第99話「雨の中の決闘①」
小雨が降る中始まった兄弟同士の決闘は、一方的な展開になった。
「オラオラオラオラオラ! どうしたユイト! デカい口叩いた割に大した事ねえなあ! そんなんでよくオレに挑めたな!」
「ぐうっ……! うるせえ! クソ兄貴が!」
ユイトの兄の攻撃が、次々と銀の盾を叩いていく。
拳が、蹴りが。『剛腕のリューガ』よりパワーでは劣るだろうが、スピードと技では上回る強さがユイトに襲いかかっていた。
狙おうと思えばユイトの身体を狙う事もできるはず。
それなのに銀の盾を狙って攻撃を続けてるのは余裕の現れか、はたまた盾ごと叩き潰して強さを示したいという子供じみた願望からか。
「なんで魔人になんかになってんだ! なんで魔王の幹部なんかになってんだ! すごい冒険するんじゃなかったのか! 魔王を倒すんじゃなかったのか!」
「うるせえ! 魔王の奴はオレの強さを認めてくれたんだよ!」
「その強さを人のために使おうって気にならなかったのか!」
「なるわけねえだろ! オレの強さはオレのモンだ! オレのために使って当然だろ!」
攻防を続けながら、兄弟同士が口論する。
私の隣でアスミ様が、苦しそうに杖をギュウっと握る。
ユイトが煙玉を投げる。しかしあっさり躱された。
ユイトがダガーで襲いかかる。けれどもその攻撃もまた、躱され続けている。
ダガーを連続で突き出しながら、ユイトがクレトに問いかける。
「なんで街の人間を襲った! なんであちこちで破壊を繰り返してる!」
「決まってんだろ! 憎いからだよ!」
「憎い?」
「ああそうさ。金を持ってる奴が憎い、仕事を持ってる奴が憎い、家族がいる奴が憎い、家を持ってる奴が憎い。だから全部全部全部ぶっ壊すんだよ! オレが欲しいモン持ってる奴の持ってるモンを、全部!!!」
「そんな事して何になるんだ!」
「決まってんだろ! この世界への復讐だよ!」
重い回し蹴りが、盾を強烈に叩きユイトが大きく後退させられる。
そこに畳みかけるように、攻撃が襲いかかる。
「この世界はオレを認めなかった! 誰もオレを必要としなかった! だから復讐すんだよ! だから全部ぶっ壊すんだよ!」
拳打のラッシュが、銀の盾を叩く。
すでに表面はボコボコだ。あの魔人の力がすさまじい事が分かる。
黒い道着の身体が反転し、回し蹴りが銀の盾を蹴り飛ばす。
文字通り蹴り飛ばされたように、ユイトの身体が宙を浮く。
「ぐうっ……!」
背中から落ちたユイトが、受け身を取り損ねたようで顔をしかめる。
しかしすぐに立ち上がった。
それを見てクレトが、歪んだ笑みを浮かべた。
「いっぱしに鍛えてはいるようだな。でもお前、大した事ねえな。スキルは何個持ってんだ?」
「……1個だけだ」
「ハッ! よくそれで冒険者やってんな! 転職した方がいいんじゃねえか?」
「……余計なお世話だ」
「そうでもねえだろ。お前なんて才能ねえんだし、どっかでしみったれた人生送ってるのがお似合いだぜ。むしろよく今まで生きてたな」
「……そうだな、今までずっと、死んだように生きてたな」
ユイトが、マントの懐に手を入れる。
そして、口の端を歪めて自嘲気味に笑った。
「ずっと死んだように生きてたよ。けれどもそんな俺でも生きていてくれてよかったって言ってくれた奴がいたんだ。だから俺は、これから何があっても生き抜いてやるって決めたんだ」
「たわごと言ってんじゃねえ。そんな弱さでどうやって生き抜くってんだ?」
「こうやってだよ。……フッ!」
懐から手を出したユイトが、鉛玉を投げる。
当然あっさり躱されるが、クレトの背後で爆発が起こった。
「なっ……!?」
「オラアっ!」
