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31.ようやく来た知らせ(ジュディット)

「はぁぁぁ」


大きくため息をついたら、侍女たちがびくついたのが見えた。

腹が立ったけれど、食事中だということもあって我慢した。


「ねぇ、お義母様はまだ戻らないの?」


「……はい。まだのようです」


「そう」


お義母様は数時間前にオダン公爵家に向かったまま帰ってきていない。

クラリスを連れ戻すと言っていたけれど、あまり期待はしていなかった。


それでもお義母様を行かせたのは、

万が一にでもクラリスが戻ってくればいいと思ったから。


学園でなぜか突然に試験を受けさせられた日、

クラリスがいないせいで体調不良だと言って早退してきたけれど、

お義母様では試験問題を解けなかった。


侍女の一人が上級クラスで卒業したと聞き、その侍女を呼んで解かせたものの、

やはり特別クラスになるのは無理だった。


それでも上級クラスなら恥ずかしくないと学園に行ってみれば、

初めて受ける授業は何を言っているのかさっぱりわからなかった。

教師に質問されても質問の意味さえわからず、

当然何一つ答えることはできない。

次第に同じクラスの学生たちから冷たい視線を感じるようになった。


仕方なく、まだ体調が戻っていないと言い訳をして帰ってきたけれど、

これからどうやって授業をやり過ごせばいいのかわからない。


お義母様にそのことを話したせいでクラリスを迎えに行ったのだ。

すぐに戻って来ると思っていたのに、こんなにも遅いと不安になる。


クラリスはもうすでにオダン公爵家の養女になったから、

関わらないようにとお父様が言っていた。

お義母様が一人でオダン公爵家に乗り込んでいったことで、

咎められていたりしないだろうか。


血のつながりはないけれど、お義母様のことは大好きだから、

私のわがままのためにお義母様が罪に問われるようなことは避けたい。


あまりにも遅いから先に夕食を取っていたけれど、食欲なんてなかった。

少しだけ口をつけて、使用人に片づけるように命じていると、

家令のカールが慌てたように食事室に入ってくる。


「ジュディット様、奥様がお戻りになりました」


「本当!?」


立ち上がって玄関まで迎えに行くと、

馬車からお義母様がよろけながら降りてくるのが見えた。


「お義母様!」


「ジュディット……ごめんなさい。クラリスを連れ戻せなかったわ。

 アレクシス様に止められてしまって……。

 帰らなかったら騎士に捕縛させるとまで言われたの」


「アレクシスがそんなことを!?」


いくら冷たいアレクシスでも、

バルベナ公爵夫人を捕縛するようなことをするだろうか。

少しだけクラリスが何かを言ったのかもと思ったが、

あの気弱なクラリスがそんな行動できるわけがない。

私に逆らうことなんて一度もなかったのだから。


じゃあ、どうしてアレクシスはクラリスを私から遠ざけるようなことをするんだろう。

私を婚約者候補に選ばなかったことといい、アレクシスが何を考えているのかわからない。


お義母様はクラリスを連れ戻せなかったことを泣きながら私に謝り始める。


「ごめんなさい……クラリスがいなければ、ジュディットが困るのに」


「お義母様が悪いんじゃないわ。戻ってこないクラリスが悪いのよ」


「ああ、ジュディットはこんなにも優しいというのに……。

 クラリスはどうしてあんな子になってしまったのかしら」


泣き止まないお義母様をなぐさめていると、馬車がこちらに向かってくる音がする。

こんな時間に誰だろう。お父様が王宮から帰ってきた?

ゆっくりと玄関前に着いたのは、王家の馬車だった。


「王家の馬車?」


「……何かしら」


王家の馬車から降りてきた使者にカールが対応する。

何かを受け取ると、使者は馬車に乗って帰っていく。


「カール、王家は何を?」


「ジュディット様宛のようです。これは……もしかしたら」


「これって」


見覚えがある美しい塗箱。模様は違っているけれど、これはもしかして。

カールから受け取って中を開けると、手紙が入っている。


開いて読んでみて、うれしさのあまりお義母様に抱き着いた。


「ど、どうしたの?」


「お義母様、ラファエルからよ。やっと来たの!

 私を婚約者候補にするって!」


「本当なの!よかった、よかったわね!」


「ええ、しかも、明日から王宮に住むように、ですって。

 学園には通わなくていいそうよ」


「王宮に?」


「そう!」


なぜ王宮に住むのかはわからないけれど、学園に通わなくて済む。

こんなにも待たせたラファエルに文句を言いたくなるけれど、

もう上級クラスの授業を受けなくていいと思うと笑いがこみ上げてくる。


「でも、王宮に行くなんて大丈夫?

 私は一緒についていくことはできないわ」


「……そっか。お義母様も一緒というわけにはいかないわよね。

 でも、会いに来てくれるでしょう?」


「……そうね。週に一度は必ず行くから」


週に一度はネックレスの魔石を交換しなければいけない。

あらかじめ数個は持っていけるだろうけど、いつまで王宮にいるかわからない。

お義母様に魔石を用意してもらわないと困る。


それにクラリスがいないのに王太子妃になって大丈夫なのか、

そのことは解決していなかった。

クラリスにやらせようと思っていた仕事、どうしたらいいんだろう。


「あ、そうだわ。良いことを思いついた」


「良いこと?」


「そう。私が王太子妃になったら、

 同じ王族であるクラリスを補佐につけてもらえばいいんだわ。

 めんどうなことは全部クラリスにやってもらえば問題ないもの」


「クラリスを補佐に?そんなことできるの?」


「王妃様にお願いしたらいいじゃない。

 アレクシスだって、王妃様の命令には従うでしょう?」


「それは良い考えだわ!」


「じゃあ、王宮に行く準備をしなくちゃね!」





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