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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第4章「動き出す運命」

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第91話「アスミ様の懺悔室⑥」

「次の方ー、どうぞー」


 7月に入り暑くなってきました。季節はすっかり夏です。

来週にはサレン様祭りも開催されます。

と言っても神官のわたしはやる事はあまりありません。

サレン様のご神体と一緒にいつもと違うミサを行い、開会式に出席するだけです。

だから2日目には、いっしょにお祭りを回る約束を取り付ける事ができました。

誰とですって? この人です。


「ユイト・カッシュだ。よろしくアスミちゃん」

「名前は名乗らなくていいです、よろしくおねがいします」


 懺悔室は顔が見えないようになっていて、名前も名乗らなくていいのに名前を名乗ったユイトさんに注意します。

この街の冒険者の人は名前を名乗らないと気が済まないのでしょうか?

異様にサレン様信仰が盛り上がってる事といい、何だか変です。

変ですが、ひとまず置いておきましょう。


「では、あなたの罪と悩みを打ち明けてください」

「罪は、この前話したな。実は最近、深刻な悩みがあるんだ」

「……何でしょう」


 深刻な悩みと聞いて、わたしは張り切ります。

それを解決できれば、ユイトさんの中でのわたしの好感度が更に上がるかもしれません。


「性欲が抑えられないんだ」

「はい?」

「性欲が抑えられないんだ」

「……」

「ずっと性欲なんて感じてなかったのに、セイラの胸に抱きしめられてから性欲が止まらないんだ。毎晩毎晩、牛乳を飲んだり寝床近くにリンゴを置いたりしてるけどムラムラしてたまらないんだ」

「……」

「セイラや街の女の人を見ただけで、性欲を催してしまうんだ。自分で自分を抑えるのが大変なんだ。毎晩自分で自分を鎮めてるんだ」


 何を言っているのでしょうこの人は?

神官とはいえ女性に対し、セクハラじゃないでしょうか?

ていうかなんですか? セイラさんの胸に抱かれた時は欲情したのに、わたしの胸に抱かれた時は欲情しなかったんですか? わたしが貧乳だからですか? 誰が貧乳ですか! わたしだって大きくなったらレベッカさんくらいにはなれるはずです!

それと何ですかセイラさんの胸に抱きしめられたって!

いつですか! どこでですか! なんでですか!

セイラさんはなんでユイトさんを抱きしめたんですか!


「フーッ……」


 1回深呼吸をして気持ちを落ち着けます。

悩み自体はしょうもないものですが、真剣に悩んでいるのかもしれません。

ていうか、そうだとすると1つ大変な問題が出てきます。


「それはつまり、いっしょに住んでいる女性にも欲情している、襲ってしまいそうになるという事ですか?」

「いや、レベッカを見ても正直何とも思わん。子供だしな」

「そうですか……」


 とりあえず一安心です。どうやらユイトさんの中でレベッカさんは対象外なようです。

ただ17歳で大人っぽいレベッカさんでも対象外となると、わたしはどうなんでしょうか。


「このままだと俺は獣になってしまう。それじゃあのバカ王子といっしょだ。ああなるのだけは絶対にイヤだ。俺は女性を傷つけたくないんだ。アスミ様頼む、性欲を抑える方法を教えてくれ!」


……意外と真剣に悩んでいるのかもしれません。

そこで彼女を作るという選択肢が浮かばない辺りが、この人の自己肯定感の低さと童貞ぶりを表しているような気がします。

ですがこれは、チャンスかもしれません!


「冒険者ユイトよ」

「は、はい」

「あなたの身近に、ふさわしい女性がいるではありませんか。その女性の事を思い浮かべるのです」


 そう、ユイトさんにはわたしがいます。

ムラムラした時はわたしを思い浮かべればいいのです。

わたしをオカズにすればいいのです!

そしてわたしと付き合えばいいのです!

大丈夫です! サレン様の神官は恋愛自由ですし、結婚もできます!

それにユイトさんなら、わたしは受け止める覚悟ができています!

バインドだろうとなんだろうと、ドンとこいです!


「そうか……。そうだよな……! 俺にはサレン様がいるものな!」

「はい?」


 しかしユイトさんの口から、思ってたのと違う名前が出てきました。


「そうだよな……! 困った時は、サレン様を思い浮かべればいいんだ! サレン様を思い浮かべれば、心がキレイになって性欲なんて消えるに違いない! それでもダメならサレン様をオカズにすればいいんだ!」


 何を言っているのですかこの人は! そんなのダメです! 神罰が下ります!


「ありがとうアスミちゃん! 迷いが晴れたよ! これからは欲情したらサレン様を思い浮かべて落ち着く事にするよ!」


勝手に納得して懺悔室を出て走り去って行くユイトさん。止める暇もありません。


「なんでそうなるんですか!」


 わたしはその小さくなった背中に、嘆きの声をぶつけたのでした。

 ……こんな話が第4章のスタートになってしまった事、本当に申し訳ないと思う。謝りません。

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