第78話「友達」
私が冒険者を始めたのは15歳の時だった。
お小遣いを貯めて装備を買って、
お父さんお母さんと「無理はしないように」と約束して私は冒険者になった。
けれども最初は冒険できなかった。
魔法使いは数が多いし、私より年下のピンク色の髪の女の子が人気で引っ張りだこになっていて、私に声をかけてくれる冒険者はいなかった。
……2人ほど、ナンパ目的の人がいたけど無視をした。
私は毎日、冒険者ギルドで魔法の基礎特訓を繰り返した。
派手な魔法は使えないけど、地道な訓練が一番って魔法使いの先生に教わったから。
そんな感じで毎日魔法の基礎特訓を繰り返している内に。
私は気になる男の子を見つけた。
いつも困った顔でクエストの依頼を見ている私と同い年くらいの男の子。
前の領収様が簡単なクエストを紹介したりしてるけど、お金に困っているようだ。
今日も、クエストの依頼を見ながら困った顔をしている。
私は、自分でも信じられないんだけど気がつくと彼に声をかけていた。
「あの……」
「うわあっ!? ……ああ、キミか。いつもギルドにいる」
「……ん。私、リリー。こう見えて、魔法使い」
「どっからどう見ても魔法使いだが……、俺に何か用か?」
「……ん。いっしょに、クエスト、受けない?」
「クエスト?」
男の子が、首を傾げる。
そして弱り切った顔で冒険者ブックを広げて私に見せた。
「えーっと……、俺弱いしレベル1だし、バインドスキルしかないし役に立たないと思うぜ?」
「……ん。私はレベル13。攻撃魔法使える。でも1人でクエスト受けちゃダメだってお父さんお母さんに言われたから誰かについてきてもらいたい」
「ならもっと誰か頼りになる奴の方が……」
「……ん、大丈夫。私の魔法でなんとかするから」
「……」
男の子が、どうしていいか困ったような顔をする。
よく分からないけど、いっしょにクエスト行きたいから私は彼の手を引いた。
「……これ。ブラッディバッドの駆除依頼。これなら大丈夫だから、いっしょに受ける」
「……ああ、俺で、いいなら」
「……ん。名前、教えて」
「え?」
「私、リリー。君の名前は?」
「……ユイトだ。ユイトって呼んでくれ」
「……ん、分かった。ユイト。私もリリーって、呼び捨てで呼んで」
「分かった。リリー、よろしく」
「……ん」
私は男の子の、ユイトの手を握ったままクエスト依頼の紙を引っぺがした。
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「『ライトニング』『ライトニング』『ライトニング』……『ライトニーーーーング』」
「オオオッ!?」
1匹1匹撃ち落としてたけど、途中で面倒になってまとめて倒す事にした私が魔法を放つ姿を見て、ユイトが声を上げる。
「……ん、終わった」
「おお…、リリーって、すごい魔法使いなんだな」
「……そう、なの?」
「いやすごいって! カッコよかったなあ! 俺もあんな風に魔法使えたらなあ…」
「……ん。ユイトは、シーフでしょ?」
「……そうなんだよなあ。魔法使いたかったんだけど、シーフだもんなあ。しかもバインドスキルひとつしかない……」
「……」
何だか分からないけど、ユイトが落ち込み出す。
何をそんなに落ち込んでるんだろう?
ユイトにはユイトの、いい所があると思うのに。
どこって聞かれても、まだ分からないけど。
「ともあれクエスト達成だな。えーっと、俺何にもしてないから報酬はリリーが全部って事で……」
「……ううん、いい。半分こしよ」
「え? でも……」
「2人でいっしょに受けたクエストだから、半分こ。私1人じゃ、クエスト受けられないから」
「しかし……」
「じゃあ、これからもクエストいっしょに受けてくれるならって条件付きで、いい」
「え?」
「私1人じゃクエスト受けられない。私、冒険、したい。そのためにユイト、必要。だから、その手数料? とか、出世払い? とかでいい」
自分でも何言ってるかよく分からないけど、ユイトにお金を受け取って欲しくて私は言う。
なんだか、これからもいっしょにいたいから。
「じゃあ……そういう事なら」
「……ん」
ユイトもよく分かってない感じだけど、私の勢いに押されたのかクエスト達成の報酬を半分ずつ受け取る事に合意する。
「でもなんか申し訳ないな……」
「……ん、じゃあコーヒー淹れて」
「え?」
「コーヒー、飲みたいから。コーヒー作って」
私はマジック・バッグからコンロと魔道具の火が出る奴、小鍋と水が入った容器とインスタントコーヒーを取り出してユイトに渡す。
「リリー、コーヒー飲むんだ」
「……ん、私、大人だから」
「大人かどうかはともかく分かった。ちょっと待っててくれ」
ユイトが、割とテキパキ動いて小鍋にお湯を沸かし始める。
私はそれを、ボーッとしながら見た。
