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4.希望が消える

学園に入学して二週間。


お義姉様は楽しそうに通っている。

一度特別クラスの学生たちがお茶しているのを見かけたが、

特別クラスの令嬢はお義姉様だけで、令息三人に囲まれて笑っていた。


その一方で、基礎クラスに通う私は困り始めていた。


私はお義姉様が特別クラスで出された課題をするけれど、

お義姉様は私に出された基礎クラスの課題をしてくれない。


魔石を交換して登録しているため、

私自身が課題を解いて提出することはできない。


そのため、お義姉様にしてくれるようにお願いしているのに、

お義姉様はめんどくさいからと嫌だと一度も課題をしてくれない。


「嫌よ。課題をするのが嫌だから魔石を交換したのに、

 クラリスの課題をするわけないじゃない」


「でも!それじゃ困るの。

 私はずっと課題を提出できないことになってしまうわ」


「課題なんて提出しなくても退学にはならないわよ。

 公爵家なんだから、学園は文句言えないもの」


「そういうことじゃなくて!」


いくら公爵家の養女であっても、課題を出さなくていいわけない。

退学にはならなくても、教師から毎回注意をされるし、

教室で注意されるたびに他の学生から冷たい目で見られる。


「やっぱり今からでも魔石が違いましたって」


「馬鹿なの?そんなこと言えるわけないでしょう?」


「でも」


「クラリスは私に基礎クラスに行けって言っているの?

 王太子妃になる私に最低クラスに行けと?」


「……」


そう言いたいわけじゃないけど、これは間違った状態だから。

こんなことずっと続けていいわけないのに。


そう言いたかったけれど、お義姉様の機嫌を損ねたことに気づいて黙る。

でも、遅かった。

お義姉様は飲んでいたお茶を私の顔へとかける。


熱くはなかったけれど、服までお茶で汚れてしまった。


「もし、このことがバレてみなさいよ。

 公爵家の信用はなくなって、私は王太子妃になれなくなるかもしれない。

 その時はクラリスは責任取って家から出て行ってもらうわ」


「そんな……」


「だって、そのくらいしか責任取れないでしょう?

 役にも立たない居候なんて邪魔でしかないわ」


「でも……いつまでもこんなこと続けるわけにも。

 私がいなくなった時にお義姉様が大変なことになるのに」


ずっとお義姉様に言われるままに動いてきた。

それがお義姉様の評価を高めているのは知っている。

いつか、私が代わりをできなくなった時、

お義姉様はどうなってしまうのか心配だと思った。


「クラリスがいなくなる?どうして?」


「え?だって、私がどこかに嫁いでしまったら、

 お義姉様の手伝いはできなくなるでしょう?」


「ふふっ」


本当に心配でそう言ったのに、お義姉様は笑い出した。


「どうして笑うの?」


「クラリスはどこにも嫁がないわよ」


「え?」


「どこにも嫁がずに、ずっと私のために働くって決まっているの」


「どうして!?」


「クラリスも言ってたじゃない。

 いなくなったら私が困るからよ。

 だから、一生私のために生きてもらうって決まっているの。

 お義母様もそうするって言ってたわよ?」


「……うそ」


「嘘じゃないわ。公爵令嬢を名乗らせてあげているんだから、

 そのくらいの恩返しするのは当然でしょう?」


「そんな……」


お義姉様はそれ以上取り合ってくれなかった。

本気で私をどこにも嫁がせずにお義姉様のために働けというの?


あまりにもひどいと思ってお母様に訴えたけれど、

答えはお義姉様と同じだった。


「あら。そんなの当たり前じゃない。

 まさか、どこかに逃げるつもりだったの?」


「逃げるって」


「あなたは公爵が拾ってくださらなかったら、

 その辺で平民として野垂れ死にしていたのよ?

 一生かけてジュディットにお仕えするのは当然でしょう」


「……でも」


「口答えは許さないわよ!

 今日は食事抜きで反省しなさい!」


「……はい」


お母様が再婚しなかったら死んでいた。

それはそうだけど。


お母様はお義父様と再婚する前、モデュイ伯爵家に嫁いでいた。

だが、私を産んで二週間で伯爵令息は亡くなってしまった。

そのため、モデュイ伯爵は亡くなった長男に代わり、二男を後継ぎとした。


だが、二男にはもうすでに妻と息子がいた。


亡くなった長男の妻と娘は不要になり、生家のマイエ伯爵家に戻そうとしたが、

マイエ伯爵家はお母様の従兄弟が後継ぎとなっていて、

生家にも戻れそうになかった。


途方に暮れていたお母様を救ったのが、元王女の妻を亡くし、

まだ生後一か月のお義姉様の母親を探していたバルベナ公爵だ。


公爵は再婚しても子どもは作らず、

娘を母親として大事にすることを条件にしてお母様と再婚した。


再婚した時、お義姉様は生後二か月、私は生後一か月。

それから家族として暮らしてきた、つもりだったのに。


あくまでも私は居候で、お義姉様の役に立つことでここに置いてもらっている。

それを当然だと思えない私が悪いのだけど、どうしようなく落ち込んでしまう。


いつか、バルベナ公爵家から出る時には、

人並みの幸せを手に入れられるかもしれないと思っていた。


私を家族として愛してくれる人に出会えるかもしれないと。

その希望が消えてしまって、部屋に戻ってただ泣き続けていた。






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