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6.令嬢の呼び出し

そこにいたのは令嬢たち四人。

私を連れてきた令嬢と合わせて五人。

同じ教室ではないけれど、見たことはあるから同じ学年だと思う。


どこの貴族家なのかは知らないけれど、

同じ学年に侯爵家以上の令嬢はいなかったはず。


そうなると伯爵家以下の令嬢たちということになるけれど、

全員が私に腹をたてているようだ。

にらみつけられ、周りを囲まれる。


「クラリス様、いい加減にしてください」


「……なんのことかしら」


「もっと真面目になってください。

 公爵令嬢が最低の基礎クラスにいるだけでも恥ずかしいというのに、

 課題を一度も出していないそうじゃないですか!」


「しかも、夜遊びまでしてジュディット様に心配させて!」


「ジュディット様に看病までさせるなんて、ありえません!

 王太子妃になる方なのですよ!?」


もう何度もこういう呼び出しをされているから慣れてはきたけれど、

何も言い訳できないのはつらい。


ついでにいえば、身分だけは公爵令嬢の私が、

伯爵以下の令嬢たちに頭を下げるわけにはいかない。


養女だとしても公爵家の名を傷つけることは許されない。

そんなことをしてしまえば処罰を受けるのはこの令嬢たちのほうだ。

お義姉様のために怒っているのだろうけど、少しは冷静になってくれないかな。


言いたいだけ言えば、少しはすっきりするだろうかと、

黙って聞くことにしたけれど、それが悪かったらしい。


何も言わない私に令嬢の一人が腹を立て、ぐっと髪をつかんだ。


「痛いっ」


「ちゃんと聞いているんですか!」


「やめて!手を離して!」


「これから真面目になると約束してくれなければ、この手は離しません!

 ジュディット様にもう迷惑をかけないと約束してください」


そんな約束できるわけがない。

だって、夜遊びなんてしたことないし、

課題だって特別クラスのを毎日している。


していないのは、真面目じゃないのはお義姉様なのだから。


でも、それを言えるわけもない。


髪をつかまれても約束しなかったからか、別の令嬢に突き飛ばされる。

地面に倒れた私に令嬢たちが近づいてくる。


何をされるのかわからず、怖くて身を縮こませる。

どうしよう。大きな声で助けを呼ぶべき?

でも、そんなことをすれば大騒ぎになってしまう。



「お前たち、何をしている」


低い男性の声に驚いて令嬢たちがそちらを向いた。


「え?王子殿下!?」


「うそでしょう!」


「公爵令嬢に何をしていると聞いた。答えろ!」


王子殿下……?

顔をあげたら、令嬢たちの後ろに男性が立っていた。

目が隠れそうな長さの銀色の髪の隙間から見える、咎めるような青い目。

あの時とは身長も体格も違うけれど、

綺麗だからこそ冷酷に見える表情は変わっていない。


あぁ、アレクシス様だ。

こんな恥ずかしいところを見られるなんて。

すぐに立ち上がろうとしたけど、右足首に痛みが走る。


「……痛っ」


「怪我をしたのか!お前たち、どう責任を取るつもりだ!」


「あの!怪我をさせるつもりなんてなかったのです!」


「そうです!クラリス様に真面目になってほしいと訴えていただけで!」


「ええ、ジュディット様に迷惑をかけないで欲しいとお願いしていて!」


自分たちは悪くない、ただ少しだけ熱意がありすぎただけだと、

令嬢たちが口々に訴える。


「これは王太子妃になるジュディット様のためで」


「ええ、王太子妃の身内に形だけとはいえ、こんな方がいるのが許せなくて」


「この国の未来のために呼びだしたのです!わかってもらえますよね!」


本気で自分たちは悪くないと思っているのか、

令嬢たちは平気な顔で言い訳を続ける。


アレクシス様はその言い訳を途中でやめさせると、

冷たい表情のまま令嬢たちに告げた。


「言い訳はいらない。お前たちが暴力ざたを起こしたことには変わらない」


 「「「「「え?」」」」」


「この学園の学生は全員の顔と名前を覚えている。

 当然、お前たちがどこの貴族家なのかもわかっている。

 処罰が決まったら、家の当主へと連絡する。

 わかったら教室へ戻れ」


「そんな!」


「お考え直しください!」


「学生会長として、この件を見逃すことはできない。

 王家からも処罰されたくなければ、今すぐここから立ち去れ。

 これ以上何か反論する気なら、学園内だけの処罰では済まさないぞ」


今なら学生としてのもめ事で済ませると警告され、

令嬢たちは肩を落として去っていった。

二人ほどまったく反省していないのか、私をにらんでいたが、

恨まれた所でどうすることもできない。


もう私に関わらないでくれるように祈るだけだ。


令嬢たちが去ると、アレクシス様は私へと近づいてくる。

その顔はさっきの冷たい表情とは違っていた。


「大丈夫か?どこを怪我したんだ?」


「あ、あの、足をひねってしまったみたいです。

 助けてくださってありがとうございました」


「足か……」


アレクシス様は少し考えるようなそぶりをした後、

座り込んだままの私を抱き上げた。


「ええ?」


「このままにしておくわけにもいかないし、事情を聞く必要がある。

 学生会室に連れて行くから、おとなしくしていてくれ」


アレクシス様に抱き上げられ、混乱して頭の中がぐるぐると回りだす。

どうしたらいいのかわからないで固まっていると、

そのまま近くの建物の中へと入っていく。


大きな扉をアレクシス様が足でノックすると、中から令息が出てきた。


「どうしたんですか!?」



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