「リリーは、どうして冒険者になったんだ?」
ユイトが問いかけてくる。
答えるか、答えまいか、迷う。
この話をしてされる反応は、いつも同じだから。
でも、話してみる事にした。
「……魔法の城」
「ん?」
「……この世界のどこかにあるっていう魔法の城。私はそこに行きたい。だから、冒険者になったの」
「へー! そんなのあるのか! 俺も行ってみたいな!」
「……」
食いついてきたユイトの、目を見つめ返す。
その目は、輝いていた。
「……笑わ、ないの?」
「え?」
「この話すると、皆、笑う。そんなの、あるわけないって……」
「あるかないか、確かめられたのか?」
「……ううん」
「じゃああるかもしれないだろ? それならあるって信じた方が面白いじゃねえか。俺はあるって信じるね」
「……」
この話をして、笑わない人は初めてだった。
お父さんお母さんにだって、笑われたのに。
私は、胸の奥から湧き上がるものを感じていた。
「……なあリリー」
「……ん?」
名前を呼ばれ、ユイトを見る。
その顔は、なんだか真剣な顔だった。
「俺と、友達になってくれないか」
「……」
「あ、突然変な事言ってゴメンな。イヤなら別に……」
「……ううん、いい」
意を決したように私と友達になりたいと言ってくれたユイトの、手を握る。
「友達、うれしい。……ん、私は今日からユイトの友達」
「そ、そうか。よかった……。これからもリリーといっしょにいたいって思ったからさ」
「……ん」
胸の奥をじんわりとあたたかい物が広がってくる。
これまで私に近寄ってくる人は、私の家とのつながり目当てだったりしたから多分何も知らずに友達になりたいと言ってくれたユイトの言葉が、うれしかった。
それから私達は、2人でクエストに挑むようになり、クエストが終わった後はいっしょにコーヒーを飲む仲になった。
周りから付き合ってるんじゃないかとか言われるけど、私とユイトは友達だ。
かけがえのない、大切な友達だ。
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あれから何年経っただろう。
近くも感じるし、遠くにも感じる。
あんな事があっただけに、ずっと待っていただけに、時間の感覚がない。
「ユイト」
仕事帰りに、待っていた人物と出会う。
たまに広いお風呂に入りたいからと、家のお風呂じゃなくて公営浴場を使っているユイトだ。
「リリー? 何か用か?」
「……ん、用」
私は、ユイトに歩み寄って誰にも聞かれてないだろうけど小さな声で話しかけた。
「気をつけて」
「……」
「領主の娘がユイトの過去を嗅ぎ回ってる」
「……」
「私達、色々聞かれた。もちろん誰も何も教えてないけど、多分、感づいてる。ユイトの過去に何があったか。聡い人だから」
「……そうか」
「レベッカや、神官の子は気にしない事にしたみたいだけど、領主の娘はきっと、踏み込んでくる」
「そうだろうな」
ユイトが、ハアっとため息を吐く。
きっと私に言われる前から、覚悟していたのだろう。
「……どうするの?」
「どうするもこうするもない。その時になったら考えるよ」
「……ん」
口ではこう言ってるけど、多分ユイトはもうどうするか決めてる。
それを止める権利は、私にはない。
……許せない。
人の過去を探って、傷口をえぐろうとするなんて。
「ユイト、もし何か」
「大丈夫だって」
私の言葉を遮り、ユイトが下手くそな笑顔を作って手を振る。
「大丈夫だ」
……その顔は、あの頃と同じだった。
あの頃の、大丈夫じゃなかったユイトと。
だから私は、ユイトの手を掴んで握る。
「もし何かあったら、私を頼って」
「リリー……」
「黙っていなくなるのは、もうイヤ」
ユイトの瞳を、ジッと見つめる。
ユイトの目から光が消えたのは、いつだったのだろう。
どうして私は、気づけなかったのだろう。
後悔しても後悔しきれないあの頃の傷を、私はずっと抱えてる。
「今度は、頼って」
「……ああ」
私の手を振りほどいて、ユイトが去って行く。
その後ろ姿は、
あの頃と変わらなかった。
・クリスの印象
ユイト「バカを言い合える友人」
セイラ「色々危険人物。隙あらばユイトにボディタッチしてる」
レベッカ「裏表なさそうだけど、裏表あるって誤解されてそう」
アスミ「色々危険人物。隙あらばユイトさんに近づいてる」
カイル「ギルドの男達の人気者。なぜかユイトに懐いている」
ゲイル「勘違いしちゃうから思わせぶりな態度はやめてほしい。多分ユイトが好き」
ノッシュ「まだ冒険者時代のトラウマを引きずってる?」
リリー「色々危険人物。隙あらばユイトに養ってもらおうとしてる」
ミア「ちょっと苦手」
バロン「釣り仲間」
マシュー「男には人気あるけど、女に好かれないタイプ。でも本人は気にしてない」




