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13.謁見(アレクシス)

謁見室は人払いがされていた。

ここにいるのは父上と母上のみ。


謁見の内容は言っていないはずだが。

不思議に思っていたら、母上から声をかけられた。


「ねぇ、もしかして、妃候補の件かしら」


「そうです」


「やっぱり。もしかして、ラファエルと争うことを心配しているの?」


「争う?」


「だって、ふたりともジュディットに求婚するのでしょう?」


「違います」


何を誤解しているのか、母上は俺とラファエル、

どちらもジュディットを好きだと思っていた。


俺は完全に違うし、ラファエルも好きなのかは疑問だ。

王妃にふさわしいから選ぶしかないとか思っていそうだ。


「俺は別の令嬢を選びます」


「あら、誰を選ぶの?」


「クラリス・バルベナです」


名前を出すと、どちらの顔も曇った。

クラリスの悪評を信じているのなら、当然のことだ。


「いったい何を考えているの?アレクシス」


「そうだ。ジュディットが気に入らないとしても、

 もっと他に良い令嬢がいるだろう」


「まずは、俺の説明を聞いてください」


父上と母上に、今まで黙っていた魔術具の魔石の件を話す。

だから、学園に提出されているクラリスの魔石が標準なのはおかしいと。


父上は何か思うところがあるのか黙ったが、

母上はどうしても信じられないようだった。


「でも、それだけじゃわからないわ。

 七歳の時だけ何らかの理由で魔力が多かったのかもしれないし、

 事故や病気で今の魔力が少なくなったのかもしれないでしょう?」


「母上がそう思いたいのもわかります。

 ですが、魔力だけで疑っているのではありません。

 ジュディットは公用語も話せなかった」


義理の姪っ子として可愛がっていたジュディットのことだから、

簡単には信じられないとは思うが。


「ジュディットが公用語を話せない?そんなわけはないわよ。

 だって、バルベナ公爵家に家庭教師を派遣したのは私よ?」


「それは公爵夫人に頼まれたからですか?」


「ええ、そうよ。夫人は高位貴族として育ってきていないし、

 家庭教師を誰にお願いしたらいいのかわからないって言うから。

 ジュディットが七歳の時から学園に入学するまで派遣していたわ。

 家庭教師たちから問題があるとは聞いていないわよ」


バルベナ公爵家に家庭教師を派遣していたのは知っている。

母上が知らないその実情も。


「家庭教師が教えていたのはジュディットではなく、

 金髪のカツラをつけたクラリスでした」


「……は?」


さすがに予想外だったのか、

いつもすました顔の母上が口を開けたままになっている。


「な、何を言っているの?」


「本当のことです。

 ジュディットは社交が忙しいという理由で、

 妹のクラリスに自分のふりをして授業を受けるように押しつけたのです」


「そんな馬鹿なことがあるわけ」


「不思議ですよね。

 いくら養女とはいえ、公爵令嬢のクラリスには家庭教師がつけられませんでした。

 同じことを学ぶのだから、二人一緒に教えることもできたのに」


「そ、それは……」


「どなたかが養女には教えなくていい、

 ジュディットだけに教えるように言ったのでしょうね。

 二人並べて授業をしていれば、なり替わるなんてできなかったでしょうに」


「……」


公爵夫人とジュディットからクラリスの悪口を吹き込まれていた母上は、

そんなクラリスに王家の家庭教師をつけるのはもったいないと、

ジュディットだけに教えるように命じた。


だからこそ、カツラをつけたクラリスがジュディットだと名乗っても、

もう一人の令嬢に会うことがなかった家庭教師たちは気がつかなかった。


黙り込んでしまった母上の代わりに、

今まで話を聞くだけだった父上が口を開いた。


「アレクシス、それだけのことを話したのだから、

 証拠があるというんだな?」


「はい。バルベナ公爵家の下働きに自分の手の者を忍び込ませていました。

 その報告書はこちらです。ただ、二年分の量ですから、

 あとでゆっくり読んでください。

 今は証人としてマルスを連れてきました」


「マルス?騎士団長のところのか」


父上と母上の許可を得て、外で待機していたマルスを謁見室に入れる。

マルスが父上と母上に名乗りをした後、俺からマルスに問いかける。



「マルス、俺が聞くことに正直に答えてほしい。

 これは証人として呼んでいる」


「はい」


「俺がジュディットに公用語で話しかけた時、

 ジュディットは話せたか?」


「いいえ。聞き取りすらできていないようでした」


その言葉を聞いて、母上がため息をもらす。


「ジュディットは特別クラスにいるような、

 聡明な令嬢に見えたか?」


「……失礼ながら、とてもそうは見えませんでした。

 標準クラスでも、あれが公用語だと気がついたと思います。

 ジュディット様は、どこの言葉なのかすらわかっていませんでしたから」


「では、クラリスがクルナディア語を話したのは聞いたか?」


「はい。とても見事な発音でした。

 何も問題なくアレクシス様と会話をしていました。

 とても基礎クラスにいるとは思えません」


「クラリスがクルナディア語を話しただと?」


さきほどはクラリスのことまでは言っていなかったから、

父上が驚きの声をあげた。


「王家が派遣した家庭教師からずっと学んでいたのなら、

 おかしなことではありません。

 俺たちと同じ教師なのでしょう?」


「あ、ああ。そうか……本当のことなんだな」


「なんてことを……どうしてジュディットはそんな真似を」


王太子妃にしようとしていた姪が家庭教師の授業すら受けていなかったとわかり、

父上と母上が落胆している。


それはそうだ。

王子の婚約者になったら、王妃教育をさせようと思っていたはずだ。

それが、基本的なことすら身についていないかもしれないのだから。

これからどうするのか頭が痛いだろう。


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