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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第2章「不穏のはじまり」

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第48話「魔王と魔王の幹部」

「今日集まってもらったのは他でもない」


 冒険者ギルドに集まったこの街の冒険者達を前に、セイラが黒板をバンと叩く。

そこには「魔王と魔王の幹部」と書いてあった。


「魔王と魔王の幹部達について説明するためだ」

「「「……」」」


 俺やカイルやゲイル、ミアやマシューやバロン達が互いに目を見合わせる。

魔王と魔王の幹部達と言われても……


「魔王の幹部って、誰がいるんだ?」

「リューガ以外にもいるのか?」

「ていうか魔王って何だ?」

「バロン、知らない」

「こっちにも魔王軍が来る事あるけど、ちょっと戦っただけですぐ帰っていくわよね」


 サッパリ知らない俺達の言葉に、セイラが何とも言えないような表情になる。

知っているらしいアスミちゃんとレベッカが、苦笑をこぼした。


「なぜ知らないのだ! せめて魔王の幹部達くらい知っておくべきだろう!」

「そう言われてもな」

「こんな辺境の街だし」

「新聞くらい読んでないのか!」

「貧乏冒険者に新聞なんて読む余裕あるわけないだろ」

「俺ん家は新聞取ってるけど、嫁さんしか読まないな」


 妻帯者のノッシュ以外新聞なんて縁がない俺達の言葉に、セイラが頭を抱える。

いつもの席にいるクエスト爺さんはニコニコ笑い、

いつも冒険者ギルドにいるワシ鼻でスキンヘッドの小男は興味なさそうに魔道具の手入れをしていた。


「まったく……。ユイトが王族について知らなかったからもしやと思ったのだが、やはりそうだったか。今日は魔王と魔王の幹部について、分かってる事を説明する」

「ねえ領主の娘様、それって必要?」

「この前リューガが来たのだから、これから魔王の幹部がこの街に来てもおかしくないだろう。どんな相手なのか来た時のために知っておくべきだ」


 ミアの疑問に答え、黒板に写真を貼り始めるセイラに注目が集まる。


「魔王の幹部として知られているのはこの3体。『剛腕のリューガ』に『四剣のイゾウ』そしてこのガーゴイルだ」


 黒板に貼られた写真は、この前倒した『剛腕のリューガ』と、4本の剣を構えている魔人と、空を飛んでいる黒いガーゴイルだった。


「『剛腕のリューガ』については説明不要だろう。もっとも私もこの前初めて知ったのだが、ここ最近幹部になったオーガであちこちで暴れ回っていた者だ」

「ああ、知ってる」

「あれはヤバかったな……」

「ジンジャーが来なかったらこの街がメチャクチャになってただろうな」


 リューガの事を思い出し、カイル達が肝を冷やしたような顔になる。

俺は、気になった事をセイラに尋ねた。


「ていうか、新聞を読めと言っているお前が何で知らなかったんだよ」

「……ここ最近は仕事で忙しくてザッとしか目を通せていなかったのだ。後、リューガの写真自体これしか撮られていなかった。あの暴れ者を前にカメラで写真を撮る余裕がなかったんだろうな」

「それはまあ、そうだろうな」


 あんなのを前にしたら、写真を撮るより逃げる事を優先するだろう。

他に写真を撮った者もいたかもしれないが、襲われてしまったのかもしれない。


「まあリューガについては倒したからいいとして、問題はこの2体だ。『四剣(しけん)のイゾウ』にガーゴイル。イゾウについては私も目にした事ないが、ガーゴイルは王都にいた時見た事がある。だろう? アスミ様、レベッカ」

