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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第3章「男の正体」

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第74話「託されたもの」

 教会の庭で、皆が囲んでいるのは棺だった。

中は見ていないが、誰が入っているのかは明らかだった。


「ジンジャーが、死んだ……?」

「ああ、魔王の幹部に殺された」

「魔王の幹部って、一体、どんな奴に……」

「あのガーゴイルだ。前にセイラの姉ちゃんがレクチャーしてくれただろ? 空を飛んで隕石を落としてくる奴だ」


 カイルに言われ、俺はセイラから聞いたガーゴイルの事を思い出す。

翼に魔王の幹部の紋章がある、王都を襲った空を飛ぶガーゴイル。

隕石を落として攻撃してくる魔王の幹部の事を。




「……カイル。何があったのか順を追って話してくれないか」

「ああ、分かった」




 気持ちを落ち着けてカイルに尋ねると、カイルも覚悟を決めた顔で俺に頷いた。

そして何があったのかを話してくれた。

それは、近くの山にあるあばら屋を探索している時の事だった。

イゾウがいた痕跡を見つけ、けれども大した収穫が見つからず引き上げようとしていた時に魔王の幹部のガーゴイルが襲いかかってきた。

空からの隕石の攻撃。

ミアを庇い、ジンジャーは右腕を潰された。

ミアの魔法もカイルの矢も届かず、ゲイルの盾で受けるのもやっとという攻撃に一方的に蹂躙されかけた頃、ジンジャーが刀を抜いてこう言った。


「『俺が隙を作る。ミアのテレポートでお前達は逃げろ』って……」


 カイルの返事を待たず、ジンジャーは空を駆け上がって魔王の幹部へと挑みかかった。

自分達だけ逃げるなんて提案、受け入れる訳にはいかなかったが、このままじゃ全滅だと踏んだカイルはミアにテレポートを促した。

そしてテレポートで逃げる直前、カイル達が見たのは隕石の直撃を食らい空から落ちていくジンジャーの姿だった。


「俺達はこっちに戻った後、すぐにセイラの姉ちゃんやレベッカちゃん達を連れてあの場に戻った。でも、戻った頃には……」


 俺は皆が囲んでいた棺へとふらりと踏み出す。

そこには、血まみれの黒いターバンが……


「ユイトさん」


 俺と棺の間にアスミちゃんが割って入り、俺の目をまっすぐに見る。


「ご遺体を清めますので、お湯を沸かしてきてください。一番大きな容器に、たっぷりと」

「あ、ああ……」

「他の皆さんは棺を霊安室まで運んでいただけますか?」

「わ、分かった」


 アスミちゃんの頼みを受け、カイル達が棺を持ち上げ俺は教会の居住スペースへと歩き出す。

自分の足が自分のものじゃないみたいだ。

ジンジャーが死んだ。

その事実が受け入れられなくて。


「大丈夫?」


 レベッカが、俺に近づいて声をかけてくる。


「……大丈夫だ」


答える俺の声は、

全然大丈夫じゃなかった。




****************************




 ジンジャーの通夜と葬儀はしめやかに行われた。

身寄りがいないジンジャーの喪主は、破門されたとはいえ唯一の弟子である俺が執り行った。

役所への面倒な手続きは、セイラがしてくれるという。

葬儀にはジンジャーを慕うこの街の冒険者や、街の人達が大勢集まった。

遠くからも著名な冒険者が駆けつけた。

ジンジャーの人徳と実力が、よく分かる葬儀だった。


「ユイト」


 ジンジャーと古い付き合いの道具屋、ムジカがグレイヘアーを掻きながら、大きめの袋を手にやって来た。


「この度は……大変だったな」

「大変だったのは俺じゃない。カイル達の方だ。魔王の幹部を、相手にしたんだからな」

「お前さんもよくやってるよ。あの花もこのパーティーもお前が準備したんだろ?」

「俺は……大した事してねえよ」


 ジンジャーの送別パーティーをやろうと言い出したのは皆だ。

俺はただ、その中心に祭り上げられて準備を進めただけにすぎない。

この後の片付けには参加しなくていいと言われて、気を遣われっぱなしだ。

飲めない酒をテーブルに置き、俺は椅子に座り込む。

今更ながらどっと疲れが出てきた。

こんなんで明日、墓地までジンジャーを運ぶ事ができるのだろうか。


「受け取れ」


と、ムジカから何かを放り投げられ思わず受け取る。

それは、紫の鞘に入った短めの刀だった。


「コイツは……ジンジャーの刀!?」

「ああ」

「いやいやいや! 受け取れねえよ! こんなもん!」

「ジンジャーに頼まれたんだよ」


 返そうとする俺に、ムジカが手を出して断る。


「ジンジャーに?」

「『自分が死んだら、コイツをユイトに託してくれ』って」

「ジンジャーが……」

「手入れはしておいた。何かあったら持ってこい」


 ムジカに言われ、俺はジンジャーの刀を見る。

ジンジャーが滅多に抜かなかった。大切にしていた刀。

そいつを俺に託すなんて、ジンジャーは一体何考えて……

そんな事を思いながら俺は刀を抜こうとする。抜こうとするが……抜けない。


「オイムジカ、抜けねえぞ」

「そりゃお前がまだこの刀に認められてねえからだよ」


 ムジカが俺から刀を奪い、鞘から抜いてみせる。

しかし再び鞘に収められた刀を、俺が抜こうとしても抜く事はできない。


「抜けねえぞ」

「だからお前が刀に認められてねえからだって」

「ムジカは抜けるのに?」

「俺は鍛冶屋として認められてるからだよ。実際、弟子が抜こうとしても抜けねえ」

「つまり……この刀に認められた奴しか抜く事ができねえって事か」

「ああ、そうだ」

「面倒な刀だな……」


 ムジカが、大きめの袋から何かを取り出し俺に渡してくる。


「受け取れ」

「こいつは?」

「その刀と同じ長さ・重さの木剣だよ。そいつで鍛錬して、刀に認められる男になる事だな」

「……」

「ジンジャーがよく言ってたぞ。お前みたいに出来の悪い冒険者見た事ねえって、でもお前に期待してるってな」

「ジンジャーが……」

「じゃあな、期待、裏切るんじゃねえぞ」


 少ない言葉で言いたい事を言い、ムジカが去って行く。

その背中は、どこか寂しそうに見えた。

俺はジンジャーの刀と、ムジカに渡された木剣。

ふたつの託されたものの重さを感じていた。

ジンジャーの刀

「えっ? お前が受け継ぐのかよ? しょうがねえなあ。でも実力つくまで抜かせねえからな!」

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