第56話「気にかかる事」
「セイラさん、いえ、セイラ・レイフォード様。『四剣のイゾウ』の懸賞金、50億マニーが出ています!」
「「「オオオオオオオ!!!!! ……オオ?」」」
受付嬢クリスの言葉に冒険者ギルドが歓喜と驚きと、戸惑いのどよめきに包まれる。
「え? たったの50億マニー?」
「『剛腕のリューガ』よりヤバイ奴だったアイツが、たったの50億……?」
「アイツなら1000億くらい行っても、おかしくないと思うけど……」
「バロン、1兆あってもいいと思う」
「あの者の懸賞金は200年前から懸けられているものだからな。誰にも倒せないと思われていたのだろうし、変えられていなかったのだろう」
「割に合わねえなあ、嬢ちゃん。あんなヤベエのを討ち取ったってのに」
「構わん。クリスとやら、懸賞金はレイフォード家ではなくレイフォード領の口座に振り込むよう手続きしてくれ」
「は、はい、すぐに」
レイフォード家ではなく、領にする事に何の意味があるのかは分からないが、まあ領主がらみだろう。俺は触れない事にしておく。
いつもの席にいるクエスト爺さんはニコニコ笑い、いつも冒険者ギルドにいるワシ鼻でスキンヘッドの小男は興味なさそうに魔道具の手入れをしていた。
「しかしすごいな、昨日あんな戦いしたばかりだってのにピンピンしてて」
「ピンピンなどしておらん。身体が泣きそうなほど痛い。アスミ様が回復魔法をかけていてくれなかったら、また気絶している所だ」
俺に向けてセイラが、渋い顔をつくる。
戦いの後、気を失って倒れたセイラをアスミちゃんの回復魔法で治癒したが痛みが残っているという。
魔力で無理矢理身体能力を引き上げる奥義とやらは、身体への負担が相当激しく、アスミちゃんに使用禁止令が出されてしまったほどだ。
まあ、ああでもしないとイゾウには勝てなかっただろうが……
「セイラさん、分かってますよね? 次はもう治療しませんよ? あんな無茶、2度と許しませんからね。今度使っても回復魔法はかけません」
今でもご立腹のアスミちゃんが、ぷくっと不機嫌な様子でセイラを諭す。
身体の中の損傷が激しかったらしく、夜中過ぎまで治療に当たっていた間も『まったくもう!』『こんな無茶して!』と怒りながら回復魔法をかけ続けていたので相当お怒りのようだ。
「うっ……。正直回復魔法なしでアレを使うのはキツイな。分かりました。もう2度と使いません」
「よろしい」
「と、言うより使えないと言った方が正しいな。次に使ったら私の身体が耐えられないだろう。何もできずに力尽きてしまうだろうな」
「そんなすごい技だったのか……」
「奥義と言ってくれ。……私の子孫には受け継がせたくない奥義だがな」
セイラがハーッと疲れた息を吐く。
それくらいしないと勝てない相手だったという事だ。いや、勝てたのが奇跡と言っていい。
それくらい『四剣のイゾウ』はヤバイ相手だった。
「しかし気になる事があるな」
ジンジャーの言葉に、皆の注目が集まる。
ジンジャーは背中に背負った刀の位置を直しながら、椅子から立ち上がった。
「アイツは一体、どうやってここまで来たんだ? 魔王城までは遠いし、あんな目立つ奴が走るか歩くかしてたら、騒ぎになってこっちに連絡が来てただろうよ」
「どうやってって……。そんなのどうでもいいんじゃないか?」
「いや、よくねえ。この前のオーガの集団は細い崖道を通らねえと行けねえ谷に拠点を構えていた。デカいオーガが崖道を通ったとは思えねえ。魔王軍の中にテレポートか何かで移動させた奴がいると見た」
「……」
「魔王軍にテレポートでも使える奴がいるってんなら。いつでもここを襲えるって事だ。これからいつまた魔王軍がこの街に攻めてくるか分からねえ」
「「「……」」」
ジンジャーの言葉に、皆が言葉を失う。
立て続けに魔王の幹部が襲ってきて、しかも討ち取られたからこの街にまた魔王の幹部が来てもおかしくないだろう。
それが大軍でなんて事になった日には……。城門も壊れたままだし、この街の冒険者はもう30人ちょっとしかいないしで、いくらジンジャーやセイラやレベッカがいるとはいえ苦しいだろう。
「……早急に城門の修理を急ぐ必要があるな。父上と話してくる」
「待て嬢ちゃん。話はまだある」
領主の元に行こうとしたセイラを、ジンジャーが呼び止める。
「この前のオーガの連中は谷に拠点を作っていた。あの魔王の幹部もどこかに拠点を作っていただろうよ。そこから何か情報を集められるかもしれねえ。チームを作りたい」
「チームとは? 大規模に探すのか?」
「あんまり人員を割く訳にもいかねえし、少数精鋭で行こうと思う。俺とカイルとゲイル、それにミア。この4人であの魔王の幹部がいた場所を探ろうと思うんだがどうだ?」
「構わない。是非そうしてくれ」
ジンジャーの提案にセイラが頷く。
しかし名前を挙げられたミアが、不思議そうな顔でジンジャーに問いかけた。
「待ってジンジャー、なんでアタシなの? アタシよりレベッカとかリリーの方がいいんじゃない?」
「お前さんの方が器用で色々できるからだよ。こういう探索にはお前さんが一番だ」
「まあ、そういう事なら……」
ミアが、髪をいじりながら照れ隠しをする。
実際ミアは器用でこういう事に向いているというのもあるだろうが、最近こじらせてるし自信をつけさせる意味もあるだろう。
「カイル、ゲイル、お前達もいいか?」
「俺は構わねえけど、ゲイルはどうだ?」
「お、俺も構わないけど。ただまだ鎧と盾ができてないんだ。それができてからでいいか?」
「ああ、構わねえよ。それじゃあゲイルの準備が完成してから始動と行こう」
カイルとゲイルの言葉にジンジャーが頷き、チームが結成される。
けれどもそれに意外なところから異議が出た。レベッカだ。
「ちょっと待ってジンジャーさん。なんでユイトを入れないの? 色々器用って意味なら、ユイトも器用だと思うけど?」
「チームのバランスと、役割分担の問題だよ。ユイトができる事は、大体俺の方が上手くできるからな。役割がかぶってる奴を入れる必要はねえって理由だ」
「……」
ジンジャーの答えに、レベッカが納得いってなさそうな顔をする。
ジンジャーは、それで終わりばかりにセイラに話を振った。
「話は以上だ。嬢ちゃんはあの領主の所に行ってくれ。城門の修理の金はあるんだろう? いつまでもモタモタさせるな。急がせてくれ」
「心得ている。では」
セイラが、善は急げと言わんばかりに冒険者ギルドを後にする。
「……いいの?」
「何がだ?」
「ジンジャーさんのチームに入れられなくて」
「構わない。ジンジャーには何か考えがあるんだろう」
さっき言った以上の何かを、きっとジンジャーは考えている。
それが何かは、時が来れば教えてくれるだろうし任せていい事だ。
俺は、まだ何か言いたげなレベッカに手を振ってそれ以上言わせないようにした。
・冒険者達のセイラの印象
カイル「おっかない」
ゲイル「おっかない」
ノッシュ「おっかない。ウチの奥さんよりおっかない」
ミア「色々溜まってそう」
リリー「あまり好きじゃない」
バロン「この前疲れた顔して壁殴ってた」
マシュー「プライド高くて好きな相手に自分から告白できなさそう」




