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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第3章「男の正体」

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第64話「ズルい女」

「おはよう」

「……ああ、おはよう」


 あたしの顔を見たユイトが、どことなく浮かない様子でお茶を注ぎ始める。

いつも寝ぼすけのあたしが早く起きてきたのも計算外だったのだろう。

あるいは、あの女に会いに行く事を考えていたのかもしれない。


「ねえ、今日クエスト受けに行かない?」

「クエスト?」

「前にあんたと行ったの、1ヶ月以上前じゃない? アンタもレベル上がったんだし、久しぶりにいっしょにクエストやりましょうよ」

「……」


 あたしの提案に、ユイトが思案気な顔になる。

コイツが最近、高額報酬のクエストを受けているのは知っている。

あたしは高レベル冒険者だからリリー達と組むより高報酬のクエストを受けられる。

その誘いに揺らいでいるのだろう。


「あたしとアンタだけで不安だってなら前衛職系の冒険者をもう1人いれましょ。それなら大体のクエストは余裕でしょ」

「……まあ、そういう事なら」


 若干渋々気ながら、ユイトが頷いてご飯をかきこみ出す。

コイツは多分感づいている。

あたしが何が目的で、いつもと日にちをずらしてこっちに泊まりに来たのかを。

あたしは何食わぬ顔で食卓につき、ユイトが注いだお茶を飲み干した。




****************************




「ユイト! 準備できたぞ!」

「オウ! レベッカ、頼む!」

「『インフェルノ』!」


 あたしの魔法が、ツンツン頭の槍使いマシューが撒いた油に引火してポイズンスライムが炎上する。

周りに延焼するものがない場所まで誘い出して、油を使って火力を上げてポイズンスライムを焼き殺す。

毒の粘液をまき散らすポイズンスライムに、何もさせずに倒してしまった。

ユイトの作戦通り完璧な結果だ。


「よくこんな手を思いついたわね」

「昔ジンジャーに聞いたことがあるんだ。ポイズンスライムは自分がぬるぬるしてるから油に気づかないし、炎系の魔法に弱いってな」

「しかしここに誘い出す策まで、よく考えたもんだな」


 槍を肩にかつぎ、マシューが呆れたような感心したような表情を浮かべる。

ポイズンスライムを焼き殺す時に、山火事を起こしたりしないよう果物系モンスターの実や汁をエサにして河原に誘導するなんて。

あたしじゃとても思いつかないような作戦だ。コイツはやっぱり機転が利く。


「ジンジャーに教わったんだよ。スライム系のモンスターを誘い出すにはこの手が一番だってな」


 前言撤回。コイツにはいい師匠がいるからのようだ。


「今日のMVPはユイトだな。レベッカちゃん、クエストの報酬の分け前はユイトに40万マニー、俺とレベッカちゃん2人は30万マニーでどうだ?」

「いいわよ。あたしは最後に魔法唱えただけだし、策を立てたのはユイトだしね」

「え? いいのかよ」


マシューの提案に同意すると、ユイトが意外そうな顔をしてくる。


「いいも何もないわよ。あたしのインフェルノだけじゃポイズンスライムは倒せなかったでしょうし、近寄ると毒液をまき散らしてくるからフレイム・インパクトを使える相手じゃないし、おかげで安全に退治できたわ」

「ああ、遠慮せずに受け取れよ」


 ユイトに分け前を多くしようと提案してきたマシュー。

おそらくあの女の事を知っているのだろう。そして、ユイトが金策に翻弄している事も。

マシューとユイトが意味ありげなアイコンタクトを行う。


「じゃあ遠慮なく受け取らせてもらうよ。……しかしコイツ、倒した後の始末が厄介そうだな」

「同感ね」

「まったくだ」


 紫色の煙を上げながら燃えているポイズンスライムに、あたし達は鼻と口をハンカチやタオルで押さえながらうへえという顔をしたのだった。




****************************




「こんばんわー、ユイトさん……」

「あいにくだけどユイトならいないわよ。今、ポイズンスライムの後始末をギルドの職員といっしょにしてるから」


 夕方。

セイラの家の玄関を開けたエレナが、あたしの顔を見て驚いた顔をする。


「どうして……」

「どうしてあたしが今日ここにいるのか、ですって? アンタに話があるからよ」

「……帰ります」


 踵を返し外に出ようとするエレナ。

その銀髪の背中に声をかける。


「アンタ、前からちょくちょくこの家を覗いていた女でしょ」

「……」

「その銀髪、見覚えがあるわ。物盗りにしては動きが素人くさいし妙だと思ってたけど……ユイトに気づいてもらうためかしら?」

「……」


 ユイトが気づくか気づかないかくらいの距離と場所で、ちょくちょくこの家を伺っていたエレナが、あたしに背を向けたまま黙り込む。

その美しい銀髪から、何度も嗅いだシャンプーの匂いがした。


「アンタ、金がないなんてウソなんでしょ」

「……」

「化粧に縁がないアイツには分からないでしょうけど、そのファンデもリップも、相当な高級品よ。それだけじゃない、アンタは貯金も持っている。少ないけどひと月は暮らしていくのに困らない額をね」

「どうして……」

「あたしの親友がアンタの事を調べ上げてるからよ。故郷の事も家族の事も、色々とね」


 こちらを向いたエレナが、キッとあたしの事を睨む。


「個人的な事を勝手に調べ上げるなんて、良心が痛まないんですか?」

「そっくりそのままお返しするわ。あのバカ騙して金受け取って、良心痛まないの?」


 あたしの言葉にエレナが、だんまりを決め込む。

あたしはエレナに向けて、言葉を続けた。


「安心なさい。あたしはあのバカに告げ口するつもりはないわ。アイツの事も、アンタの事もどうでもいいからね」

「それじゃあ……」

「ただし、アイツにこれまで借りたお金を全額返して、もう2度と会わないと約束するならね」

「……脅すつもりですか」

「さあ? アンタのやってる事はギリギリ詐欺罪にならないとはいえ問題にはなるからこの辺が妥協点じゃない? 今の内に引くのが正しいわよ」

「……帰ります」

「ええどうぞ。言っとくけど当分はあたし、ここに泊まり続けるしセイラもこの家に来るわよ。これまでみたいに来れると、思わない事ね」

「……」


 何も返さずにエレナが、この場を後にする。


「……どうやらかなり、手強そうな女ね」


 あの顔はまだ、諦めていない女の顔だ。

まったく、あのバカのどこがいいのやら。

そしてあのバカは、あの女のどこがいいのやら。

……まあ確かに、キレイな女だしスタイルもいいし、あたしと違って色気もあるけど。


「そして多分、賢い女ね。色んな意味で」


 頭がいいというだけじゃない。

人の心理を巧みに読み操るのが上手そうなタイプだ。

あたしに話が通じないとみるや、サッと引いたのも賢い立ち回りだ。


「でも……、セイラはそんなに甘くないわよ?」


 あの女がどんな手を使おうと、セイラはその上を行く。

アイツもあの女もセイラをどう見ているか知らないけど、

セイラはやると決めたら徹底的にやる女だ。

これから先果たしてどうなるか。

あたしは玄関を閉めてお風呂を入れに行った。

・ポイズンスライムの退治のクエスト報酬

 100万マニー(ユイト40万マニー。レベッカとマシュー30万マニーずつ)

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