爆発に振り向くクレト、その隙を見逃さずユイトがネバネバ網玉なるものを投げる。
目のいい私は見逃さなかった。
ユイトが、地面に爆発玉を仕掛けていた事を。
そして鉛玉を当てて爆発させクレトの隙を作った。
ネバネバした網に絡まれクレトがもがく。
「――種も仕掛けもございません」
ユイトが、オレンジ色の玉を取り出す。
何だ? 今まで見た事ないものだ。
ユイトが、振りかぶってオレンジ色の玉を投げる。
「ファイヤーボール!」
「何っ!?」
ユイトの投げたオレンジ色の玉が炎に包まれ、火の玉になる。
そしてネバネバ網玉にもがくクレトを直撃した。
「がっ!? クソッ!? このっ!?」
よく燃える性質のあるネバネバ網玉に引火され、クレトが地面を転がって燃える身体の火を消す。
そこにユイトが、ダガーを構えて詰め寄った。
「っ!」
「――っ! このっ!」
ダガーを足に突き立てられ、クレトが怒り狂ったように腕を振るう。
けれどもユイトは、ダガーを抜いてクレトから距離を取った。
クレトが怒りの表情を浮かべながら、立ち上がる。
「――やってくれるじゃねえか。だがムダだ。オレには再生能力があるからな」
クレトの言うとおり、ダガーを刺された足の傷がみるみる回復していく。
「チッ。片足潰したと思ったのによ」
「そんなせこい絡め手で潰せるかよ。お前じゃオレに勝てねえよ」
「そのせこい絡め手で足刺されたくせによく言うぜ」
「うるせえ! ……てめえの挑発にも、さっきの手にももう乗らねえぞ。爆発玉は後何個だ? 1人2個までしか所持できねえはずだから後1個しかないだろ? さっきの手以外にも何か考えでもあんのか?」
「あるさ。俺は魔法も使えるからな」
「デタラメ言ってんじゃねえ! テメエに魔法なんて使えねえだろ! さっきのもどうせ、何かのアイテムなんだろ!」
「……バレたか」
クレトの指摘に、ユイトが舌を出す。
どうやらさっきのファイヤーボールもどきは、何かのアイテムのようだ。
ムジカとやらが、新しく開発でもしたのだろう。
足を刺されて慎重になったからか、クレトがむやみに突っ込まずに様子を見ている。
その間も細かい雨が降りつづいている。見守る皆の髪も服もすっかり湿っている。
地面も少しずつ雨に染まり始めていた。
「……ユイト」
私から離れて立つリリーが、杖を握りしめてユイトの名前を呼ぶ。
その顔はユイトが勝つと信じて疑わない表情だ。
リリーだけではない。
カイルも、ゲイルも、ノッシュも、マシューも、バロンもユイトが勝つと信じている。
「「……」」
一方戦いをもどかしそうな目で見ているのがアスミ様、すぐにでも参戦したそうにウズウズしてるのがレベッカだ。
私も正直今すぐにでも参戦したい。
絡め手で一矢報いたが、力の差は明らかだ。
けれどもあの男が1人で決着を付けると言っている以上、手出しはできない。
それにあの男の作戦が上手くハマれば――
「……『ウィンド・コントロール』」
ミアがぼそっと、魔法の杖を握り呪文を唱える。
雨脚が強くなり始めた。
地面はぬかるみ、戦う2人の足元がぐずつき始めている。
「……そろそろか」
私は、決着の時が迫っているのを悟る。
あの男が天気予報を見ていたのはただの気まぐれではない。
勝つために、必要だからだ。
哀しい戦いは、終わりが近づいていた。
アスミは使える魔法が多いので、自分が何を使えるか忘れる事が多い(特に支援魔法)。
この戦いもユイトに支援魔法をかけ忘れています。
この後レベッカに「アスミちゃんって結構ポンコツよね」と言われ、「レベッカさんにだけは言われたくありません!」と言い合いになってセイラに止められた。
レベッカは余計な事を言いがち。




