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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第2章「不穏のはじまり」

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第50話「死に迫る白刃」

 死にたくない、死にたくない、死にたくない。……生きたくない。

 死にたくない、死にたくない、死にたくない。……生きたくない。

相反する感情を抱きながら、俺は汗がにじむ手を握る。

何故こんな所に魔王の幹部が来たのか分からない。分かりたくもない。

ゲイルとノッシュが倒れた。

マシューとバロンもやられた。

あの4人でも勝てなかったのに、俺が勝てる訳がない。


「ハアッ!」


 爆発玉が直撃し、イゾウの周囲が爆発に包まれる。


「レベッカ! テレポートだ! セイラとアスミちゃんを教会に!」

「わ、分かったわ!」


 レベッカが、アスミちゃんと2人で下に降りてセイラを抱えようとする。


「リリー!」

「ん!」


 名前を呼ぶとリリーが、下に降りてきて俺の隣に並ぶ。


「カイル! ミア達とテレポートで避難しろ! ゲイル達は俺達がなんとかする!」

「わ、分かった!」


 カイルがミアの肩を叩き、立ち上がらせようとする。




「――さてはて」


 爆煙を刀で振り払い、イゾウが笑う。


「ここからどうするおつもりでござるか? 只人よ」

「こうするんだよ! リリー!」

「『テレポート』!」

「おや?」


 一瞬で距離を詰めてきたイゾウから、俺とリリーは手をつないでテレポートで消える。

移動した先はマシューとバロンが倒れている所。


「『テレポート』!」


 リリーが、マシューとバロンをテレポートで教会に移動させる。

来る途中で打ち合わせしていた策だ。リリーは元々教会をテレポート先の1つに登録している。後はアスミちゃんが何とかしてくれるだろう。

これであとはゲイルとノッシュの2人を回収するだけ。

けれどもイゾウはその場を動かない。


「……何で爆発玉を食らったのに服1つ汚れてないんだ?」

「爆炎を斬ったからでござる。拙者、斬るのは得意故」


 両上の腕に握る刀をピッと振るい、イゾウが答える。

魔法も斬れる、炎も斬れる。つくづく無茶苦茶だ。

多分コイツに斬れないものはないのだろう。


「上の刀は2本とも刃が潰れてるな。買い換えなくていいのか?」

「潰れててもいいのでござる。上の刀は防御用、攻撃は下の刀がする故」


 言われてみれば、コイツはこれまで防御を上の腕で握る刀、攻撃を下の腕で握る刀でしていた。

そういうスタイルなのだろう。4本も腕と刀があるのだからこそできる芸当。

つくづく人間離れしてる、いや魔人だからできる戦い方だ。


「なんでこんな辺境の街に来たんだ?」

「魔王様に命じられたからでござる。――さて、時間稼ぎに付き合うのもこれまででござる。何か良い策がおありでござるか?」

「――チクショウ」


 時間稼ぎと情報集めの意図を見抜かれ、俺はチッと舌打ちする。

この間にゲイルとノッシュが気がついてくれでもすればいいのだが、未だにおねんね状態だ。背中が動いている事から、息はあるようだが。


「さあて、これからいかがするでござる?」

「……ユイト」

「……ああ、頼む」


 俺の後ろで呪文の詠唱を始めていたリリーが、魔法が完成した意を伝えてくる。

俺はリリーの前でダガーを構えていたが、イゾウに攻めてくる気はなさそうだ。

むしろこちらが何をしてくるか待ち構えている節がある。


「『アイスド・ウォール』!」

「おや」


 リリーの魔法を唱え、氷の壁がイゾウの周りを囲む。

リリーの魔法は、雷魔法以外は大した事ない。

事実、イゾウが刀を1本振るっただけであっさりと氷の壁は斬り刻まれてしまった。


「こんな氷の壁で、どうするつもりだったんでござるか?」

「こうするんだよ! シッ!」

「『インフェルノ』!」


 俺の煙玉と、リリーが2個同時に完成させていた魔法が、イゾウと砕かれた氷に飛ぶ。

リリーの魔法は、雷魔法以外は大した事ない。

けれども氷を水蒸気に変えて霧に変える事くらいならお茶の子さいさいだ。

煙玉の煙幕と霧が、イゾウの周囲を包み視界を奪う。


「『テレポート』」


 リリーが小声で魔法を唱える。

俺達は、倒れているゲイルとノッシュを回収して……


「魔法をめくらましに使うとは、まあまあ愉快だったでござる」


 そこに、死が迫っていた。

2つの白刃がリリーに襲いかかろうとする。

俺はそれを身を挺して庇おうとしてーー


