第97話「兄弟」
「オイユイト、こっから先はお前1人でやれよ」
「ズ、ズルいよ兄ちゃん。父さんに2人でやれって言われただろ」
「いいからやれよ。じゃないとブン殴るぞ」
「わ、分かったよ……! もう、クレト兄ちゃんは乱暴なんだから……」
畑の草刈りを、ボクは1人でやる。
その間兄ちゃんは、積んである藁の上に寝そべってひなたぼっこだ。
3歳年上のクレト兄ちゃん。
村の子供達の中で一番の暴れ者で、ケンカっ早く、腕っ節も強い。
「農作業なんてやってられっかよ、どうせ継がせてもらえねえし、学校卒業したら奉公に出されるし」
「それは……、次男坊三男坊はどこもそうでしょ?」
「生まれた順番で家を継げるか継げないかなんて不公平だろ。ま、オレは農家を継ぐなんて真っ平ゴメンだけどな」
3人兄弟の真ん中で、次男のクレト兄ちゃんはいつもこの話をしている。
いつも農家の仕事はサボるし手伝いだってしないし、ボクに押しつけてくるしでイヤな奴だけど、ボクが川で溺れた時やいじめられた時は助けてくれたし、たまにお菓子をくれるしでいい奴でもある。
「ユイト、オレは決めたぜ。金を貯めたら奉公先なんて抜け出して冒険者になってやる。つまらねえ仕事なんて、装備を用意する金を貯めるまでのガマンだ」
「冒険者?」
「そうさ、冒険者だ。世界のあちこちを冒険して、モンスターを倒して金を稼いで、ゆくゆくは魔王だってオレが倒してやるんだ」
「へえ……! カッコいいなあ……! ボクも冒険者になろうかなあ……!」
「やめとけやめとけ、弱っちいお前が冒険者になんてなっても、すぐ死ぬだけだ。大人しくどっかでつまんねえ人生送っとけよ」
「いいじゃん夢くらい見たって。それに鍛えたら強くなれるかもしれないだろ?」
「ムダムダ。お前なんかが強くなってもたかが知れてんだろ。ゴブリンにも殺されるようなクソ雑魚冒険者にしかなれねえよ」
「それはそうかもだけどさあ……」
ちょっとくらい夢を見たっていいじゃないか、兄ちゃんのイジワル。
そう思うボクの前で、クレトがへへんと笑う。
「オレが鍛えてやってもいいぜ? ていうか今だって鍛えてやってるようなもんだろ? 農作業でトレーニングだ」
「ただ押しつけてるだけでしょ? ったく、調子いいんだから」
最近、クレト兄ちゃんの口調が移ってきてる気がする。
兄ちゃんはケンカっ早くて乱暴者だけど、頼りになるしボクの憧れの存在だ。
兄ちゃんが冒険者になるなら……ボクも冒険者になってみてもいいかもしれない。
「兄ちゃんはどんな冒険者になりたいの?」
「そりゃあ『鉄拳のブシン』みたいな格闘家かな。剣や魔法は使える気しねえし、拳で悪いモンスターや魔王をぶちのめすぜ」
クレト兄ちゃんが、上半身を起こしシュッシュッと拳を振るう。
兄ちゃんはケンカに強いし、モンクに向いているかもしれない。
ボクが冒険者になるんだったら……
「ボクは剣か魔法使ってみたいな! 魔法剣士とかに、なってみたい!」
「ムリムリ、お前じゃ剣も魔法も使えねえよ」
「やってみなくちゃ分かんないじゃないか、兄ちゃんのイジワル!」
「ハッハッハ! 見る前から分かるぜ。お前はどうせしょっぱいスキルしか使えねえよ」
イジワルして笑うクレト兄ちゃん。
見てろよ、いつか絶対魔法を使ってあっと言わせてやるんだから。
そんな決意を固めるボクの前で、兄ちゃんが口の端に笑みを浮かべる。
「まあお前なんかじゃ大した冒険者になれねえだろうし、向いてねえと思うけどよ」
「けど……?」
「もしお前が冒険者になったら、オレがお前を最高の冒険の旅に付き合わせてやるよ」




