第61話「アスミ様の懺悔室④」
「アスミちゃーん、あたしが告解に来たわよー!」
「レベッカさん、声が大きいです。よろしくお願いします」
名前を聞かなくても分かる声の持ち主が、椅子に座ります。
三つ編みにして左に流した紅の髪が仕切りからちょこっと覗きます。
ていうか、レベッカさんから告解を受けたいと言い出したのです。
「では、あなたの罪と悩みを打ち明けてください」
「罪はないわねー。悩みは……ありすぎて困るわ」
「でしょうね」
わたしとレベッカさんは、長い付き合いです。
なのでレベッカさんの色々な事情を知っているため、そのお悩みが多い事も知っています。
魔法使いの里は、色々とややこしいそうですから……
「アスミちゃん、ユイトの利き手ってどっちだと思う?」
いきなり、レベッカさんが変な事を尋ねてきました。
ユイトさんの利き手? それがこの告解と何の関係があるのでしょう?
「右手じゃないんですか?」
「残念ながら外れよ。アイツ、両利きよ」
「え?」
「なんかおかしいと思って色々試したの。右手にペンを渡したり、左手に箸を渡したり、反対に左手にペンを渡したり、右手に箸を渡したり。でもアイツ、どっちも同じように使えるのよ。字はどっちも下手だけどね」
「それって……」
「初めてクエストに行った時からおかしいと思ってたの。アイツ、右手でも左手でも物を投げていたから。手だけじゃないわ。多分足も両利きね。そうできるように訓練してるのよ」
「それって、多分……」
「ええ、あのジンジャーさんに鍛えられたのね。ジンジャーさんも両手で物を投げたりしてたから。でもおかしいと思わない? あのジンジャーさんに鍛えられたアイツが、なんで10年近くも冒険者やってレベル4だったの? レベルが上がりにくいシーフとはいえよ」
「……」
「セイラも同じ事を思ってたみたい。だからあたしもセイラも、何度もアイツやリリーや、他の冒険者達に尋ねた。でも皆決まってその話題になると話を逸らしたりはぐらかしたりするの」
「……」
「この街の冒険者は、アイツについて何か隠してるわ」
「何をですか?」
「多分、過去」
「……」
「何があったか分からない。でもアイツは、何かがおかしい。アイツはこの街に来てからの10年の間に……」
「いいじゃないですか」
「え?」
「過去に何があったとしても、ユイトさんはユイトさんです。それに誰だって人に知られたくない過去をひとつやふたつ持っているものです。わたしやレベッカさんがそうであるように」
「……」
わたしに諭され、レベッカさんが黙り込みます。
ですがこれがわたしの答えです。
わたしは気づいてました。
これまで告解に来たカイルさんやノッシュさん達が、わたしをナンパしようとしたりお子さんののろけ話をしたのは、何か聞かれたくない話があるからだと。それを聞かれないために先んじてそんな話をしたのだと。
……ゲイルさんやマシューさんは本気の悩み相談とただの軽いナンパでしたが。
「……アスミちゃんは、すごいわね」
「えっへん。そうでしょう。わたしは大人なんです。お酒も飲めるし、キスだってした事あるんですから」
「いやお酒飲むのはあたしもどうかと思うけど……って、キス? アスミちゃん、いつアイツとキスしたの?」
「にゃっ!? だ、誰もユイトさんだなんて言ってないじゃないですか!」
「ユイトだとは言ってないわよ。へー、ユイトとキスしたんだ。アイツ、あたしが下着姿でウロウロしてても興味ないって顔してるのに、アスミちゃんには手を出すのね」
「ユイトさんからじゃありません! わたしからしたんですう!」
「アスミちゃんから!? ねえそれどういう事!?」
「レベッカさんこそどういう事ですか! 下着姿でウロウロしてたって! 誘ったんですか! ユイトさんを誘ったんですか!」
「そ、そんなつもりじゃないわよ! ただちょっと、服着るのが面倒だったのと、ユイトの存在忘れてて……」
「レベッカさんのそういうずぼらな所、ダメだと思いますう!」
「裸でウロウロするアスミちゃんには言われたくないわよ!!!」
……こうしてわたし達は、人には言えない話をしたのでした。
これは告解じゃないという苦情は、受け付けません。




