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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第2章「不穏のはじまり」

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第54話「死闘」

「さてはて、リューガを倒した者が参るかと思ったが……お主でござるか」

「あいにくだったな。キサマの相手はこの私だ」


 前回の戦いから3日後の夕方。

宣言通り城門の前に姿を現れたイゾウが、私を見て鼻を鳴らす。


「よいのでござるか? 拙者、前にも申した通り女が相手でも加減せぬでござるよ?」

「構わん。女相手だから負けたなどと言い訳されたくないのでな」

「これはまた大言壮語を。拙者、前回よりも強いでござるよ?」


 イゾウが下の腕で2本の刀を抜く。

青い輝きを放つ刀に、黒いオーラを放つ刀。

どちらも相当な名刀のようだ。

私は震えそうな気持ちを抑え大剣を握る。


「逃げ出すなら今の内でござるよ」

「逃げぬ。私は戦う」

「左様でござるか。――では、死ぬがよい」


 4本の刀を構えたイゾウが一瞬にして私との距離を詰める。

私は大剣で、その攻撃を受け止めた。




****************************




「『四剣のイゾウ』とは私が戦う」


 私が宣言した瞬間、冒険者ギルドに集まった面々がそれぞれ安堵したような、心配するような。怒ったような表情などをそれぞれする。

皆あの魔王の幹部の強さを知り、恐れ、自分では敵わないと分かっているからだ。


「『私が戦う』って……、1人で戦うつもりなの?」

「そうだ」

「そうだって……。セイラ、アンタ正気?」

「本気だ」


 怒った顔をした内の1人、レベッカが眉間にしわを寄せる。

私に詰め寄ろうとするレベッカ。その歩みを安堵半分、心配半分の顔をしたカイルが手で制す。


「レベッカちゃん、話だけでも聞いてやろうぜ。レベッカちゃんやアスミちゃん達ならともかく、あの魔王の幹部相手には俺達じゃ何もできねえってのが俺の意見だ。ゲイルやノッシュ達は防具も盾も壊されちまったしな。俺達の中じゃ教会に避難するって意見でまとまってるが……」

「よい。むざむざ命を捨てる必要はない。一番安全な教会に避難するのは正しい策だ」

「それなら俺達は教会に避難するが……、誰か手を貸して欲しい奴はいるか?」

「よい。私とジンジャー殿、レベッカとアスミ様とユイトがいればいい」

「はあっ? オイオイ、なんで俺が……」

「貴様は私の配下だろう。主の命に従え。共に戦えなんて言わないさ。戦いを見届けてくれればそれでいい」


 名前を挙げられたユイトが不服そうな顔をするが、渋々といった感じで引っ込む。


「レベッカとアスミ様とジンジャー殿も戦う必要はない。戦いを見届けてくれ」

「納得いかないわね」


 私の言葉に、レベッカが食ってかかる。


「あたしの魔法じゃ何も通用しないってのは理解してるわ。理解してるけど親友が戦うのを指をくわえて見てろっていうの? 親友がむざむざ斬られるのを、見てろっていうの?」

「親友ならばこそ、私を信じて見ていて欲しい。もし私がやられたら、ユイト・アスミ様・ジンジャー殿を連れてテレポートで逃げてくれ」

「そんなの……!」

「セイラさん、何か策があるんですか? それとも、あの魔王の幹部に勝つ勝算が」


 激高するレベッカを制し、冷静なアスミ様が私に問いかける。

私はアスミ様の目をまっすぐ見て言い返した。


「ない」

「ないって、アンタねえ……!」

「ないが、ある。私は覚悟を決めた。あの魔王の幹部必ず倒すと」

「必ず倒すって言うけどよ」


 納得いってない顔をしているユイトが、私にきつい目線を送る。


「力の差がありすぎるぜ。正直言って、お前が勝てる可能性は万に1つもないと思う。無理せず教会に引きこもって、王都から『剣聖王子』でも駆けつけるのを待とうや」

「王都に連絡はしているが、駆けつけるまで1週間はかかる。リオン様やミソラ様達が出陣するには色々と面倒な申請やら手続きやら会議があるんだ。……ミソラ様はたまに無視して勝手に出る事があるらしいが。ここまでは来られないだろう。その間にこの街をメチャクチャにされては困る」

