第85話「ゴーレム使いの懸賞金」
「えーっと……ユイトさん。大変申し上げにくいんだけど、ゴーレム使いの懸賞金は懸けられてないみたい……」
「「「……」」」
ゴーレム使いを倒した翌日。
受付嬢クリスの言葉に、冒険者ギルドに集まった皆が固まる。
いつもの席にいるクエスト爺さんの顔から珍しく笑みが消え、いつも冒険者ギルドにいるワシ鼻でスキンヘッドの小男は興味なさそうに魔道具の手入れをしていた。
クリスは申し訳なさそうに身を縮こまらせて、言葉を続ける。
「魔王の幹部だって事は冒険者ブックで確認できたんだけど、ゴーレム使いってマイナーなモンスターだからか懸賞金懸けられてないし。申し訳ないんだけど、ゴーレム1体1万マニーしか懸賞金出せないって領主様が……」
「「「そんなのありかよおおおおおおお!!!!!」」」
クリスの言葉に、カイル達が嘆きの声を上げる。
「あんなに大変だったのに!? マジで死ぬ思いだったのに!?」
「アタシ達は城壁の上から攻撃しただけだったけど、前衛職は命がけだったのよ!」
「……ん、納得、できない。ユイトに1億マニーくらい、あげて欲しい。ユイトは、頑張った」
「お、俺も頑張って身体張ってセイラさん守ったよ。リリー!」
「バロン、お腹、空いた」
バロンだけ見当違いな事を言っているが、皆不満の色を露わにする。
そりゃそうだ。あんだけ大変だったのに、まさに決死の思いで戦ったのにたったのそれだけなんて……。
爆発玉と鉄の棍で35体ゴーレムを倒していて俺にしては頑張ったほうだけど、1体1万じゃ35万マニー止まりだ。
死にかけたのに、35万マニー……
20万マニーの爆発玉2発使っちまったから、5万マニーの赤字……
「皆、安心しろ」
とそこに、どこかに行っていたセイラが帰ってきた。
「特別に報奨金を出す。私が約束する」
「約束するったって……。あのケチ領主が許さないだろ?」
「ああ、だからもっと上の人間に直談判してきた」
「もっと上の人間?」
「第一王女、ジーナ様だ」
「「「第一王女???」」」
突然出てきた名前に、皆が困惑の色を浮かべる。
セイラが俺達に向けてウン、と頷く。
「昨日レベッカのテレポートで王都に行ってきた。リオン様のコネを使うのは気が引けたが……、特別に面会をお願いし話をつけてきた。本日こちらに来られる予定だ」
「な、なんのために?」
「父上に任せていたら、いつまで経っても城門ができないからだ。それにもう色々看過できない。だからジーナ様のお力を借りようという訳だ」
「第一王女ってアレだろ? あの仕事ができそうな……」
「できそうではなく、できる御方だ。『内政の第一王女』とはあの御方だからな」
「そう褒められるのは、悪い気はしませんがむずかゆいですね」
突然誰かの声がして、俺達は振り返る。
そこに第一王女ジーナが、木でできた魔道のボディーガード『人形』を引き連れ現れていた。
高そうなスーツを品良く身につけている気品のある美女だ。髪はひっつめにしてまとめている。姉妹だからかエリア様の面影を感じる。
「ジ、ジーナ様!? もうお越しになっていたのですか?」
「早めに来た方がよいと判断しました。領主に隠し立てをさせる準備をさせないためにもですね」
第一王女が、これまた高そうなシルバーフレームの眼鏡をクイと上げ冒険者ギルドの職員に声をかける。
「第一王女、ジーナが命じます。このギルドの資料をすべて提出しなさい。小さなものまで、すべてです」
「は、はい! 用意しておきました!」
あらかじめセイラが用意させておいたのだろうか、クリスがファイルをまとめてジーナ様の前に差し出した。
ジーナ様は「ありがとう」と頷いて資料を確認し始める。
ものすごい速さだ。有能である事がうかがえる。
「ジ、ジーナ様がお越しになっているというのは本当か!?」
と、そこに髪をピッチリ撫でつけた神経質そうな男。レイフォード領の領主が駆け込んできた。
俺達からイヤな視線を向けられているのも気に留めず、領主が揉み手をしながらジーナ様にすり寄る。
