元男子の美少女、ポンコツ女神のキャラメイクに慄く
俺は小動物へと変身した女神――リースティアを肩に乗せると、廃教会を後にした。どうやらこの教会は高原の丘の頂に位置していたらしく、眼下を一望すると遠くに城らしきものが見える。
「リースティア……長いからリースでいいか。あの城について教えてくれないか。」
「女神の名を略すなんて不敬です!ですが特別に許しましょう。『アリス』と『リース』……どちらも3文字でおそろいですねっ。」
俺の肩の上でキャッキャッとはしゃぐ小動物のまさしく小学生のような感想(好きな人の名前と最初の一字が同じだったとかそういう)を適当に聞き流しつつ、俺は本題に入る。
「まずは世界の現状を把握しないと魔王討伐もへったくれもあったもんじゃない。必要なのは情報だ。特に現地に暮らす人たちの話を聞いておきたい。あそこに城下町はあったりするのか?」
魔王討伐……自分で言っておいてなんだが、やはりあまりにも現実離れしすぎている。そもそも俺はこの世界に来たばかりだ。世界を救う義理もなければ動機も薄い……現世に未練が無かったことは確かだが、だからといって転生して「はい、魔王を倒します!」とはならないだろう。他の転生者は皆、素直に魔王を討伐せんと命を張っているのか……?
「ま……アリス様!聞いておられましたか?女神の話は聞かないとバチがあたりますよっ!」
ふと我に返ると、耳元でリースがプンプンと怒っていた。どうやら長考しすぎてリースの言葉が耳に届いていなかったらしい。世界への疑問、己の在り方、他の転生者の存在……気になることは色々あるが、考えることは後でもできる。今は目の前のことに集中しよう。
「悪い、わざとじゃないが聞いてなかった。すまないがもう一度教えてくれないか?」
「しかたがないですねっ。あの城はノースタッド城……神聖ノースタッド王国の国王が住まう居城です。城下にはアリス様のおっしゃるとおり城下町がありまして、なかでも酒場の裏メニューである『ワイルドラビットの炙り焼きボルケーノ風』は女神をも唸らせる逸品で……』
オーケー、そこまで聞けば充分だ。俺は涎を垂らして夢想するリースを放置し、旅立ちの前に自身のステータスや装備を確認することにする。
アリス Lv1
HP:60
STR(筋力):5
DEX(器用さ):12
ⅤⅠT(丈夫さ):3
AGL(素早さ):15
MAG(魔力):7
CHR(魅力):50(20+20+10)
LUC(運):10
武器適正
短剣:S 片手剣:C 双剣:A 両手剣:E 片手斧:D 両手斧:E 槍:B 棍:C 弓:D
武器:初心者の短剣
頭:ヘアバンド
胴:布のドレス
脚:
足:革のブーツ
飾:女神のイヤリング(CHR+20)
……。
随分と偏ったステータスだ……。女性ゆえ非力なのはわかるとして、この馬鹿げたCHRの数値はなんなんだ。(20+20+10)……初期数値が20ということか?女神のイヤリングの効果で+20はいいとして、残りの+10は一体……。
俺の考えていることを察したのだろう、リースが得意そうに口を開く。
「ふふふ、転生者は初期ボーナスとして10ポイントを好きなステータスに割り振ることができるのです!もちろん私の最高けっさk……げふん、超絶美少女のアリス様にはCHR(魅力)に全振りさせていただきましたわー!!!」
たわー……たわー……たわー……とリースの声がこだまする。だめだ、誰か俺にバファリソとパンシロソをくれ。いや待て、まだCHRの効果を聞いていない。仮にも世界を救わせる気の女神がこうも重視しているのだ。万に一つではあるが、非常に重要なステータスである可能性も捨てきれない……。
「なぁ、CHRが高いと何かいいことがあるのか……?」
「はいな!お店でオマケをもらえたり、異性のみならず同性からも好かれたりしまぁす!」
ドヤァ……と胸を張るリース。俺は怒るべきなのだろうかと逡巡する。普段からあまり怒り慣れていない……というか天涯孤独だった前世では怒るような相手もいなかったしな……どうリアクションしたものかと迷っていると、黙ってしまった俺に不安になったのかリースが「私、また何かやっちゃいました?」と言いたげな顔でこちらを見つめてくる。……この女神のタチの悪いところは、今までの所業をすべて『天然』で行っていることだ。悪気など微塵も無いのだろう。とはいえ。
「オマケはともかくとして、対人関係を良好に築けるというのは考えようによってはアドバンテージか……。」
転生したばかりのこの世界において、俺は一介の冒険者でしかない……頼る者もいなければ何をすべきかもわからない。とにかく情報が無いのだ。であれば、恐らくは人々から情報を得やすく、さらに友好的関係を築きやすいこのステータスはある意味理にかなっているとも言える。まさかリースのやつ、これを見越して……?
「問題ない。まぁ悪くないステ振りだよ。ありがとな。」
俺の言葉にパァッと表情を明るくし、俺の肩に乗りながら何やらモジモジくねくねと謎のダンスを踊り始めたリースを携え、俺は神聖ノースタッド王国への第一歩を踏み出した。
ワイルドラビットの炙り焼きボルケーノ風:女神をも唸らせる(女神談)ノースタッド城下町の酒場『踊る跳ね馬亭』の裏メニュー。酒場のマスターが所持するレアアイテム「尽きぬ溶岩の炎熱炉」を用いて文字通り溶岩で「炙った」兎肉の美味さは、国王も変装して食べに来るほど。
バファリソ:最後の一文字が怪しい鎮痛薬。その半分は『優しさ』でできている。もう半分は謎。
パンシロソ:やはり最後の一文字が怪しい胃腸薬。薬は用法・用量を守って服用しよう。