第88話「ジンジャーとリリー」
夜空を煮詰めたような真っ黒な瞳が、カップの中の紅茶を見つめる。
「……」
呼び出した側だってのに嬢ちゃんは紅茶を啜って中々話し出そうとしない。
表情から感情は読めない。ある意味一番厄介な相手だ。
なんでこの嬢ちゃんに呼び出されたのかは、大体想像がついてるが。
「話ってのはなんだ? ユイトの事だろうが」
「……」
俺を呼び出した嬢ちゃん、リリーとやらがすっと顔を上げる。
そして厳しい目で俺を睨んできた。
「……ユイトがああなった責任、あなたにもある」
噂には聞いているユイトの事を聞いて、やっぱりかと思う。
「アイツがああなったのはアイツの責任だ。俺には関係ねえよ」
俺の言葉に、嬢ちゃんが静かに首を振る。
「……私はそうは、思わない。弟子に取ったのなら、一人前になるまで育てるべき」
「最初から1年って約束で弟子入りさせたんだ。それにそこまで面倒見る義理はねえよ」
「……ウチの会社は、どんな人でも一人前になるまでちゃんと育てる」
「アイツが一人前になるまで何年かかるんだ? その前に俺が死んじまうぜ」
どうやら嬢ちゃんは、アイツが一人前になるまで育てろと言っているらしいが俺はそうは思わない。
アイツも男だし、冒険者になってもう2年だ。いっぱしの冒険者として自立してもらわねえと困る。
「それにアイツには色々教え込んだ。それで生き抜けるかどうかは、アイツの責任だろ?」
「……私はそうは、思わない。弟子に取ったのなら、一人前になるまで育てるべき」
「あのなあ……」
どこまで行っても平行線になりそうなやりとりに、俺は正直辟易する。
この嬢ちゃんは見た目に反して頑固だ。絶対に自分の意見を曲げねえだろう。
「そんなに言うなら、嬢ちゃんがアイツを助けてやったらどうだ? 嬢ちゃんの家は大きな商会なんだろ? アイツを雇ってやったらどうだい?」
「……それはダメ。ユイトには冒険者を続けてもらいたい」
「どうしてだい?」
「ユイトとは、いっしょに魔法の城に行きたいから」
「ほう?」
魔法の城と聞いて、俺は大分前の事を思い出す。
俺も昔、カミさんと2人で行った場所だ。
ただこの嬢ちゃん、あそこがどういう所か分かってんのかなあ。
そこにユイトと行きたいって、どういう意味か分かってんのかなあ。
あそこは実は……。まあいい、それは行ってみて確かめればいいだろう。
ユイトと同い年ってんなら10代後半って所だろうが、芯が強そうな嬢ちゃんならいつか魔法の城を呼び寄せるだろう。
「……何が、おかしいの?」
「いや、何もおかしくねえさ。冒険者なら夢の1つや2つ持って当然だ。アイツは見つけられなかったみたいだがな」
「……それも、あなたの責任」
「バカ言うんじゃねえ。そこまで面倒見れるかよ。アイツが生きる理由はアイツが見つけるもんだ」
「……あなたとは、話が合わない」
「奇遇だな。俺もそう思ってる所だよ」
話が通じなさそうな嬢ちゃんに見切りをつけ、俺は席を立ち上がる。
立ち上がるついでに、紅茶を飲む。ぬるい。
「……私は、あなたを許さない」
「オウ、許してもらわなくて結構だ」
「……絶対に、許さない」
「2度も言うんじゃねえよ。そうやって他人のせいにしてな」
背中に視線を感じながら、俺は店を後にする。
アイツも随分と厄介なダチを持ったもんだ。ありゃあ相当頑固だぞ。
そしておそらく……まあ、これはアイツが苦労すればいいだけの話だ。
「……ハア、あのバカはいつになったら立ち直るのやら」
嬢ちゃんにはああ言ったものの、俺も師匠として責任を感じてない訳ではない。
ただアイツの人生はアイツの人生だ。俺が引っ張り上げてやる責任はない。
「まあ放っておいても立ち直るだろうけどよ」
アイツはそんなに弱い奴じゃない……と、思いたい。
いや、案外ウジウジ悩み続けるのかもしれねえが俺が知ったこっちゃねえ。
「アイツを引っ張り上げるとしたら……カミさんみてえな奴かな」
数年前に亡くなったカミさんの事を思い出しながら、俺は空を見上げる。
何年経っても、いっしょに過ごした日々の記憶は色あせない。
俺の人生を変えてくれた人だ。
「まあそんな奴、都合良くあらわれりゃしねえだろうが」
俺は破門した不肖の一番弟子の事を考えないようにするために、ムジカの店に飲みに行く事にした。
・冒険者達からのモテ度
クリス>アスミ>レベッカ>>>ミア>リリー>>>>>>>セイラ(おっかないから)
レベッカまではかなりモテている。




