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22.実力を試される時

学園に通ってもいいと言われたのは、

オダン公爵家の養女になってから十二日がすぎた時だった。


久しぶりに学園に通う私を心配してくれたのか、

アレク様がオダン公爵家まで馬車で迎えに来てくれた。


アレク様の手を借りて馬車に乗ると、

アレク様とマルス義兄様も乗り込んでくる。

三人で学園に向かうのは初めてだ。



「もう通っても大丈夫なのですか?」


「ああ。準備が思ったよりも早く終わったんだ」


「準備ですか?」


「ああ。全員の魔力筆を作り直させた」


「え?魔力筆を学園側が用意したのですか?」


「そう。内緒でね」


何を企んでいるのかはわからないけれど、

アレク様とマルス義兄様は楽しそうに笑う。


入学前に課題を提出した時、魔力筆は個人で用意した。

その魔力筆は学園内でも使用するため、全員が持ってきている。

それなのに新しく学園側が用意するなんて。


「これから何をするかは、クラリスにも教えることはできない。

 公平じゃなくなってしまうからね」


「わかりました」


「だけど、一つだけ約束して欲しい。

 もう二度と自分の実力を隠そうとしないでくれ」


「……はい」


自分の実力を隠していたわけではない。

言えなかったからだけど、同じことかもしれない。

基礎クラスだと言われても抗議しなかったのだから。


少し返事が遅かったからか、マルス義兄様までが不安そうに私を見る。


「クラリス、オダン公爵家の長女として、

 ちゃんと全力で頑張るって約束できるな?」


そうだ。今の私がすることはオダン公爵家として評価される。

長女として恥じないように頑張らなくてはいけない。


「ええ、全力で頑張るって約束します。

 アレク様とマルス義兄様に褒めてもらいたいもの」


「ああ、そうだな。

 クラリスなら大丈夫だと信じている」


「頑張ったら兄様がいくらでも褒めるからな!」


「はい!」


学園に着いたのは時間ギリギリだった。

アレク様は忙しいから仕方ないのかもしれないと思っていたら、

二人とも私を基礎クラスまで送ってくれるつもりらしい。


「教室まで一人で行けますよ?」


「ここのところ、ジュディットが基礎クラスに顔を出しているらしい。

 だから時間ギリギリにしたんだが、油断はできない。

 ちゃんと教室まで送るよ」


「あ、ありがとうございます」


この時間になったのはそういう理由だったのね。

……お義姉様、ううん、ジュディット様はまだあきらめていないんだ。


アレク様とマルス義兄様と一緒に基礎クラスに入ったからか、

教室内にいた全員がこちらを見て静まり返った。

下位貴族ばかりのクラスだから、王子や公爵令息と関わるのはめずらしいに違いない。


「じゃあ、終わったら迎えに来るから」


「はい」


アレク様が私の頭を軽く撫でて教室から出ていく。

こちらをずっと見ていた令嬢たちが、アレク様たちが消えた途端に話し出す。


「なに、あれ。調子に乗ってるんじゃないの?

 ずっとジュディット様は心配していたっていうのに」


「ジュディット様からアレクシス様を奪ったって本当だったのね」


「だからバルベナ公爵家から追い出されたんでしょう?」


「なのに、ジュディット様はお優しいから」


「今度はオダン公爵家に迷惑をかけるなんて、

 本当にどこまで厚かましいのかしら」


ああ、そういう風に見えているんだ。

どうしよう、オダン公爵家の名誉のためにも何か言わないと。

でも、身体がかたまってしまって、令嬢たちのほうに向けない。


「お前たちはオダン公爵家に文句でもあるのか?」


「え?」


「き、聞かれてたっ!?」


「あの、そういうわけじゃ」


「どういうわけで妹を馬鹿にするような発言をしたんだ」


聞きなれた声に驚いて振り向くと、

教室から出て行ったはずのマルス義兄様が後ろのドアから入ってきていた。


「マルス義兄様!?」


「クラリス、もうこんなバカなことを言われたら我慢しなくていい。

 父上か母上に言えば、こいつらの家なんて取り潰すことも簡単なんだ」


その言葉を聞いた基礎クラスの者たちの顔色が変わっていく。

今まで私の悪口をどれだけ言っても、バルベナ公爵家は何も言わなかった。

だから、私には何を言っても大丈夫だと思い込んでいる。


なのに、オダン公爵家の令息であるマルス義兄様が私を庇って怒っている。

公爵家の力を私のために使えると言い切ってくれた。


「マルス義兄様、心配させてごめんなさい。

 次からはちゃんと自分で言い返します」


「無理はするなよ。クラリスはアレクシス様の妃になるんだ。

 そのクラリスを面と向かって貶めるようなものはこの国に必要ない」


「わかっています。何かあればすぐに報告しますから」


「ああ、それでいい。

 それでは、頑張るんだよ」


「はい」


きっとこれをクラスの者に聞かせるために残っていたんだ。

役目を終えたようにすっきりした顔でマルス義兄様は教室から出て行った。


周りの者たちがさっきとは違う目で私を見ているのがわかる。

今までのことを後悔しているのか、

顔色を悪くしたままうつむいている者が多い。


少しして教師が教室に入ってきた。

教師だけでなく、事務員だと思われる男性も二人。


「今日はこれから試験を行う」


ええ!という驚きの声が重なって騒がしくなるが、

教師は気にせずに説明を続ける。


「今度、クルナディアから留学生が来る。

 学生の実力を正確にはかるために試験を行うことになった。

 先日登録した魔力で新しく魔力筆を作った。

 これからの試験はこの魔力筆で解いてもらう」


教師が説明している間に、事務員たちが試験問題と魔力筆を全員に配る。


「この試験の結果で、教室を選び直すことになる。手を抜くなよ。

 それでは、はじめ!」



試験開始の合図とともに、試験問題を開封する。

一通り見てみたが、特に難しい問題はない。

入学前の課題と同じくらいの難易度に見える。


渡された魔力筆で一問ずつ丁寧に答えを埋めていく。

もう自分の実力を隠したりしない。全問正解を狙いにいく。


試験時間の半分ほどですべてを解き、見直しをする。

時間が終わって提出すると、アレク様とマルス義兄様が迎えに来てくれた。


「全部解けたか?」


「はい!」


「さすがだな」


アレク様の質問に素直に答えたけれど、

他の学生たちは私が嘘をついたように聞こえたようで、

何人かが顔をしかめているのが見えた。


それに気がついたのか、マルス義兄様が聞かせるように話す。


「今までクラリスは実力を出さないように命じられていたからな。

 やっと実力通りのクラスに行ける。クラス発表が楽しみだよ」


「ふふふ。はい。楽しみです」


教室を出たら、後ろから本当なのかと話しあっている声がした。

これで少しはバルベナ公爵家を疑ってくれるかもしれない。


「今日は試験だけで授業がないから、これで帰ろう。

 ジュディットには捕まらないと思うが」


「どうしてジュディット様に捕まらないと思うのですか?」


「あいつは早退したそうだ」


「早退?」


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