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14.婚約者候補(アレクシス)

王太子妃にしようとしていた姪が家庭教師の授業すら受けていなかったとわかり、

父上と母上が落胆している。


それはそうだ。

王子の婚約者になったら、王妃教育をさせようと思っていたはずだ。

それが、基本的なことすら身についていないかもしれないのだから。

これからどうするのか頭が痛いだろう。


「と、いうわけで、俺は婚約者候補にクラリスを選びました。

 養女だとしても伯爵令嬢として生まれているわけですから、

 身分としても王子妃にして問題ないですよね」


「ああ……」


王子妃は伯爵家以上の家に生まれたものという規定がある。

下位貴族の者が高位貴族の家に養女になったとしても、

王子妃になることはできない。


まぁ、その場合はその令嬢の家に婿入りすれば、

結婚することはできるのだが。


「もちろん、クラリスを婚約者候補にした後、

 魔力や学力の検査はもう一度させます。

 その結果で正式な婚約者にすることを認めてもらいます。

 それでよろしいですね?」


それでも認めたくない気持ちがあるのか、

どちらも沈黙している。

返事がないのを無視して話を続ける。


「それと、ラファエルはジュディットを選ぶのでしょう?

 バルベナ公爵家から二人も婚約者候補になるのはまずいので、

 クラリスはオダン公爵家の養女にしてもらいます」


「オダン公爵家の養女にする?

