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11.誓い(アレクシス)

身体だけじゃなく、心まで温まっていくみたいだ。

まるで生まれ変わったような気持ちになる。


うれしくてうれしくて、クラリスを抱きしめた。


「感謝するよ、クラリス!」


「えへへ。お役に立ててうれしいです!」


「何か褒美で欲しいものはないか?」


「……褒美はいらないです。またアレクシス様と遊びたいです」


「俺と?」


「はい。誰かに遊んでもらうのは初めてだったので。

 またアレクシス様と遊べたらうれしいです」


誰かと遊んでもらうのは初めてだって、

使用人や家族も遊んでくれないってことなのか?

そういえば母親と義姉に追い出されてここに来たのを思い出した。


たった半日遊んだだけなのに、クラリスはそれが褒美だと。

本気で言っているのがわかるから、もどかしくなる。

クラリスはもっと望んでもいいのに。


期待するような目で見上げられて、

俺はクラリスの味方になることを決めた。

家族が、母親がクラリスを守らないなら、俺が守ろう。


「いいよ、また俺と遊ぼう」


「わぁ!ありがとうございます!」


こんな小さなことで喜んでいるクラリスの手をとって、

その前に跪いた。まるで父上に忠誠を誓った騎士のように。


「どうかしました?アレクシス様?」


「クラリスは俺をアレクと呼んでいい」


「アレク様?」


「そうだ。俺はクラリスに何かあったら絶対に守ると誓うよ。

 俺はいつでもお前の味方になる。

 だから、困ったことがあれば俺に言って欲しい」


「はい」


七歳のクラリスだと意味はわからないだろうと思いながらも、

愛称で呼んでいい許可を出した。


父上たちは従妹のほうと結婚して欲しいのだろうが、

それはラファエルに任せればいい。


俺はもうクラリスを見つけてしまったのだから。




ずっとそのまま二人でいたかったけれど、

夕方になって女官たちが探しに来た。


女官たちは俺とクラリスが一緒にいることに驚いていたが、

俺がお茶会の場に連れて行くことにした。


お茶会の席には母上とラファエル。

その向かい側に金髪の令嬢と薄茶色の髪の夫人が座っている。

あれが従妹とクラリスの母親か。



俺が手をつないで連れて帰ってきたのを見て、

ラファエルは笑って迎え入れてくれたが、

クラリスの母親はそうじゃなかった。


俺とクラリスの手を無理やり離すと、クラリスの頬を思いきり叩いた。


「何をするんだ!」


「申し訳ございません。

 身分もわきまえないこの子がご迷惑をおかけしました。

 すぐに連れて帰りますので!クラリス、帰りますよ!」


「……お母様」


「やめろ、クラリスは何も迷惑をかけていない!」


「いいえ、アレクシス様。

 クラリスは王子のそばにいていいものではありません。

 これ以上失礼なことをする前に連れて帰らせてください。

 王妃様申し訳ございません。

 私はクラリスを連れて帰りますので、

 ジュディットをお願いいたします」


引きずるようにしてクラリスを連れて帰ろうとする母親に、

抗議しようとしたら母上に止められた。

どうしてと思ったら、母上はクラリスを冷たい目で見ている。


後からわかったことだが、

母上は公爵夫人とジュディットから嘘をつかれていた。


クラリスは礼儀作法もあやしい上に母親の言うことを聞かない、

ジュディットのことをうらやましがり、物を盗もうとする。

そんなことを散々聞かされていたために、

公爵夫人がクラリスを無理やり連れて帰っても疑問に思わなかったのだ。



クラリスが連れ帰られた後も、

なぜかジュディットは楽しそうな顔で席に座ったままだった。


「ようやく来てくれたのね!私が従妹のジュディットよ!」


「あ、ああ。アレクシスだ」


「アレクシスもここに座ってお話しましょう?」


「いや、体調がよくないんだ。悪いな」


すぐに断ったからか、ジュディットはふくれっ面になった。

だが、そんなことを気にしている余裕はなく、

こっそりとクラリスの後を追った。


馬車に乗せられるまで、クラリスは公爵夫人から罵倒されていた。

俺と一緒にいたことがどうしてそんなに気に入らないのかわからない。

自分の娘にそこまで冷たくできるもなのかと思ったが、

ここで俺が出て行っても、よけいに叱られるだけ。


悔しかったが、俺には何もできなかった。

ただ、クラリスが乗った馬車が出ていくのを見ていた。



その後、ジュディットは王家の馬車で送られたらしい。

俺がお茶会から帰ったことを怒っていたらしいけれど、

ジュディットの相手をする気にはならなかった。


ラファエルは仲良くなったようで、

たびたび王宮にジュディットを呼んでいた。

俺はできるだけ顔を合わせないようにしていた。


クラリスはあのお茶会の後は、一度も王宮に来ることはなかった。

夫人はクラリスを社交させていないようで、どこのお茶会に出席しても、

会うのはジュディットのほうだけだった。


バルベナ公爵家はおかしい、そう思いながらも手は出せない。

うかつなことをしてしまえば、罰を与えられるのはクラリスだ。


学園に入学する頃になって、少しずつ自分の力を持つようにした。

自分の手の者をバルベナ公爵家に忍び込ませ、情報を知ろうとする。


報告される内容に歯噛みしながらも、今は耐える時だと思っていた。


俺が十八歳になって、クラリスを妃候補にすれば、

クラリスの母親だって俺と会うことを止めることはできない。


できればバルベナ公爵家からも遠ざけたいと思い、

水面下で準備を進めてきた。


その最初の壁となったのが、俺の側近になりたがっている、

オダン公爵家の三男マルスだった。




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