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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第1章「バインドスキルではじまる男の物語」

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第8話「ギルドに行こう」

 同居して数日、レベッカの嫌がらせは続いた。

とはいえレパートリーが貧困なのか、本人の気質的に嫌がらせに向いていないのか、専ら風呂のお湯が抜いてあったり、やたら熱くなってたり、やたらぬるくなっていたりするくらいだった。風呂しか思い浮かばないのか。

風呂は無料で入れる公営浴場に行けば済む話なので、無視してそっちに入りに行った。

レベッカは嫌がらせがムダだと悟ったのか、俺をこき使う方向へと切り替え始めた。


「ユイトー、ごはんまだー?」

「ちょっと待ってろ」

「はーやーくー」


 フォークとスプーンをカンカン鳴らしながら、レベッカが俺を催促する。

同居が始まって数日。

俺はレベッカにやれ飯を作れ、やれここを掃除しろ、やれアレを買ってきてとこき使われていた。

無視してもよかったが、うるさいのと「セイラに言いつけるわよ」などと脅されアレなので素直に従った。


「……う~ん」

「何だよ」

「アンタが意外とまともに料理できるのがムカつく」


 俺の作った料理をフォークで突きながら、レベッカが不満そうに言う。


「冒険者向けの安宿で安く泊めて貰える代わりに料理やら掃除やらさせられてたんだよ」

「そんな宿あるんだ。あたしも冒険者してるけど、泊まった事ないわ」

「だろうな」


 どうやらこのレベッカとやら、魔法使いの里のそこそこいい家の出らしい。

おまけに王都の魔法学校卒業とあらば、初めから高ステータス、高レベルで冒険者を始めたのだろう。金には困らない冒険者人生を送ってきたはずだ。俺と違って。


「ねえ、アンタバインドスキルしか持ってないって本当?」

「ああ、本当だ」

「冒険者ブック見せて」


 レベッカにせっつかれ、冒険者ブックを裏面にして手渡す。

俺の冒険者ブックを確認したレベッカは、声を上げて笑い始めた。


「ぷっはははは! 何これ、ウケる! 本当にバインドスキルだけなんだ! シーフなら『窃盗』とか『敵感知』とか『潜伏』とか覚えてるもんなのに!」

「……お、俺だってレベルが上がればスキル覚えれるかもしれないだろ」

「9年冒険者やってレベル4なんでしょ? 何年かかるのかしらね~? プークスクス!」


 コイツ、バインドかけてやろうか。

一瞬そう思ったが、消し炭にされたくないのでやめておく。

代わりに、シチュー皿の中のジャガイモをスプーンで崩した。


「それにしても、料理スキルも持ってないなんてね。その割には……」

「その割には? なんだ?」

「……ううん、何でもないわ。それより今日は何するの?」

「魚料理にするつもりだが」

「晩ご飯の話じゃないわよ。今日1日何するかって聞いてるの」

「この家の掃除も修理も一通り終わったし、必要なものも買いそろえたし、裏庭の畑も肥料を馴染ませてる途中だしな。今日は冒険者ギルドに顔出す事にするよ」

「ギルド行くの? あたしも行きたい! この街のギルドって、まだ行ったことなかったのよね~」


 目を輝かせるレベッカ。それを苦い目で見る。


「別に来てもいいが……。退屈だと思うぞ?」

「退屈? なんで?」

「この街は王都や他の街のギルドなんかと違って、面白いクエストもダンジョンもないし、屋根の修理とか薬草集めとか地味なクエストしかないぞ。それか雑魚モンスターの討伐依頼か、やたらと高難易度のモンスター討伐依頼しか」

