1.学園のクラス発表
ゆっくりと馬車が止まると、御者の手を借りて降りる。
侍女も使用人もついてこないため、一人で学園内を歩く。
今日から通う学園だが、知っている人はほとんどいない。
周りを歩く学生たちに紛れて、校舎へと向かう。
「教室に入る前にクラスを確認するように!」
学園の事務員が学生たちへ叫んでいる。
見ると、人が群がっている場所があった。
あそこが掲示板に違いない。
人込みの隙間から掲示板に張られた紙を見て、ため息をつく。
予想していなかったわけじゃないが、最低のクラスだとは……。
この学園は特別クラス、上級クラス、標準クラス、基礎クラスの四つにわけられる。
学園に入る前に課題を提出し、その成績で決まるのだが、
私の名前があったのは最低の基礎クラスだった。
いくらなんでもありえない。
公爵家なのに最低のクラスだなんて、恥でしかない。
呆然としていると、後ろの方から私の名前が聞こえた。
「見て、クラリス様、基礎クラスだって」
「うそ!そんなに頭悪いの?
信じられない。いくら養女だからって公爵令嬢なのに」
見知らぬ令嬢たちが私のことを噂している。
言われても仕方ないほどのことだと私も思う。
公爵家なら養女でもきちんと教育しているはずなのに、と。
養女の私が最低クラスだったということは、お義父様の恥でもある。
正式に引き取ったのにお金をかけていない、虐待していると思われかねない。
申し訳ないと思わないのは、私にはどうすることもできないから。
それにしても、こんな場所で大っぴらに公爵令嬢の悪口を言うとは。
どこの貴族家の令嬢なのかわからないが、聞かれたら処罰されて当然のことだ。
私は目立たないから、ここにいることに気がついていないのだと思うけど。
騒いでいる令嬢たちの声に、違う令嬢たちの声が続く。
「ああ、でもジュディット様はさすがだわ。特別クラスよ」
「本当ね。さすが王女の娘は違うわよね。
特別クラスって、数名しかいないのでしょう?」
「ええ。授業を受けるのも自由なんですって。
特別クラスに選ばれるくらいなら授業なんて必要ないからって」
「すごいのねぇ。私も一度でいいから特別クラスになってみたい」
「あなたなんて無理よぉ」
「ひどい!」
今度はお義姉様への誉め言葉だった。
先妻の娘である姉のジュディットとは一か月しか離れていないため、
学園では同じ学年になる。
お義姉様の名前が特別クラスにあることは気がついてなかった。
そっか。最高のクラスだったんだ……。
きゃあきゃあとふざけている令嬢の声が遠くなっていく。
基礎クラスの教室へと一人で向かう中、誰かに愚痴りたい気持ちでいっぱいになる。
本当はお義姉様の成績は私のものなのに。
課題を提出する時、魔力を登録した魔石を一緒に提出している。
課題を魔力筆で書いているため自分で解いた証明になるのだが、
お義姉様は私の魔石と課題を奪って自分のものとして提出してしまった。
あの時は本当に驚いた。
三年間も通うのに、私の魔力で登録してしまうなんて。
どうしてそんなことをするのか聞けば、
「だって、課題をするのがめんどくさいんだもの。いいじゃない」
課題を解くのがめんどくさい、それだけの理由で、私の成績は奪われた。
学園側に間違いだったと言って変えてもらおうと思ったけれど、
いつのまにかお義姉様の魔石と課題を私のものとして学園に提出されていた。
お母様に言っても、お義姉様の言うことを聞くのが正しいと言われ、
どうしようもできずに入学を迎えたのだけど。
こんな結果になるのなら、もう少し嫌だって言ってみればよかった。
本当なら私が特別クラスで、お義姉様が基礎クラスだった。
だけど、そのことを人に言うことはできない。
もし、お義父様に叱られたら、なんて言えばいいんだろう。
正直に話したとしても、信じてもらえない。
だって、お義父様はお義姉様だけが大事なんだから。
基礎クラスの教室に入ると、誰も座っていない。
あちこちで数名ずつ集まって、おしゃべりをしてる。
基礎クラスに入るのは、下位貴族の嫡子以外が多い。
勉強しても仕方ないと思っているか、
まともな教育を受けてこなかったかのどちらかだ。
その中に高位貴族の私が入るとどうしても浮いてしまう。
まともに社交していないこともあるけど、
誰に話しかけていいかわからなくて席についた。
その日は学園の説明だけで授業はなかった。
他のクラスは授業しているのに、基礎クラスの者たちは平気で帰っていく。
このまま帰るのも嫌で図書室へと向かう。
誰もいない図書室は静かで落ち着く。
読みたかった本を見つけ、つい読みふけってしまう。
時間が過ぎていたことに気がついて、
慌てて家に帰った時にはもう日が暮れかけていた。