第94話「サレン様祭り 1日目」
7月第2週の土日。
サレン様祭りは2日間に渡り行われる。
昼は仮装した人間が水を掛け合い、夜は花火を打ち上げまくる由緒ある豊穣と冒険の祭りだ。
それがどうして仮装と花火と水の掛け合いになるのかは考えてはいけない。
水の掛け合いが許されているのは1日目までで、2日目は普通のお祭りになる。
仮装は何をしても自由だが、水に濡れて透けると困るからか女性達は水着を着ている事が多い。
「今年も来たのか、この奇祭の季節が……」
去年何か苦労でもしたのか、エメラルドグリーンのビキニと白い短パンを履いたセイラがゲンナリした顔をして大きな水鉄砲を担いでいる。
その豊かな胸に目が行きそうになるが意志の力でこらえる。しかし水着の趣味が悪いな。
「ホント、なんで豊穣と冒険の女神の祭りが仮装と花火と水の掛け合いになるのかしらね」
紅の髪を三つ編みにして左に流し、スタイルのいい身体を黒いビキニと黒いパレオに包んだレベッカが鼻を鳴らす。黒好きだな。
「……」
白いワンピース型の水着と水色のパーカーを着たアスミちゃんが、なぜかジト目で俺を見てくる。
どうしたんだろう? 俺の仮装が気に入らないんだろうか?
「ユイト、その仮装はなんなの?」
「『四剣のイゾウ』だよ。カッコいいだろ」
「ムダに高い完成度ね……。その4本の腕はどうしたのよ。水鉄砲握ってるけど使えるの?」
「作ったんだよ。こうやってやると水鉄砲から水が出る」
俺の腕である下の腕を下に降ろして糸を引くと、作り物の上の腕に握られている水鉄砲から水が出る。
それを見てレベッカが、感心したような呆れたような顔になる。
「アンタってホントムダに器用よね。それでどうするの?」
「決まってるだろ? 領主の野郎に集中砲火、もとい集中放水するんだ」
「……少しは勘弁してやってくれ」
去年何かイヤな事でもあったのか、セイラがゲンナリした顔になる。
そういえば去年、ドラゴンの着ぐるみを着た奴が、領主を水から守ろうとしていたような……
肩を落としたセイラの、豊かな胸がぷるんと揺れる。
俺はそれから慌てて目を逸らし、あちこちに飾られているサレン様の絵を見る。
サレン様の御姿を見ていると心が落ち着いてくるのを感じる。
アスミ様、アドバイス通りちゃんとうまく行ってますよ!とアスミちゃんを見る。
「……」
アスミちゃんは、相変わらずジト目で俺を見ていた。
何でだ? ちゃんとアドバイス通り性欲に飲まれそうになったらサレン様を思い浮かべて落ち着かせてるのに。
「まあ年に一度のお祭りだし楽しみましょうよ! たまにはこういうのもいいもんだわ!」
お祭り好きっぽいレベッカが声を上げて街へと歩き出す。
コイツのこういうカラっとした所はいい所だと思う。
俺はゲンナリしているセイラと、ジト目をしているアスミちゃんを促して街へと歩き出した。
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「領主が逃げたぞー!」
「逃がすなー! 絶対に逃がすな! 捕まえて水責めにするんだ!」
「ミア! 風の魔法だ! 逆風を吹かせて領主の足を止めろ!」
「まっかせなさい!」
「リリー! テレポートで先回りだ! 樽の用意はいいな!」
「んっ! マシューとバロンが用意してる! 『テレポート』!」
……そんなこんなで領主を散々水浸しにしてセイラから「やりすぎだ!」と叱られた。
「……あ~あ、セイラの奴、あんなに怒る事ないだろうに」
「当然でしょ。アンタ達やりすぎなのよ」
セイラにこってり絞られた後、俺はレベッカと街を歩いていた。
動ける割にどんくさいレベッカは、かなり水をかけられていてその髪も身体もぐしょ濡れになっている。