「いいじゃない。サクっと退治して、がっぽり稼ぎましょ」

「そんな簡単なもんじゃないって…」


 魔王軍の影響か、辺境の街なのにやたらと高レベルのモンスターが出没するギルドのクエスト依頼を思い出し俺は渋い顔をつくる。

まあ見てもらう方が早いか。

俺はレベッカを冒険者ギルドに連れて行く事にした。




****************************




「ユイトじゃないか! 久しぶりだな!」


 ギルドに入るやいなや、顔なじみの冒険者、アーチャーのカイルが声をかけてきた。

カイルは俺のそばに寄ると、耳元で小声で話しかけてきた。


「聞いたぞ? エレナちゃんのお店、領主のガサ入れが入ったんだろ? 無事だったのか?」

「……ああ、まあ何とか俺は無事だった」

「そうか……、おかげで俺のお楽しみが減っちまったし、お前の稼ぎ口も減っちまったな。領主のヤローもロクな真似しかしねえな」

「……ああ、そうだな」


 カイルはそこそこ稼ぎのいい冒険者で、俺の副業先の店の常連だった。

十数年前に領主が変わってから、厳しい締め付けのせいで俺が丁稚奉公に出ていた職人の店は潰れるし、副業先も失うしで散々だ。

この街の人間も領主への不満は溜まっているらしい。

……セイラは知っているのだろうか。父親が領民にあまりよく思われていない事を。

いや、聡いアイツなら気づいているだろう。


「んで? あの美少女は誰なんだ?」

「色々あって1つ屋根の下に暮らしている女だ」

「ハア!?」

「……お前が考えてるような関係じゃねえよ。俺の監視役みたいなもんだ。スマンが詳しい話はまた今度にしてくれ」

「お、おう……、分かった……」


 俺の話に、何かあると察したカイルがそそくさとその場を離れる。

そのまま顔なじみの冒険者達(店の常連客)にコソコソと話はじめた。

しばらく顔を出さなかった俺の事を気にかけてるのが半分、レベッカが気になるのが半分って所だろうか。

カイルもノッシュもゲイルも、レベッカの方をチラ見してた。

一方いつも1人でいるワシ鼻でスキンヘッドの小男は興味ないと言わんばかりに、離れた席で何やらマジックアイテムの手入れをしていた。

いつも1人でいるといえば……リリーだけど、今はいない。

数年前からあまり顔を出さなくなったからな。


「ユイトー、話終わったのー?」


 そんなに待ってないくせに、待ちくたびれたような様子でレベッカがつま先をトントン鳴らす。


「ああ、それじゃあまずはクエスト爺さんの所に行くか」

「クエスト爺さん?」


 首を傾げるレベッカに、いつもの席で座っているクエスト爺さんを指さす。


「あそこに座ってる爺さんだよ。蜂の巣退治とか、壁の修理とか俺でもできる低レベル冒険者向けのクエストを紹介してくれるんだ。それと石マニアでな、珍しい石があれば高く買い取ってくれる」

「そんなしょっぱいクエスト受ける気ないわよ。やるならモンスター退治でしょ!」


そう言ったレベッカが、クエストの依頼が貼ってある掲示板へと歩いて行き、1枚のクエスト依頼書を引っぺがす。


「これにしましょう!」

「アホか!」


 レベッカが引っぺがした、『縄張り争いをしてるキメラとコカトリスの退治依頼』のクエストの張り紙を奪おうと手を伸ばす。

しかしレベッカはそれをひらりと躱した。


「アホとは何よー、アホとはー。困ってる人を助けるのが冒険者でしょー?」

「キメラもコカトリスも高レベルモンスターじゃねえか! レベル40以上はないと……」

「私、レベル53なんですけど」

「はっ?」

「だから、レベル53だって。ホラ」


 レベッカが自分の冒険者ブックを俺に見せてくる。

……ホントだ、レベル53だ。


「私にかかればキメラもコカトリスも楽勝よ! アンタは大船に乗ったつもりでついてきなさい!」

「いや、えっ……? もっと他にメンバーを集めて行った方が……」

「いいからいいから! さっ! 行くわよー!」


 レベッカに首根っこを掴まれ、俺はキメラとコカトリス退治のクエストへと向かわされる。

……不安しかないんだが、本当に大丈夫だろうか?

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