表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/35

元男子の美少女とイケメン騎士の馴れ初め的な何か

目が覚めるとそこは見知らぬ居室だった。確か俺は猿の顔をした獣人に襲われて……。


「気がついたか?」


部屋の入り口には騎士風の青年……そうだ、俺はこの青年に助けられ、そのまま気を失ってしまったのだ。この部屋まで彼が運んでくれたのだろう、やわらかなベッドの感触に恐怖心が少しずつ薄れていくのを感じる。あれほど死を間近に感じたのは初めてだった。ふと顔を傾けると、リースが心配そうにこちらを覗き込んでいる。俺は頷いて大丈夫だという意思を示してみせると、上半身を起こして青年へと向き直る。


「助けてくれてありがとう。アンタがいなけれう゛ぁっ!?」


鳩尾に衝撃。リースが()()()()と微笑みながら俺を威圧している。


(アリス様、あなたは今や女の子、立派な淑女なのです。もう少し上品な言葉遣いでお願いいたしますわ。)


頭の中に声が響く。念話というやつか……死にかけたヤツ相手にドロップキックをかましておいて上品もクソもないと思うけどな。俺は小動物(リース)を無理やり押しのけると、改めて青年に礼を述べる。


「えっと……助けてくださってありがとうございます。貴方がいなければどうなっていたことか……命を救っていただき感謝いたします。」


慣れない言葉遣いだ……。隣でウンウンと満足そうに頷いているリースは無視することにしよう。


「気にすることはない。この辺りには凶暴な魔物も多い。とりわけ君を襲おうとした……我々は猿人(エイプマン)と呼んでいるが、ヤツらは非常に好戦的だ。君は見たところ冒険者のようだが、どこから来たのか教えてくれないか?」


口調こそ柔らかいが青年の目は鋭い。王国に入り込む間者(スパイ)とでも疑われているのだろうか。無理もないが、かといってどこから来たかなんて答えられるはずもない。なにせ俺はつい先日までこの世界の住人ではなかったのだから。俺がどう答えるべきか逡巡していると、騎士風の青年は先ほどよりも優しい声音を含んだ口調で話し始める。


「すまない。君を疑っているわけではないんだが、仮にも私はこの王国を守る騎士だからな……不躾なことを聞いてしまってすまなかった。誰しも人に言えない事情というものはあるだろう。」


これは……早速CHRの効果が発揮されたのか?()()()()()()()()()()()()()()()()……俺が見るからにスパイです!というようなフェイスをしていたら、この青年も簡単には俺を解放しなかったかもしれない。最初こそポンコツ極まったキャラメイクだと思っていたが、なかなかどうして、これは思った以上に有用かもしれない。

俺の考えていることを察したのだろう、隣でリースがどや?どや?と言いたげな表情を……見なくてもわかる、渾身のドヤ顔を披露している気配がするが、俺は黙ってフル無視を決め込む。鳩尾の痛み、まだ消えてないからな。

俺のしかめっ面を誤解したのか、青年はますます声を優しくして話しかけてくる。


「そう緊張しないでくれ。私の名はヴィルハイム、よければ君の名前を教えてくれないか?」


ふっと表情を柔らかくして微笑むイケメン騎士(ヴィルハイム)……なるほどすごいイケメンぢからだ。イケメンで?気遣いもできて?命を救われて?俺が女子なら惚れていたかもしれない。そのまま王国に永住してハッピーエンドだ。


「私は……アリス。」


「アリスか。何か困ったことがあれば、騎士団員の詰め所を訪れるといい。私の名前を出せば入れるようにしておこう。君の旅路に女神の加護があらんことを。」


何やら胸の前で両手を組み、敬礼めいたポーズを取ってヴィルハイムは颯爽と立ち去っていった。今まさに俺の隣でふんぞり返っている小動物が実は女神だと知ったら、あの堅物そうな騎士はどんな反応を示すのだろうか……想像して苦笑するが、彼にはかなり世話になってしまった。騎士団員の詰め所か、また礼をしに行かないとな。それにしても、ここは王国の宿屋だろうか?俺、金なんて持ってないんだけど……。





「いいんだよぉ!ヴィルちゃんからちゃぁんと代金はいただいてるからね。アンタは安心して休んでいきな!外でこわい目にあったんだろ?かわいそうにねぇ。」


宿屋の女将――見るからに恰幅のいい気さくなおばちゃんだ、に恐る恐る話しかけて帰ってきた台詞がこれだ。これはいよいよ本格的にあの騎士に足を向けて寝られないな……菓子折りでも持っていくべきだろうか。


「あのヴィルちゃんが女の子を連れてくるなんて……あたしゃ感動しちまってねぇ。それもアンタみたいなべっぴんさんを!あの子は昔っから、俺は剣に生きる剣に生きるって……このままじゃお嫁の貰い手がなくなるんじゃないかって心配してたんだよ。」


アタシがもう少し若かったらねぇ!と豪快に笑う女将に背中をバシバシと叩かれながら、「ヴィルちゃんをよろしくねぇ!」と頼まれる。曖昧な返事をしながら俺は宿屋の扉を開け、城下町を探索することにした。

宿屋の女将:恰幅のいい体格をした豪快なおばちゃん。ヴィルハイムが幼い頃からよく面倒を見ていた。ヴィルハイムの行く末を(結婚的な意味で)本気で心配していたが、言葉だけを見れば確かに「ヴィルハイムが連れてきた」アリスを一目で気に入り、いい感じになってくれたらと期待している。昔は王国一の美女と謳われたこともあったとかなかったとか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