 どういうことだ?、騎士団長が許可したのか?」


「はい。父上と母上はアレクシス様から話を聞いて、

 娘が欲しかったからと喜んで署名いたしました。

 バルベナ公爵も籍を抜く署名をしてくれたと聞いています」


「そうか……公爵たちがもうすでに署名を。

 わかった。アレクシス。

 クラリスを婚約者候補にすることを認めよう。

 ただし、正式な婚約者として認めるためには、

 それ相当の結果を持ってこい。いいな?」


「わかりました。では、失礼します」


マルスを連れて謁見室から出ると、

ちょうどバルベナ公爵がこちらに向かって歩いてきた。


宰相でもあるバルベナ公爵はほとんど屋敷に帰らずに仕事をしている。

前公爵夫人が生きていた間は屋敷に帰っていたようだが、

今の公爵夫人は妻ではなく、娘の母親として再婚したと公言しただけあって、

屋敷に帰ることなく娘のことは夫人に任せっきりだ。


「バルベナ公爵」


「ああ、アレクシス様。陛下に何かご用でも?」


「俺の婚約者候補が決まったんだ」


「ああ、ジュディットのことですか」


「俺の婚約者候補はジュディットじゃないぞ」


「は?」


公爵もジュディットが婚約者候補に選ばれると思っていたようだが、

どういうつもりでクラリスがオダン公爵家の養女になることを認めたのか。

ジュディットが王家に嫁げば、家を継ぐのはクラリスになるだろうに。


「俺が選んだのはクラリスのほうだ」


「クラリス?……何かの間違いでは?」


「いや。間違いじゃないよ。

 おそらくラファエルがジュディットを選ぶだろうから、

 同じ公爵家から二人も婚約者候補にならないように、

 クラリスはオダン公爵家の養女にした。

 公爵もその書類に署名したはずだろう?」


「あれは……そういう意味でしたか」


クラリスをバルベナ公爵家の籍から抜いてオダン公爵家にいれる書類は、

オダン公爵がバルベナ公爵に話をつけてくれていた。

だから、どういう説明をして署名をさせたのか俺にはわからない。


「オダン公爵から説明を受けなかったのか?」


「オダン公爵からは、娘が欲しかったからと」


「それだけでクラリスを養女に出したのか?」


「あの娘はもともと養女でしたし、頭も性格も悪すぎる。

 母親も嫁がせるのも恥ずかしいから家に置いておくとまで言うので、

 厄介払いするのにちょうどいいと思って署名したのです」


「……なるほどね」


公爵夫人はクラリスを飼い殺しにするつもりだったんだな。

下手に縁談を持ってこられないように、嫁に出すのも恥ずかしいと言っていたわけだ。

結果的に、追い出したほうがいいと思ったバルベナ公爵は、

夫人に確認すらせずに養女の書類に署名した。


「まぁ、今後はクラリスとバルベナ公爵家は関係なくなる。

 後のことはオダン公爵家が引き受けるから、

 もう公爵はクラリスには関わらないように」


「え?あ、はい。そのつもりです」


「ジュディットと夫人にもそう言っておいて」


「ジュディットは関わらないでしょうけど、

 アリーサはどうでしょうね。

 出来の悪い娘でも、自分で産んだ娘でしょうから」


「産みの母親であっても、もう他家の令嬢だ。

 関わったらオダン公爵家に失礼だと思わないのか?」


「……そうですね。わかりました。

 今後は娘ではないと思うように伝えましょう」


いくら実の母親、元義理の父親であっても、

クラリスはもうオダン公爵家の長女だ。

出来の悪い、などと言って貶めていい存在ではない。

それに気がついたのか、公爵はこれからは関わらないと約束をした。



私室に戻り、ようやくほっとする。

まだこれからやることは多いが、とりあえず一番の難関は突破した。

ソファに深く座ると、マルスが労ってくれる。


「お疲れ様でした。無事に婚約者候補にできましたね、アレクシス様」


「ああ、お前とオダン公爵家のおかげだ。感謝しているよ」


「いいえ。私が目指すのは、アレクシス様が王太子になることです。

 それは今でも変わりません。

 クラリス様が王太子妃にふさわしいと思ったからです」


「あ、もうクラリスはお前の妹になったんだぞ。

 少しは打ち解けて話すようになれよ?」


「い、妹。クラリス様が妹……そうですか。

 私の妹になったんですね」


三兄弟、男だけのオダン公爵家で育ったからか、

妹という存在にあこがれがあるらしい。

想像したマルスの顔がゆるんでいる。


俺も男だけ三人兄弟だが、妹にあこがれはない。

でも、もしクラリスが妹だったとしたら、

これ以上なく可愛がっただろうと思う。



ふと、ドアがノックされた。

誰だろうと思っていたら、入ってきたのは弟のエドモンだった。

俺とラファエルの三つ下なので、まだ学園には入学していない。


「兄上、父上たちに話をしてきたって本当?」


「ああ」


「じゃあ、婚約者候補を決めたんだね?」


「そうだよ」


「もしかして、ジュディットじゃない令嬢だったりする?」


「よくわかったな」


「!!」


父上と母上は俺がジュディットを選ぶと思っていたようだが、

エドモンはそう思わなかったらしい。

だが、みるみるうちに顔色が悪くなる。


「どうかしたのか?」


「あ、あの……俺、婚約者にしたい令嬢がいて……」


「ああ、もしかして俺に取られるかと思って心配しているのか」


「うん……」


エドモンが婚約したい令嬢には心当たりがあった。

そういえば、あの令嬢も王太子妃に選ばれてもおかしくなかった。


「心配しなくてもレティシアじゃないぞ」


「本当!?」


「ああ」


「……よかったぁ。ラファエル兄上はジュディットを選びそうだったけど、

 なんとなくアレクシス兄上は選ばないんじゃないかと思って。

 そうなったら、王宮に来ている令嬢はレティシアしかいないから……」


宰相補佐のファーブル侯爵家の長女レティシア。

エドモンと同じ年齢の令嬢だ。

一人娘だから、できれば侯爵家に婿を取りたいだろうし、

エドモンが婿入りすることに問題はない。


「今、相手を教えることはできないが、レティシアではないから安心してくれ」


「わかったよ!相手が誰でもアレクシス兄上を応援するから!」


「そうか。じゃあ、一つだけお願いしてもいいか?」


「なに?なんでも言って?」


「ラファエルに伝言を頼みたいんだ。

 あいつ、俺がジュディットを選ぶと思ってさけている。

 俺はジュディットを選ばなかったって伝えてほしい。

 ついでに、ジュディットを選ぶのなら、あと二週間待って欲しいと」


「ん?二週間待てばいいんだね?」


「ああ。頼んだ」







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