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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第3章「男の正体」

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第63話「バカな男」

「少しだけ、お金を貸してくれませんか?」


 目の前にいるエレナちゃんが、上目遣いで俺を見つめる。

美しい青い瞳に見つめられ、断ろうとした俺は目を逸らしてしまう。

そんな俺の手を握って、エレナちゃんが言葉を続ける。


「ユイトさんお願い、3万マニーだけ貸して? お母さんのお薬代が必要なの」

「薬代? そんな高い薬があるのか?」

「お母さん、重い病気で、お薬代がかかってて……。前はお仕事のお金を送ってたんだけど、このひと月働けてなかったし……」

「給料の前借りはできないのかい?」

「……頼んでみたけどダメだって言われて。お願い! お給料が入ったらすぐ返すから!」

「ま、まあ……すぐ返すなら貸してもいいけど」

「ありがとう! ユイトさん、大好き!」


 エレナちゃんに抱きつかれ、俺は頭の中がクラクラするような気持ちを覚える。

柔らかい身体に、サラサラの銀色の髪。

抱き返したい気持ちをグッと抑えるために、俺は拳を握る。


「……エレナちゃん、3万でいいんだな?」

「あっ、うん……」

「分かった。持ってくるから放してくれ」

「……」


 エレナちゃんがゆっくりと俺から離れていく。

俺は彼女を見ないようにしながら玄関を上がり、自分の部屋に金を取りに行く。

今回だけ、今回だけだと俺は自分に言い聞かせる。

けれども、もう取り返しのつかない沼にはめられた事を自覚しているのだった。




****************************




「ユイト! そっち! 行った!」

「おう! ……ちいっ!」


 突っ込んできたブラッディウルフの攻撃を、銀の盾で受け止める。

受け止めている間に大柄なアサシンのバロンが、素早くブラッディウルフの急所をナイフで刺し仕留める。


「リリー! まだか!」

「……んっ! 準備、できた! 『ママラガン』!!!」


 広範囲の高威力攻撃、リリーの雷魔法が完成し、ネバネバ網玉に足を取られているブラッディウルフの群れをまとめて仕留める。

ブラッディウルフ達が雷に打たれ倒れる。

俺とバロンは一体一体とどめを刺していき、クエスト達成を確認したのだった。


「やったな。見ろよ、俺レベル27に上がったぜ」

「バロンも、上がった。レベル42」

「……ん、おめでとう」


 冒険者ブックを確認すると、またレベルが上がっていて俺は喜ぶ。

1ヶ月半前までレベル4だったのがウソみたいだ。

いつものようにお湯を沸かそうとして、リリーに止められる。


「今日は、私がする。ユイトは、休んでて」

「おお、悪い……」


 銀の盾と鉄の棍を下ろし、俺は地面にへたり込む。


「やっぱゲイルやノッシュみたいにはいかねえな。不安定な盾役ですまなかった」

「……ん、別にいい」

「ユイト、頑張ってた。バロン、認める」


 ゲイルやノッシュみたいにやれればよかったが、ブラッディウルフを止めるで精一杯だった俺が謝ると、リリーとバロンが気にしなくていいとばかりに言うが、反省点だらけだ。

もっと、頑張らないと……


「……ユイト、お金に困ってる?」

「え?」

「……ここ最近、無理して高報酬クエストばかり受けてる。今日だって、私とバロンがいたけど、本当はもっとレベルが高い人が受けるべきクエスト」

「……」


 俺の方を見ずに、ジッとお湯を沸かしているリリーの言葉に、俺は拳を握る。

リリーに心配はかけたくない。前に、あんなに心配させてしまったから……


「今日のクエストの報酬、私は0でいい。ユイトにあげる」

「バロンも、0でいい」

「いや、それはダメだ。事前に約束した通り、ちゃんと3等分しよう」

「……でも」


 リリーが、夜空を煮詰めたような黒い瞳で何か言いたげに俺を見る。

けれども俺は、友達を失いたくないのでリリーとバロンに頭を下げる。


「頼む」

「……ん、分かった」

「バロンも、分かった」


 リリーは少し不満げに、バロンはいつも通りの感じで俺の頼みを受け入れた。

その日のコーヒーは、少し苦かった。




****************************




「エレナちゃん、これ、30万マニー」

「ありがとうユイトさん! お母さんが、家賃が払えないって……」

「いいからいいから。すぐにお母さんに送ってあげな」


 初めてお金を貸してから2週間。

エレナちゃんはやれお母さんのお薬代が足りないだの、妹の学費が払えないだのと言って俺に金を借りに来た。

もういくら貸したのか考えたくない。

セイラ達にバレないように、セイラやレベッカがいない日や時間を教えて金を貸す日々だ。


「あの、ユイトさん……」


 居間の座布団に正座しながらエレナちゃんが、目を潤ませながら俺の手を握る。


「私、ユイトさんに本当に感謝してるの。お給料が入っても、借りたお金すぐには返せないだろうから、代わりに……」

「エレナちゃん、暗くなる前に帰った方がいいよ。大通りまで、送ってあげようか」


 何かを言いかけるエレナちゃんを遮り、俺は彼女にそう言う。

エレナちゃんは、口を真一文字につぐみながら俺から手を放す。


「ううん、大丈夫。じゃあまた今度ね」

「ああ」


 絶対に「また」と言わないようにしながら、俺はエレナちゃんから目を逸らし立ち上がって洗面所へ向かう。

少ししてエレナちゃんが、玄関を閉める音が聞こえてくる。


「……フーっ」


 洗面器に水をいっぱいに溜めて、顔をバシャバシャ洗う。

最後まで聞いていたら、流されてしまっていただろう。

それだけは、絶対にそうなってはいけない。

俺はもう1度、水で顔をバシャバシャ洗う。

ビチョビチョの顔をタオルで拭いていると、玄関が開けられる音が聞こえてくる。


「ただいまー! あたしが教会から帰ってきたわよー!」

「レベッカ?」


 いつも月曜から木曜までアスミちゃんの教会に泊まり、金土日はこっちに泊まるのがパターンのレベッカが帰ってきた事に、疑問を覚え玄関まで行く。


「どうしたんだ?」

「どうしたも何もないわよ。あたし、今日からこっちに泊まるから」

「え? 教会で何かあったのか?」

「別に何も? 今週はこっちに泊まる気分なの」

「……」


 エレナちゃんには、セイラとレベッカがいない日や時間を教えている。

そして金を貸している事は、誰にも言わないように口止めしているはずだ。

なのにレベッカがルーティンを崩して、帰ってくるなんて……


「なあに? あたしがこっちに泊まると困る事でもあるの?」

「い、いや、別にねえけどよ……」

「じゃあ別にいいでしょ。あ、お風呂先に入らせてもらうわねー」


 鼻歌を歌いながら、レベッカが風呂場へと向かっていく。

その後ろ姿に、俺はこれから起こる不穏の気配を感じるのだった。

・ブラッディウルフの群れの退治のクエスト報酬

 100万マニー(ユイト、リリー、バロンそれぞれ33万マニー。残りの1万マニーは3人で食事に使った)

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