第49話「四剣のイゾウ」
「拙者は『四剣のイゾウ』! 『剛腕のリューガ』を倒した者と戦いに参った!」
『四剣のイゾウ』の声に、皆が目を見合わせる。
ジンジャーさんはムジカさんと酒を飲んでいる。いくらジンジャーさんといえど、酒を飲んでいて魔王の幹部の相手はできないだろう。
この場に駆けつけていない時点で酔い潰れている可能性が高い。
しかしそれを言って、魔王の幹部が大人しく引き上げるとは……
あたしは汗と共に杖を握る。
『四剣のイゾウ』からは、濃厚な死の匂いがする。
あのリューガよりもずっとヤバイ……
「リューガを倒したのは私だ。魔王の幹部よ」
大剣を手に、セイラが壁から飛び降りる。
そして、イゾウの前に進み出た。
「お主がリューガを倒した者でござるか?」
「ああ、そうだ」
「やめておくがよい。誰を庇っておるか知らぬが、お主では拙者の肩慣らしにもならぬでござるよ」
「……随分ないいようだな。剣も交えぬ内から」
「剣を交えずとも分かるでござる。むしろ剣を交える前から分からぬお主が未熟でござる」
魔王の幹部が、つまらなそうな目でセイラを見る。
あたしには分かる。
あの魔王の幹部、危険な強者の匂いがする。
「その魔王の幹部の言うとおりだ! セイラ! 下がれ!」
同じ事を考えたらしいユイトがセイラに声をかける。
しかしそう言われて下がるセイラではない。
魔王の幹部、四剣のイゾウに向けて大剣を構える。
「領主の娘として、この街を守る者として下がる訳にはいかん。私は戦う」
「よいのでござるか? 拙者、女相手だろうと手加減せぬでござるよ?」
「構わぬ! 女だからと言ってナメるな!」
「――そうでござるか、なら死ぬがよい」
「!?」
気がつけば、セイラが城壁に叩きつけられていた。
「なっ……!?」
「ほう、拙者の居合いを防いだでござるか。目だけはよいようでござるな」
セイラは、魔王の幹部の攻撃を受けていたようで、大剣を構えたまま呆然としている。
魔王の幹部を見ると、いつの間にか1本刀を抜いていた。
「何!? 今何が起きたの!?」
「いや、俺にも見えなかった……」
「俺もだ……」
「バロンも」
ユイトはともかく、そこそこ高レベルのカイルやバロンにも見えなかったというのは異常だ。
あの剣士、相当ヤバイ……!
「セイラ!」
「大、丈夫だ……」
「大丈夫じゃないだろ! 下がれ!」
「下がるなど……」
「なら、今度こそ死ぬがよい」
イゾウの姿が一瞬にして消え、火花が散る。
気がつけばセイラの大剣にイゾウの2本の刀がぶつかっていた。
「セイラ! 『ファイヤーボール』! 『ファイヤーボール』! 『ファイヤーボール』!」
「おっと? つまらぬ魔法でござるな」
あたしの魔法を、イゾウが上の腕に握った刀で斬り捨てる。
下級魔法とはいえあんなあっさり、でも、隙は作った!
「やああああああ! 『ホーリー・スラッシュ』!」
大剣に魔力をまとわせたセイラが、イゾウに向けて白く光り輝く大剣を振り下ろす。
ドラゴンすら仕留めた一撃。これなら……!
「聖剣でござったか。人間にしては中々でござる」
「なっ!?」
しかしイゾウは、左の上の腕に構えた刀1本でセイラの大剣を受け止めた。
そして、下の腕に握る刀を横薙ぎに払った。
「うぐうううっ!!!!?」
「おや? 斬れぬでござるな。よい鎧を使ってる模様」
セイラの鎧に一筋の大きな傷ができるが、表面を引っ掻いただけのようだ。
でもセイラは剣撃に吹っ飛ばされ、また壁に叩きつけられた。
「『フレイム・インパクト』!」
「『ホーリー・レイ!』」
「『ライトニング』!」
「『ウィンド・カッター』!」
あたし、アスミちゃん、リリー、ミア、その他の魔法使い達の魔法が次々イゾウに襲いかかる。
それだけじゃない。
アーチャーのカイルなど、遠距離持ちの冒険者達が弓矢を放ち始める。
しかし……
「つまらぬ」
その言葉と共に、イゾウが上の両腕に握る刀だけで魔法も矢も払いのける。
「セイラ!」
その間にユイト達が下に降りセイラを助け出そうとする。
「おや、誰が戦いが終わったと言ったでござるか?」
イゾウが一瞬でユイト達との距離を詰め、右腰に収めた刀を居合い抜く。
ゲイルとノッシュさんの2人が盾で受け止めにかかるが、2人の盾がまるでバターのように断ち切られた。
ゲイルとノッシュさんが前のめりに倒れる。
「ゲイル! ノッシュ!」
「シッ!」
カイルが叫ぶと同時に、ユイトが煙玉を投げる。
煙玉がイゾウに直撃し、イゾウの視界が煙に覆われるが……
「『一刀流・風車』」
右上の腕に握った刀を回転させて、イゾウが煙をかき消す。
「『二刀流・双竜斬』」
「ぐわあああああっ!?」
「ガアアアアアアっ!?」
下の腕に握った2本の刀を振るい、忍び寄っていたマシューとバロンが倒れる。
「マシュー!? バロン!?」
「ウソ……! ウソでしょ……!?」
カイルがマシューとバロンの名前を呼び、
ミアが信じられないというようにへたり込む。
一瞬にしてこの街の高レベル冒険者達を仕留めたイゾウ。
その実力に誰もが戦慄する中、
「ハアッ!」
ユイトが、爆発玉を投げた。




