第60話「ひと月の成果」
鍬を振り下ろして、土を耕す。
雑草や石ころを取り除き、肥料を混ぜていく。
「朝から精が出るな」
イゾウとの戦いから3日。
いまだに調子が戻らないのか、寝坊したセイラがパジャマ姿で縁側から俺に声をかける。
ちなみにレベッカは昨日今日明日とアスミちゃんの教会に泊まっている。
「そろそろこっちに秋野菜を植える準備もしておきたいからな。ジャガイモかサツマイモを植えるつもりだ」
「イモか……。それはいいな。楽しみにしておこう」
「ああ、期待しとけ」
イモ系統は生命力が強いので病気にも強いし、この畑ならかなりの収穫が期待できるだろう。
ガッツリ食べる派のセイラが満足する量が取れるはずだ。
「貴様と出会って1ヶ月か。どうだった?」
「どうだったも何も、色々ありすぎだろ」
副業先は潰れるわ、領主の娘にバインドをかけてくれと頼まれるわ、女魔法使いに消し炭にされそうになるわ、男嫌いで裸族の神官に嫌われた後に懐かれるわ、ドラゴンに遭遇するわ、サレン様に会うわ、魔王の幹部が2人も来るわ、王都に行くわ、王女と文通を始めるわで……
「そうだ。エリア様に出す手紙、目通してくれたか?」
「ああ。しかし貴様、読めなくはないが字が下手だな」
「これでも頑張って書いてるんだよ。内容の方は?」
「問題ない。よく書けていると思う。文章は上手いんだな。字は下手だが」
「ほっとけ」
セイラから手紙を手渡されるが、軍手が泥まみれなのでその辺に置いておくように頼む。
2人目の魔王の幹部、イゾウとの戦いをまとめた手紙だ。
エリア様との文通が始まって2週間。
やりとりした手紙は早くも5通を超えている。
「返事が来るの、めちゃくちゃ早いんだよな。字もキレイだし」
「エリア様の文通好きは有名だからな。それに冒険者の話は珍しいのだろう」
「ただ、病弱だっていうのは可哀想な話だよな。何の病気なんだ?」
「分からん。王都の医者がこぞって診察しているそうだが……。何の病なのか分からぬそうだ」
眉根を寄せて、セイラがもどかしそうな顔をする。
大人になってからは会ってないそうだが、子供の頃会ってリオンといっしょに遊んでいたらしい。
その時は活発で元気だったという事だが……
「何にせよ貴様の手紙で少しでもお元気になられれば行幸だ。これからも励め」
「分かってる。それにしてもこのひと月で、色々あったなあ……」
間違いなく俺の人生の中で一番濃い1ヶ月だっただけに疲れとため息が出る。
願わくばこの先は平穏を望みたいものだ。
「1ヶ月記念に今晩は奢ってやろう。何が食べたい?」
「んー……任せる。てか1ヶ月記念て何だ? 付き合ってるカップルじゃあるまいし」
「べ、別にいいだろうが。私と貴様が出会った記念だ。文句あるか!」
「ねえよ」
何やらキレられたので理不尽なものを感じながらも従う。
まあ奢って貰えるのはありがたいしな。
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「うっぷ……、食べ過ぎた……」
夜。
セイラとの食事を済ませた俺が、パンパンの腹を押さえながら歩く。
セイラに任せたら、生まれて初めてフルコースの店に連れて行かれた。
前に王都に行った時に来たスーツを着るよう言われ、髪も整えさせられた。
前菜はちょっとしかないなと思っていたら、次第に量が増えていき、メインのステーキの頃には限界に近づいていた。
どうやらセイラのための特別メニューだったようだ。
デザートは食い切れなかったのでセイラにやった。
セイラは余裕の様子で俺の分のデザートまで完食し、領主の屋敷に戻っていった。
「前々から思ってたけど、アイツやっぱ傑物だわ……。あれだけ食えるのも才能なんだろうな」
バロンやノッシュなど、力の強い冒険者はよく食べる傾向がある。
セイラはあの2人より細身だが、それだけのエネルギーを力に変えているのだろう。
人並みくらいしか食べられない俺が弱いのも道理なはずだ。
「……ハア」
強くなりたいなんて願いはとうの昔に捨てた。捨てざるを得なかった。
だから生き抜く術が欲しかった。ジンジャーに弟子入りを願い出たのもそのためだ。
けれども俺は……
「……ん?」
家の前に誰かが膝を抱えて座っている。
この街では珍しい銀髪だ。ボロボロの服を着た長い銀髪の女が、玄関の前で座り込んでいた。
女が、俺に気づいたのか顔を上げる。
俺は、街灯に照らされたその顔を見て驚いた。
「エレナちゃん?」
「ユイト、さん……」
1ヶ月前、領主の取り押さえから逃げ出したエレナちゃんが、
ウチの前でボロボロの格好で座り込んでいた。
これで第2章は完結となります。
次回は1ヶ月後の更新を予定しています。