「ジーナ様。レイフォード領へようこそ。このような所ではなく私の館で……」
「ビンセント・レイフォード」
「は、はい」
「城門が直っていないのは何故ですか?」
領主に目を向ける事なく、資料をめくりながらジーナ様が問いかける。
「この短期間で魔王の幹部が3人も攻めてきたのに城門がまだ直っていない。これはどういう事ですか?」
「そ、それは……」
「あなたは無能ですか? 資金がないとは言わせませんよ。ある冒険者が魔王の幹部を倒した懸賞金30億を、あなたが寄付させたのは伺っています」
「い、色々と業者の選定など準備が……」
「準備? 接待と袖の下を受ける事がですか?」
領主が顔を真っ赤にして、セイラを睨む。
しかしセイラは、澄ました顔で領主と目を合わせなかった。
「娘さんではありませんよ。あなたの事は以前から怪しいと思っていたのです。領から上がってくる報告書の数字にズレがある事を私が気づかないとでも思いましたか? 色々と水増ししている事に気づかないとでも思いましたか? あなたが裏でしている事は色々と調べがついています。こちらの領に、私の部下を忍ばせ調べさせていたのです」
「そ、そのような事を勝手に……!」
領主が、拳を震わせながら第一王女へと歩み出す。
しかしその前に、『人形』が立ちはだかった。
「ヒイッ」
2mを越える『人形』ににじり寄られ、領主が腰を抜かして悲鳴を上げる。
『人形』は、緑色のモノアイを輝かせながら領主に迫り……
「おやめなさい」
しかし第一王女の声で動きを止めた。
第一王女が、すべての資料を読み終えトントンと紙の束を揃える。
「あなたへの査問はひとまず後回しです。今は城門の修繕が最優先です。魔王の幹部が立て続けに襲ってきているのですからね。今すぐあなたの館に案内して下さい。すぐに業者の選定と発注を行います。よろしいですね?」
「は、はい……」
「それと此度の魔王の幹部との戦いに参加した冒険者達全員に特別報奨金を出す事。1人100万マニーが妥当な所でしょう。よろしいですね?」
「そ、それは……」
「よろしいですね?」
「……はい」
唇を震わせながら、領主が第一王女の言に従う意志を見せる。
そして渋々といった様子で立ち上がり、ギルドの職員に指示を出し始めた。
「これでよろしかったですか?」
「ジーナ様、ありがとうございます」
ジーナ様に問いかけられ、セイラが深々と頭を下げた。
それにならって俺達冒険者も全員頭を下げる。
噂以上の辣腕ぶりだ。そしてこちらに対する思いやりも感じられる。
「ユイト、という者はどなたですか?」
「へっ? お、俺……私です」
いきなり名前を出され戸惑ったが、レベッカに肘で突っつかれ慌てて名乗り出る。
第一王女は、それまで崩さなかった表情を崩し口元にだけ笑みを浮かべ俺に頭を下げた。
「いつもエリアにお手紙を書いて下さりありがとうございます。あなたの手紙の話をする時のエリアは、楽しそうで少し元気になっています。これからもどうか、楽しいお話を書いてあげてください」
「い、いえそんな……」
「お願い致します。あの子はあまり、長くないでしょうから」
「――」
残酷な一言に、俺は息を呑む。
そんなに、悪くなっているのか?
最近手紙の返事が来る期間が空くようになったと思ったのは、気のせいじゃなかったのか?
全身の血がスッと引き、イヤな汗が背筋を流れる。
「どうか、よろしくお願い致します」
ジーナ様が『人形』を引き連れてこの場を去ろうとする。
領主の館に向かうようだ。
「あ、あの!」
俺は、その背中に失礼を承知で呼びかけた。
「エリア様に、会う事は……お目通りを叶う事はできますでしょうか」
「なりません」
ジーナ様が、ふるふると首を振る。
「今の姿をエリアは、あなたに見せたくないでしょう。あの子の気持ちを、くんであげて下さい」
それだけ言い残して、ジーナ様が去って行く。
その横顔からは、
なんの感情も感じられなかった。