「っざけんなよなあオイ……」


 納得いかない表情で、ユイトが吐き捨てる。

他の冒険者達も同じ気持ちのようだ。

しかし王族にもしもの事があったらと慎重になるあちらの気持ちも理解して欲しい。


「だから私は戦う。この街を、この街に住む人達の事を守るために」

「言ってる事とご覚悟はご立派だけどよ。できもしねえ無茶をやろうってんなら俺はお前を止めるぜ。ずっとバインドをかけ続けて、お前を教会に監禁する」


 バインド用の縄を取り出して言うユイトに、若干周りも引いてるがレベッカやアスミ様も同じ気持ちのようだ。ユイトがそうしても文句を言わずに加担するだろう。

バインドをかけられ監禁されるのは、されてみたい気はするのだが……


「嬢ちゃんの言うとおりにさせてやろうや。やばくなったら俺が割って入るからよ」


 と、冒険者ギルドのドアを開けてジンジャー殿がやってくる。

外で会話を聞いていたようだ。その頭にはターバンが巻かれ、背中には刀を背負っている。


「ジンジャー……。昨日酔い潰れていたお前に言われてもな」

「昨日から禁酒してるから大目に見ろや。それになユイト、嬢ちゃんの顔は覚悟を決めた剣士の顔だぜ。こうなった奴を止めるのは野暮ってなもんだ」

「でも、セイラが斬られたら……」

「レベッカの嬢ちゃん。剣を持っている以上、斬られる覚悟のない奴なんざいないぜ?」


 ジンジャー殿の言葉に、私も頷く。

そう、剣を持っている者は斬り・斬られる宿命にある。

その覚悟がない者に、剣を取る資格はない。


「でも……」

「俺の話が聞けねえか? なら俺が相手になるぜ」


 ジンジャー殿の言葉と、剣呑な雰囲気にユイトとレベッカが萎縮する。

最高の冒険者の威圧感は、あの『四剣のイゾウ』に勝るとも劣らないものがある。

その雰囲気に当てられユイトとレベッカが黙り込む。


「……分かりました。セイラさんがあの魔王の幹部と戦う事を認めましょう」

「アスミちゃん……」

「ここまで覚悟を決めている人を、止める事などできません。ただし、セイラさん」

「はっ」

「死ぬ事は許しません」

「……」

「勝ちなさい。勝って生き残るのです。サレン様に誓って約束してください」

「はっ、かしこまりました」


 アスミ様の言葉に、私は誓いを立てる。

ユイトとレベッカはまだ何か言いたそうにしてるが、アスミ様とジンジャー殿の無言の圧に押され何も言わなくなった。

かくして、私が『四剣のイゾウ』と一騎打ちする事が決まったのだった。




****************************




「『二刀流・獅子累々』」

「くうううううううっ!!?」


 2本の刀による乱れ打ちが、私の大剣と鎧に次々襲いかかる。

鍛え上げられた突きも薙ぎ払いも振り下ろしも、どれも破格の剣技だ。


「『一刀流』」


 イゾウが黒いオーラを放つ刀を鞘に収め、青い輝きを放つ刀を下の両腕で握り構える。


「『玉兎』!!!」

「うわああああああっ!!?」


 一回転の美しい水平斬りが、私の大剣を叩く。

すさまじい衝撃が走り、私は後ろへ吹っ飛ばされ城壁に叩きつけられる。


「ぐ、うっ……」

「なんでござるか? この体たらくは。先日と変わらぬではござらぬか。何故拙者を相手に一騎打ちを挑んだでござる」

「決まっている……。キサマが私の、超えるべき壁だからだ」

「超えられぬ天でござろう、痴れ者め」


 一瞬で私との距離を詰めたイゾウが、黒いオーラを放つ刀を抜く。

すさまじい速さの居合抜き、私はそれを大剣で受け止める。


「……相変わらず目だけはよいようでござるな。目、だけは」