「――フッ!」


 横から大剣が割り込んだ。


「キサマの相手は私だ!」


セイラの大剣がひるがえり、イゾウを押し返す。


「セイラ……!? アスミちゃん! なんで!?」

「違うんです! 違うんですユイトさん! わたしはそんなつもりじゃなかったんです!」


 俺に向けてアスミちゃんが必死に訴える。

俺は、アスミちゃんがセイラを戦いに復帰させるためではなく治療のために回復魔法をかけたのだと察する。

しかしセイラは勝手に戦いへと戻りに来て……


「リリー! お前はゲイルとノッシュと教会に避難しろ!」

「ユ、ユイトは!?」

「俺はここに残る! 今のうちに早く!」

「……っ! 『テレポート』!」


 状況は最悪に近いが、好機でもある。

俺の意を汲んでくれたリリーが、ゲイルとノッシュと共にテレポートで消える。


「レベッカ! アスミちゃんと教会にテレポートで避難しろ!」

「ア、アンタはどうすんのよ!」

「どうするも何もねえだろ! あのバカ1人だけ置いていけねえよ! どうせ大した事はできねえだろうが肉の盾くらいになるくらいはできるだろ!」

「そ、そんな事言われて残らせる訳行かないでしょ! セイラもアンタも置いて逃げられないわよ!」

「この分からず屋共が……!」


 どうする。

どうするどうするどうする。

この場に残ってるのはセイラと俺とレベッカとアスミちゃん。

あの魔王の幹部から逃げ切れる策が何も浮かばない。

この前みたいにジンジャーが駆けつけてくれる期待も持てない。今頃は酔い潰れていて夢の中だろう。あの飲んだくれめ!


「『二刀流・双虎』」

「ぐわあああああっ!?」


 そうこうしている間に、セイラがイゾウの2本の刀を合わせた突きに吹っ飛ばされる。


「クソが! 『バインド』!」

「リューガではあるまいし、そのようなものにかかるわけないでござろう」


 バインドの縄も、簡単に斬られてしまう。

でも1秒でも時間稼ぎができればいい。

俺はレベッカ・アスミちゃんといっしょにセイラの元に……


「行かせてくれねえだろうな! オラアっ!」

「それはさっき見たでござ……おやっ?」


 一瞬で距離を詰めてきたイゾウに俺はある物を投げる。

煙玉だとでも思ったのだろう。避けようとしたイゾウが『ネバネバ網玉』にかかる。


「なんでござるかこの網は! ネバネバしていて斬れぬ!……と言うとでも思ったでござるか?」

「思わねえよ! レベッカ! ファイヤーボールを!」

「『ファ、ファイヤーボール』!」


 俺に言われレベッカが、何が何やら分からないままながらもファイヤーボールを放つ。

イゾウに斬られた『ネバネバ網玉』は可燃性でよく燃える。

さしもの魔王の幹部もこれには……


「『サンクチュアリ』!」


 アスミちゃんの防御魔法の光の壁が、俺達の前に現れる。


「いやあ、つまらぬ絡め手上等上等。只人にしてはよくやっている方でござる」


 光の壁には、2本の刀が斬りかかっていた。

アスミちゃんの魔法がなかったら、真っ二つに斬られていただろう。

時間稼ぎすらできねえのかよ! コイツ、どうやったら止められるんだ!


「うっ、くっ……」

「さあて、どれくらい保つでござるかな?」


 しかしイゾウの刀に押され、アスミちゃんも苦しそうだ。

防御魔法の光の壁に、ヒビが入り始める。

そして光の壁が刀に斬られーー


「――ハアアっ!」


 セイラの大剣が、イゾウに襲いかかった。

イゾウは事もなげに、上の腕に握る2本の刀で大剣を受け止めた。


「まだ分からぬのか? お主では拙者に勝てぬでござるよ」

「勝てる勝てないの問題ではない! 私は騎士として、領主の娘としてこの街を守る責務が……!」

「――つまらぬ」


イゾウの草履が、セイラの腹を蹴る。


「うっ……!?」

「ぐうっ!?」

「「キャアッ!?」」


 セイラと、セイラを受け止めようとした俺、その背後にいたレベッカとアスミちゃんがまとめて吹っ飛ばされ、城壁に叩きつけられる。

イゾウはつまらなそうな顔で、4本の手に握る刀を鞘に収めた。


「――興が醒めたでござる。3日後の夕刻にまた来る故、その時にはリューガを倒した者を連れてくるでござる」

「待、て……」

「待たぬ。お主のようなつまらぬ剣士、相手にする価値もないでござるよ。では、さらば」


 踵を返し、イゾウが引き上げていく。

その背中は隙だらけに見えて、隙がない。

襲いかかっても返り討ちに遭うだけだろう。

イゾウを睨むセイラも、力なく大剣を握る手を離した。

かくして俺達は、魔王の幹部に一方的な敗北を喫したのだった。

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