「クシュン! あ~、もう! なんであたしばっかり狙われるのかしら!」
……多分美人に水をかけたいという男達の欲望の結果だろうが、言うと調子に乗るだろうから黙っておく。
俺は袴に結びつけていたマジック・バッグからバスタオルを取り出しレベッカに渡した。
「ほらよ、ここまでくれば水かけ禁止ゾーンだから濡らされる事はない。こいつで拭け」
「あ、ありがとう……。準備いいのね」
素直に礼を言って、レベッカが髪と身体を拭き始める。
ビキニの胸が隠れ、男達からため息が漏れる。コイツ、見た目は美人だもんなあ……
「これ着とけ。暑いとはいえ水で身体が冷えてるから風邪引くぞ」
「アンタのじゃないでしょうね? だったらイヤなんだけど」
「新品だ」
あらかじめ用意しといたTシャツを手渡すと、予想通りの反応が返ってきたのでちゃんと新品である事を示す。
Tシャツの前面にはサレン様の御姿がプリントされている。サレン様祭りの公式グッズだ。
レベッカが、顔をしかめながらもTシャツを着る。
「どこもかしこもサレン様サレン様ね。この街のサレン様信仰ってなんでこんなに盛んなの?」
「昔サレン様がこの街に来たらしいんだ」
「ハア? いつよ?」
「30年くらい前だそうだけどな、サレン様がこの街に来たって伝説があるんだ。ちょうど今のサレン様祭りの期間にな」
「はあ」
「噂じゃ仮装して街の人間に紛れながら祭りを楽しんだそうだ。そして祭りの最後に街の人間の前に御姿を現して、大きな花火を打ち上げて帰っていったらしい」
「お祭り人間みたいな女神様ね。ホントにサレン様だったの?」
「さあな。でもホントの方が楽しいじゃないか。だから俺はホントって方に賭けるね」
「ハア、あたしはどっちでもいいんだけど」
ケンタウロスの格好をしたカイルや、オーガの格好をしたゲイル、ゴーレムの格好をしたバロン、サキュバスの格好をしたミアなどを見ながらレベッカがため息を吐く。
そして、俺をジッと見て問いかけてきた。
「……ねえ」
「何だ?」
「セイラと何かあった?」
「……」
「最近のアンタ達って、何か変なのよね。2人とも妙に何か遠慮があるっていうか、目も合わせなくなってきてるし、セイラはアンタを前にして照れくさそうにしてる感があるし、アンタは時々ギラギラした目してるし」
……目がギラギラしてるのは、数年ぶりに性欲が蘇ったからだけどナイショにしておこう。大体コイツを見たら落ち着くし。
「セイラに、俺の過去の話をした」
「……」
ウソを吐くのは嫌いなので、正直に話すとレベッカが何やら神妙な顔つきになった。
「アスミちゃんにも話したけど、お前も聞くか?」
「別にいいわ。あたしはもう気にしない事にしたから。アンタはアンタでしょ? あたしはアンタの過去に何があろうと気にしないわ」
「……そうかよ」
「まあアンタがどうしても話したいっていうなら聞いてあげてもいいけど」
「じゃあ言わねえ」
「そ」
レベッカが、俺から目を逸らし祭りの屋台の方を向く。
セイラと違うベクトルで、コイツの態度はありがたい。
今の自分を受け入れてくれる人間がいるというのは、本当にありがたい。
まあコイツは本当に俺の事なんてどうでもいいと思ってるかもしれないけど……
「あっ。ユイト、リリーがいたわよ。相変わらず1人でボーッとしてるわね」
「リリーは人見知りだからな。それに1人の方が気楽なんだろうよ」
「一緒に回った方が楽しいじゃない。リリーも誘って一緒にお祭り回りましょうよ」
「おう、そうだな」
この後、俺達はリリーやカイル達と合流して皆で祭りを楽しんだ。
・町の人達からの人気度
レベッカ>アスミ>ミア>>>>>クリス>リリー>>>>>セイラ(領主の娘なのと、美人過ぎるから)




