第68話「再び王都へ」
「王都に行く事になりました」
朝。
俺とセイラとレベッカが朝飯を食べている所にやって来たアスミちゃんが、ちょこんと正座して切り出した。
ご飯食べる?と尋ねたら食べると答えられた。俺はアスミちゃんにご飯をよそった。
「王都に? 一体何しにですかアスミ様?」
「サレン様祭りの準備です」
「ああー……あの奇祭ね」
「奇祭言うな。サレン様祭りは由緒ある豊穣と冒険の祭りだぞ」
「それがどうして仮装と花火と水の掛け合いの祭りになるのよ」
レベッカの疑問はもっともかもしれないが、サレン様はお祭り騒ぎが好きらしいので仕方がない。
そう街のあちこちで仮装した人間が水を掛け合い、夜には花火を上げまくるのは仕方ない。
「サレン様のためにも盛り上げないとな! いっちょやってやるか!」
「なんでそんなに張り切ってるのよ。ちょっと怖いわ」
レベッカが若干引いた目で見ているが、領主へのストレスが溜まっている俺達にとって祭りは領主に合法的に水をぶっかけられる絶好のチャンスだ。最近ははじまりの挨拶以外出てこなくなってしまったが、俺達は挨拶の途中でもあの領主に水をぶっかける気満々だ。
去年は空から大量の水をぶちまけてやったから、今年はミアやリリー達の魔法を使って地面から水を噴き上げさせる予定だ。
「それで、ユイトさんに王都についてきて欲しいんです」
「アスミ様、何故この男に?」
「ジンジャーさんが探索に出ていて、この街の防衛は手薄になっています。未だに門も修理できていませんし、高レベルのセイラさんやレベッカさんはこの街に残ってもらわないといけません」
アスミちゃんの言うとおり、ジンジャーがイゾウの痕跡を探すために出かけて2週間。
カイルとゲイルとミアという戦力もおらず、この上セイラやレベッカがいなくなるのは魔王軍がいつ攻めてくるか分からない以上よくないだろう。
そして俺は別にいてもいなくてもいいようなクソ雑魚冒険者である。
「ていうか城門がリューガに壊されてもう1ヶ月半だぞ? いつになったら修理に取りかかるんだよ?」
「うっ……。それが、父上がまだ業者の選定に時間をかけているのだ。連日接待を受けていてな……」
「あの野郎……」
どうにもきな臭い話になってきた。
真面目そうな顔して金と権力に汚い領主にはこういう話が多い。
それでいて庶民には厳しいので領主の人気はもう底辺だ。
「急がせた方がいいぞ。またいつ来るか分かんねえんだからよ」
「それは分かっている。分かっているのだが、どうにも話を聞いてくれなくてな」
ハアっとため息を吐きながらセイラが疲れた顔をする。
コイツも色々と大変なようだ。またバインドを食らわせてくれと言われるかもしれない。
「城門の話も大事ですが今はサレン様祭りの準備の話です。王都の大聖堂で受け取るご神体は大きいですからわたし1人では運べません。わたしの前のご年配の神官の方も、冒険者に手伝ってもらっていたのでしょう?」
「まあ、そうだな……」
アスミちゃんの前のバアさん神官も、ゲイルやバロンなどの力自慢の冒険者に王都までついてきてもらってサレン様祭りの準備をしていた。
そう考えるとアスミちゃんが俺について来て欲しいと考えるのは妥当な所だろう。
「そういう事なら俺はいいが、いいか? セイラ」
「構わん。精一杯アスミ様をサポートして差し上げろ」
「お土産よろしくねー」
こうして俺は、セイラの了解と、レベッカからはお土産のお願いを頼まれ1ヶ月ぶりに王都へ行く事になった。
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「『テレポート』!」
レベッカのテレポートで飛ばされ着いたのは王都の城門。
この前来たのと変わらない風景だ。
アスミちゃんといっしょに城門前で並び受け付け審査を済ませ王都へと進んでいく。
賑やかな街並みを、大勢の人間が行き交っている。
俺の故郷の田舎や、辺境で落ち目のレイフォード領じゃ見られない光景だ。
「しっかし相変わらず人が多いな」
「フフ、そうですね」
「アスミちゃんは魔法学校に通っていたんだって? じゃあこの人混みにも慣れてる?」
「わたしが通っていたのは神学科ですから授業や修行が多かったですし、それほど外に出る機会は少なかったですね。でもレベッカさんと出会ってからはよくいっしょにお出かけするようになりましたね」
