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40.留学初日

次の日はアレク様が馬車で迎えに来て、マルス義兄様と三人で学園に向かう。

今日から留学生の二人が学園に来ることになっていた。


「アレク様は留学生と一緒に通わなくていいのですか?」


「ああ。学園の送り迎えはラファエルがしてくれることになった。

 なぜか夜会の後からやる気を出していて……。

 ジュディットが失敗したことを気にしているわけではなさそうだが」


「そうですか」


私たちはいつもどおり三人で学園に向かい、

学生会室でラファエル様と留学生が到着するのを待つ。


学生会の仕事をしながら待っていると、

授業が始まる直前になってラファエル様たちが到着した。


「ラファエル、遅いぞ」


「悪かった。初日だからいろいろとうまくいかなくて。

 明日からは早めに来るよ」


「もう授業が始まる。急ごう。クラリス、令嬢の方は頼んだ」


「わかりました」


ここからは三学年の特別クラスの方が遠い。

アレク様とマルス義兄様がラファエル様とエミリアン様を連れて出ていく。


『それでは行きましょうか、ブリジット様』


『ええ』


制服姿のブリジット様は夜会の時とはまた雰囲気が違う。

赤いドレスを着ていた時は華やかな感じがしていたが、

なぜか今の方が大人びて見える。


一学年の特別クラスに入ると、令息たちがこちらを見る。


「クルナディアからの留学生、ブリジット様です」

『ブリジット様、彼らは同じクラスの者たちです』


『そうなのね。ブリジット・モフロワよ。よろしくね』


可憐なブリジット様が微笑むと、令息たちは一斉に公用語で挨拶をする。

三人同時に挨拶するから少しも聞き取れない。

それを見たブリジット様が笑ってしまって、

令息たちは真っ赤になってますます収集つかなくなる。


どうしようかと思ったけれど、すぐに教師が教室に入ってきた。

ほっとしてブリジット様の隣に座る。


教師たちは普段はラデュイル語で授業をしている。

留学生が来ている間は公用語で授業をするように言われているらしいが、

完璧に話せる教師ばかりではない。


教師が公用語を間違えたり、ブリジット様の質問を聞き取れなかったりした場合、

私がその間に入ってやり取りをする。


公用語で解決できればいいが、説明がわかりにくかった場合などは、

クルナディアで説明を補足する。

ブリジット様は公爵令嬢なだけあって優秀で、

ラデュイル語を話せないこと以外は問題はなさそうだ。


令息たちもブリジット様に話しかけたそうにしていたが、

授業を真面目に受けているので、話しかける隙がなかった。


昼休憩になって、ブリジット様を食堂の個室へと案内する。

昼食はアレク様たちと一緒に取ることになっていた。


『エミリアン様!』


『授業はどうだった?』


『クルナディアとあまり変わらなかったわ。

 でも、公用語で授業を受けるのは面白かったかも』


『まあ、そうだな。公用語で授業を受ける機会なんてないからな』


ブリジット様は個室に入るとすぐにエミリアン様のところへ駆け寄る。

だが、その隣にはラファエル様が座っている。

隣に座りたかったらしいブリジット様は少し頬をふくらませる。


「クラリス、お疲れ。こっちにおいで」


「あ、はい」


アレク様に呼ばれ、アレク様とマルス義兄様の間に座る。

私に座らせるために空けてあったらしい。


ブリジット様はどうするのかと思ったら、

仕方なさそうにラファエル様の隣へと座った。


三人ずつ向かい合って座る形になっているので、アレク様がエミリアン様の前、

マルス義兄様がブリジット様の前になっている。


これでいいのかと思いながらも、不満に思っているのはブリジット様だけ。

もしかしたら、私たちが来る前に座席を決めていたのかもしれない。


学園の説明をしながら昼食を終え、また授業に戻る。

何事もなく午後の授業を終え、学生会室に向かう。


三学年の授業が終わるのを、ブリジット様と待つことになっていた。


『何か困ったことはありませんでしたか?』


『そうね。まずは、クラリスのその話し方が気に入らないわ』


『え?私のクルナディア語はおかしいですか?』


『違うわよ。クラリスのクルナディア語は完璧よ。

 そうじゃなくて、どうして同じ身分なのに私に様をつけているのよ。

 もっと普通に話してほしいわ』


『え……あの、身分は公爵令嬢なのですが、

 本当は伯爵家の生まれなんです』


『どういうこと?』


ブリジット様はこの国の王族や貴族のことは何もしらないで留学してきたらしい。

私がどうしてオダン公爵家にいるのかを説明したら、

なぜか目を輝かせている。


『違う公爵家に養女になるなんて方法があったのね!』


あ、これはよけいなことを言ってしまったかもしれない。

ブリジット様はお姉様が王太子妃だから、

第二王子であるエミリアン様の妃にはなれない。


実の姉妹だからどこかに養女に出すということも難しい、

アレク様がそう言っていた気がする。


それなのに、期待させてしまった?