 イゾウの草履が私の腹を蹴り、2本の刀が次々襲いかかる。


「セイラ!」

「ハアアアアアアアアっ!!!!!」


 レベッカが心配する声と、イゾウの裂帛の気合いと、刀と大剣と鎧が立てる金属音が重なる。

大剣も鎧もみるみる内に傷ついていき、私の身体にも傷がついていく。


「ウオオオオオオオオっ!!!」


 気合いと根性で、私は大剣を振るいイゾウを弾き飛ばす。

というよりイゾウの方から後ろに飛び去ったようだ。

イゾウがつまらなそうな顔で右上の手で自分の頭を掻く。


「つまらぬでござるな。もう分かったでござろう? お主では拙者は倒せぬよ」

「そのような事は、ない……! 私は、キサマを倒す!」

「知ってるでござるか。弱き者ほどよく吠えるでござるよ」


 イゾウが青い輝きを放つ刀を鞘に収め、黒いオーラを漂わせる刀を両手で握る。

死の予感がする。

さきほどよりヤバイ技が来る!


「『一刀流・狼牙』!!!」


 すさまじい突きを、かろうじて躱す。

剣の衝撃で、分厚い城壁がボコっと丸く直径10mほど穿たれた。


「なっ……!?」

「拙者がその気になればこのような城壁粉々でござる。ただあのリューガと違い、拙者はムダな破壊をせぬのでな」


 剣が横薙ぎに振るわれる。かろうじて大剣で受け止めるが、私はまた吹っ飛ばされる。

力も技も規格外の強さだ。

しかし、私は負けるわけにはいかぬ!


「ハアアアアアアアアっ!!!!」

「――気合いでどうにかできると思っているのなら、心外でござる」


 真上から振り下ろした大剣が、上の両腕に握る刀に止められる。

そして、再び黒いオーラを漂わせる刀が私に襲いかかった。


「『一刀流・奔馬』」

「ぐうっ!?」


 峰打ちの一撃が私の鎧の腹を叩く。

刃よりも面積が広い峰を利用しての打撃。

おそらく自分より大きな相手と戦うために編み出した技だろう。

この魔王の幹部が相当な修羅場を潜り続けてきた事が、技から感じられる。


「フッ!」

「おや」


 痛みに耐えて繰り出した大剣の一撃が、上の腕に握る刀1本であっさり受け止められる。

そしてまた、草履の足が私を蹴飛ばした。


「『一刀流』」


 イゾウが、また黒いオーラを漂わせる刀を構える。

マズい! アレが来る!


「『狼牙』!!!」


 大剣と鎧と身体を、すさまじい衝撃が叩く。

私は城壁へと突き飛ばされ、粉々になった城壁の瓦礫に埋もれた。


「セイラ! セイラーー!!!」

「うぉーみんぐあっぷは終了でござる。次は誰が相手でござるか?」


 レベッカの悲痛な声と、イゾウのつまらなそうな声が聞こえる。

イゾウは、城壁の上にいるジンジャー殿に目を向けた。


「そこの御仁、そなたがリューガを討ち取った者でござろう。お相手願おうか」

「残念ながら俺の出番はまだ後だ。嬢ちゃんはまだやる気だぜ?」

「何?」


 イゾウが、瓦礫から立ち上がる私を見て目を丸くする。


「何と呆れたタフさと愚かさでござるか。あのまま寝てれば楽になれただろうに」

「私が寝るのはキサマを倒した後だ、魔王の幹部よ」

「寝言は寝て言うがよい」


 一瞬にして距離を詰めていたイゾウの刀を、大剣で受け止める。

そしてそのまま、弾き飛ばした。


「なっ……!?」

「ウォーミングアップは終了だ、魔王の幹部よ」


 私は大剣に魔力を注ぎ、白く光り輝かせながらイゾウに言う。


「ここからが本番だ! 私は必ず、キサマを討つ!!!」

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