「レベッカとは魔法学校で出会ったのかい?」
「それがちょっと違うんです。わたしとセイラさんがまず先に知り合って、そこから縁あってレベッカさんと知り合うのですが……この話はレベッカさんの許可がないと話せませんね」
「え? なんで?」
「フフ、レベッカさんにとってあまり聞かれたくない話だからです。レベッカさんから話して下さるまでお待ちください」
クスクス笑いながら、アスミちゃんが神官服の袖で口元を押さえる。
どうやらアイツなんかやらかしているようだ。
それにしてもこんな小さな子が大学に当たる魔法学校を卒業してるとは恐れ入る。
慣れてしまって忘れかけているが、この子は相当すごい子なのだろう。
「さて、大聖堂に行く時間には早いですしどこかで……」
「あーっ! ユイトさん!」
「おっ?」
聞き覚えのある賑やかな声がして、振り返ると第三王女ミソラ様がこちらを指さしていた。
そしてものすごい速さでこっちに駆け寄ってきた。
「ご無沙汰してます! ひと月ぶりですね! また魔王の幹部を倒されたのですか!」
「いや、倒したのは俺じゃないし今日はサレン様祭りの準備のためにこの子についてきた」
「この子? おおっ! 論功行賞の時にいた神官の方ですね!」
「はじめましてミソラ様。お目にかかれて光栄です」
第三王女に向けてアスミちゃんが、丁寧な挨拶と礼をする。
「それにしても1人か? ……まさかまた城を抜け出したなんて事は」
「そのまさかだ」
足元の影からにゅうっと長身で黒ずくめの男が現れ、ミソラ様がかぶっているフードの首根っこを掴む。
「捕まえたぞミソラ様。今夜はお仕置きだから覚悟しろ」
「お仕置きはやめてくださいクロカゲさん! いいじゃないですか! 私だってたまには自由が欲しいんです!」
「週に1度は抜け出してるじゃないか。魔王の手の者が紛れ込んでいたりしたら大変だからやめてくれ」
「大丈夫です! 返り討ちにしてくれます!」
「そりゃそうだろうけど、あんまり心配かけるなよ……」
シュッシュッとシャドーボクシングする『戦う王女』に向けて、俺は苦言を呈する。
王女が急にいなくなるなんて、付き人にしてはたまったものじゃないだろう。
探し回るのも大変だろうし、何かあったらと心配になるだろう。
俺はクロカゲに同情した。
ていうか週に1度って……、結構な頻度で抜け出してるなこの王女。
「首輪でもつけたらどうだ」
「フム、考えてみるか」
「やめてください! その、2人きりの時ならいいのですが……」
俺の提案にクロカゲは検討に入り、ミソラ様は何やら顔を赤らめてモジモジしながらクロカゲを見た。
そういえばこの2人、婚約者同士だったな。
まさか手を出したりはしてないだろうが……
「それよりクロカゲさん! ユイトさん! それから……ええと、あなたのお名前は?」
「アスミです」
「アスミさんもいっしょに、焼肉食べに行きましょう! お代は私が……クロカゲさんがお出しします!」
「また財布忘れたんだな」
「お仕置き追加だな。まあ構わんが」
「いいですね! わたしもユイトさんと焼肉行くの初めてです!」
「それと、お2人に王城に来て頂きたいです」
「王城に?」
「エリア姉様が……、最近またご病気が悪化されて元気がなくて。ですがユイトさんのお手紙を楽しみにされているので、ユイトさんにお会いできればきっと元気が出ると思うんです! だからお願いします!」
「そういう事なら俺は喜んで伺うが……。アスミちゃん、いいかな?」
「もちろんです。時間には余裕がありますしいいですよ」
「ありがとうございます! では先に焼肉に行きましょう!」
ミソラ様が喜び勇んで焼肉屋へと向かい出す。
よほど焼肉が食べたいらしい。
俺達はそれぞれ顔を見合わせて笑みを浮かべ、後をついていくのだった。
・第三王女の財布を忘れた時の対処法
潔く謝る。大体その時にクロカゲが駆けつける。
それか店主が第三王女だと気づき「お代は結構です!」と言い出してる間にクロカゲが駆けつける。
その晩はたっぷりお仕置きされる。
ちなみにユイトと焼き肉屋に行った時もミソラの影の中にクロカゲがいたが、面白そうだからという理由で出なかった。