無理だと言った方がいいのだろうか。

いや、アレク様は難しいと言っただけで、無理だとは言っていない。

私がダメだと言い切るのもおかしい気がする。


『まぁ、でも養女だから遠慮していたのはわかったわ。

 でもね、この国には誰も友人がいないんだもの。

 留学している間だけでも友人として話してくれない?』


『ブリジット様と私が友人?』


『ブリジット、よ』


楽しそうに笑うブリジット様の押しに負けて、私も笑ってしまう。


『わかったわ、ブリジット。友人としてよろしくね』


『ええ、ありがとう!』


ふふふと二人で笑い合っていたら、授業が終わった四人が戻って来る。


「なんだ、楽しそうだな?」


「はい。ブリジットと友人になったんです」


「友人?」


見れば、ブリジットもエミリアン様に同じ報告をしている。

昼休憩の時は少し冷たい態度だった気がするのに、

報告を受けたエミリアン様はうれしそうに笑っている。


嫌っているわけではなさそう。

婚約者ではないから、近づきすぎないようにしているだけなのかもしれない。


ラファエル様がエミリアン様とブリジットを連れて王宮へと帰る。

私とマルス義兄様はアレク様の馬車でオダン公爵家に向かった。


オダン公爵家に戻ると、お義父様とお義母様が待っていた。

昨日の魔石のことでアレク様と話がしたいと言っていたからだ。


お義父様に聞かれたアレク様は、やはり売られていた先を知っていた。


「バルベナ公爵家から魔石を買っていた伯爵家は十七家あった。

 魔石が手に入らなくなって、そのうちの七家は自分たちで作るようになった。

 残りの十家は他に売ってくれる家を探したようだ」


「十家も……」


「その十家に魔石を売る家があった。マルドレ侯爵家だ」


「マルドレ侯爵家が?」


「ああ。あの家は何人か上級がいる。

 伯爵家の十家分くらいは作れるだろう」


あのアナベル様のマルドレ侯爵家が代わりに売っていたとは。

夜会の時ににらまれたのを思い出す。

お義父様はマルドレ侯爵家が売っているのなら、

なぜ夜会で話がでたのか疑問に思ったようだ。


「では、なぜ夜会の時に新しく売ってくれる家を探していたのですか?」


「マルドレ家は魔石を売る時の条件として、

 アナベルがラファエルの妃になるために力を貸すことを条件としていた。

 それがラファエルの婚約者候補はジュディットだと発表されたことで、

 これから売らなくなるかもしれないと思って探したんだろう」


「そういうことでしたか……」


私にも手を組もうと言ってきたように、

伯爵家にも力を貸してくれるように言っていたんだ。

それが無駄だとわかって、これからどうするんだろうか。


「では、その伯爵家たちもあきらめて自分で作るようになりますか?」


「そうだといいんだがな。

 今までは魔石さえ納めていれば誰が作ったのかわからなくても問題なかった。

 これからは必ず誰が作ったのかわかるようにしようと思っている」


「誰が作ったのかわかるように……。

 それはクラリスのためですか?」


「……もう、搾取される者がいなくなるようにだ」


アレク様ははっきり言わなかったけれど、

私がそうだったから仕組みを変えようとしているのかもしれない。


「それが良いと思います。

 昨日、この話を聞いたら、クラリスは自分が作ればいいと思ったようで」


「は?そんなの許すわけないだろう」


「もちろんです。私と妻で止めました。

 ただ、クラリスは搾取されることに慣れ過ぎています。

 もう二度と、そんなことがないようにアレク様が守ってください」


「ああ、わかっている。クラリスはお人好しだからな。

 誰かが止めてやらなくては、いいようにされてしまう」


そうだろうか。私はそんなに性格がいいわけじゃないけど。

私のせいで誰かが困ったら、責められるんじゃないかって。

それが怖くて、なんとかしようとしてしまう。


「クラリス、もう誰も君から奪わない。

 誰かのために動かなくても、責めないから安心していい」


「アレク様……ありがとうございます」


「ああ」



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