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元男子の美少女、冒険者デビューを果たす

城下町へと繰り出した俺は今後の活動方針について考える。情報を集めるなら酒場だろうが、あいにく今は手持ちが無い。今晩だけは宿屋に泊まれる手はずになってはいるが、このままだと明日からは野宿生活だ。どうにかして金を稼ぐ方法がないか、俺はすっかり肩の上が定位置となった女神(小動物)に聞いてみる。


「なぁ、他の転生者はどうやって路銀を稼いでいるんだ?」


「そうですねぇ、皆様ほとんどが冒険者ギルドに登録をして、依頼をこなしていらっしゃるのではないでしょうか。」


どこか他人事のようにリースが答える。俺にはリースがついてきてくれてはいるが、他の転生者は自分の力だけでこの世界を生き抜いているのか……。俺の脳裏に猿人(エイプマン)に殺されかけた時の記憶と恐怖が蘇る。あのまま死んでいたら俺の二度目の人生も幕を閉じていたのだ。俺は改めて()()()()()()()()()()()()()()()()を思い知る。それに……。


「あのとき守ってやれなくてごめんな。」


俺の言葉にリースがキョトンとした顔をする。俺はあの瞬間、自分が逃げることに精一杯で、コイツ(リース)を守ることなどまるで考える余裕が無かった。まぁ女神だからなんとかなるのかもしれないが、それでもやはり罪悪感のようなものがぬぐい切れなかったのだ。リースはしばらく黙り込んだが、やがて笑顔を浮かべて俺の言葉に応える。


「アリス様が気にされることではありません!ついてきたのは私の方ですし、私こそ女神とは名ばかりで戦う力もなく……申し訳ありません。」


言葉の途中でリースの顔からは微笑みが消え、しょんぼりとしてしまった。戦う力を持たない女神か……世界を見守る身でありながら、魔王の脅威に自ら立ち向かうことができないのはさぞ悔しかろう。あぁ、だから転生者に頼っているのか。少しだけコイツ(女神)の気持ちが分かる気がした。


「まぁ、戦う力を持たない者同士、工夫と根性で乗り切るしかないよな!」


俺は努めて明るく言うと、宿屋のおばちゃんにもらった飴玉をリースの口に放り込んだ。


「ひゃっ!……あまいですぅ。」


ふにゃっとリースの表情が溶ける。そうそう、人間も女神も笑顔が大事ってな。そんなこんなで冒険者ギルドに到着だ。討伐系の依頼は無理でも薬草採取とか掃除とか、何か俺でもできそうな依頼があるといいんだけどなぁ。


ギルドの扉を開けると、複数の視線が俺に向けられるのを感じた。好奇、嘲笑、その他形容しがたい何か……種類は違えど複数人から見られるのは気分の良いものではない。俺はスタスタとカウンターに歩み寄ると、受付らしき女性に要件を伝える。


「ギルドに登録したいんだが。」


リースが渋い顔で俺を見る。何が言いたいのかは想像がつく、女性らしく振る舞えというのだろうが疲れるんだよあれ……それに冒険者ギルドなんて場所でかよわい淑女プレイなんてしてみろ、舐められてカモられるのがオチだぞ。まぁ、今の俺は失うものすら持ってないんだけどな。いっそこの喋る小動物(リース)でも売り飛ばすか、などと考えていると、受付の女性――女性というより女の子だ、(アリス)と同じか年下の可能性すらある――が緊張した様子で口を開く。


「ぼ、冒険者ギルド王国支店へようこそ!ギルドへのご登録ですね!それではこちらにお名前をご記入くださいっ。」


わたわたとカウンターの奥から羊皮紙を取り出し、俺に手渡す受付の少女。なんとも庇護欲をそそられるというか、大丈夫か?と心配になってくる。手渡された羊皮紙に名前を書き、受付の少女に提出すると少女は何やらパスポートのようなものを懐から取り出した。少女のポケットはよく見れば同じようなものがこれでもかと詰め込まれパンパンに膨らんでいる。俺が手渡されたものも心なしかよれてしまっている……。


「こちらはっ、冒険者の証です!こ、これがあれば世界各国の冒険者ギルドで依頼を受けたり、アイテムの査定を行ったりすることができますっ。」


俺は冒険者の証を受け取ると、何やら達成感を噛みしめている様子の少女に礼を言ってギルドの隅にあるテーブルへと移動する。たぶん、この仕事を始めて間もないんだろう。それにしても随分と簡単に登録できてしまったが、これで俺も冒険者か……と感慨深いものを感じていると、まだこちらを見ていた少女の視線に気づく。俺と視線が合った少女は慌てた様子で俯くと、何やらガサゴソと書類を弄り始める。心なしか頬が赤い気がするが……。

気を取り直して依頼書だろう紙が何枚も貼り付けてある掲示板へと向かう途中、いきなり背後から野太い声に呼び止められた。


「お嬢ちゃん、見ない顔だねぇ。見ればろくに戦う力もないようだし、お金に困っているのかな?よかったらおじさんのパーティーに入るかい?」


ゲタゲタと下卑た笑いを浮かべながら馴れ馴れしく話しかけてくる男――世界が違っても()()()()()()はいるんだな――を一瞥し、さてどうしたものかと考える。こういう輩とは関わらないようにするのが一番だが、はたして上手くお断りできるかどうか。


「ありがたいお申し出ですが、今は誰とも組むつもりはありません。お気遣い感謝いたします。」


にっこりと微笑んで丁重にお断りする……男は一瞬ためらったようだが、すぐに顔を赤くしてまくしたてる。


「いいねぇいいねぇ!おじさんと世界救っちゃう?一緒に魔王倒しちゃおっか!」


……どうやら逆効果だったらしい。酒臭い息を吐きながら嬉しそうに距離を詰めてくるオッサン――あまりにも気持ち悪いな、魔物として殺しても誰も文句は言わないんじゃないだろうか――の手が俺の肩に伸びそうになったそのとき――。




「やめろ」




酔っ払いの声よりもさらに低く、熊の唸り声を連想させるかのような野太い声が辺りに響き渡った。

受付の少女:実は今日が初仕事の新米受付嬢。はじめての客がとんでもない美少女アリスだったため、いつも以上にテンパってしまっている。好物は苺のジャムをたっぷりと塗った食パン。未だにぬいぐるみと一緒じゃないと眠れないことをひた隠しにしている。

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