「ええ、見た事あるわ」

「はい、ひどい被害を被りました」


セイラの言葉に、レベッカとアスミちゃんが顔を顰める。

なにやらこのガーゴイルと因縁がありそうだ。


「このガーゴイルは王都を度々襲ってるのだ。空から隕石を落としてきて、街をメチャクチャにした後去って行く。迷惑と危険極まりない奴だ」

「ええ、魔法や弓矢が届かない高さから隕石を落としていく厄介な奴だわ」

「おかげで教会には、たくさんの死傷者が運び込まれました」


 そういえば前にセイラがアスミちゃんが魔王の幹部に傷つけられた人達を治療して回っていたという話を聞いた気がする。

どうやらこのガーゴイルの話のようだ。

黒い身体に黒い翼、悪魔のような顔のガーゴイルが空を飛んでいる写真は写真ながらも迫力がある。


「なんでこのガーゴイルが魔王の幹部だって分かるんだ?」

「翼の所に紋章があるからだ。この紋章をつけられるのは魔王の幹部だけらしい。だからこのガーゴイルも魔王の幹部と推測される」


 言われてみれば左の翼にリューガがつけていたものと同じ紋章がある。

四剣(しけん)のイゾウ』も、着物の左胸に紋章の模様をつけている。

これが魔王の幹部の証のようだ。


「しかしこのガーゴイル。空から攻撃してくる奴とは厄介だな。それも隕石の攻撃だって? 相当メチャクチャになっただろう?」

「ええ、街も建物もメチャクチャにされたわ。王都には名うての魔法使いもいるんだけど、誰も攻撃が届かなかったし。『闇魔法使い』や『戦う王女』なら攻撃を届かせる事ができるんでしょうけど……駆けつける前に逃げられてたみたいだわ」

「ああ、あのお二人が駆けつける前に去っていく。そんなパターンを繰り返されていた」


 レベッカの言葉に、セイラが頷く。

逃げを選べる奴となると厄介そうだ。

空を飛ぶ相手なんてどう頑張っても相手できない。出くわさない事を願うばかりだ。


「この『四剣(しけん)のイゾウ』って奴はどんな奴なんだ?」

「コイツはおそらく古参の幹部だ。200年前からあちこちを荒らし回っている。一番被害を出している魔王の幹部と言っていいはずだ。飄々と砦や都市に乗り込んできては、名うての剣士や冒険者を斬り捨てている。リオン様とライラ殿、2人がかりでも押し負けてしまったそうだ」

「あの2人でもかよ……!?」


 王都で会ったあの2人は、相当な実力の持ち主のはずだ。その2人がかりでも押し負けてしまったという話に戦慄を覚える。

そんなの、ジンジャーでも勝てるかどうか……


「ていうかジンジャーはどうした? この街に残ってるはずだろ?」

「ジンジャーならムジカと2人で飲んでたぞ。今頃は酔い潰れてるだろうな」

「あの飲んだくれ……」


 ノッシュの言葉に、俺は渋面をつくる。

人には「いつでも何があってもいいよう身体を整えておけ」と言うくせに、自分は飲んだくれてるんだからな……


「それにしてもこのイゾウって奴、4本の腕に4本の刀なんて反則だろ。どうやって戦えって言うんだ?」


 マシューの言葉に、皆が頷く。

確かに4本腕に4本の刀を持っている相手なんて、どう戦えばいいか分からない。


「魔法で遠くから攻撃したらどうだ? それか弓矢か」

「ダメだ。コイツの剣は魔法も斬ると言われている。衛士達の弓矢の雨も、全部叩き斬ったという逸話の持ち主だ」

「化け物かよ……」


 カイルの提案が、セイラがすげなく否定され皆閉口する。

まあそんなの、誰でも思いつくだろうしな。


「こりゃダメだ。空飛ぶガーゴイルも4本腕の剣士もこの街に来ない事を願うしかないな」

「そう言うが、リューガが来た以上また魔王の幹部もこの街に来るかも知れぬだろう。まだ他に知られていない幹部もいるだろうしな」

「勘弁してくれよ……」


 セイラの言葉に、俺達はゲンナリした気分になる。

そんな俺の肩を、リリーがポンと叩いた。


「……ん、ユイトなら何とかできる」

「できるか。俺なんか何もできずに隕石の下敷きか、ズンバラリと斬られて終わりだよ」

「……ん、でもユイトは何とかする」

「そんな期待のこもった目で見られても」


 ミソラ様にしてもクロカゲにしても、リオン様にしてもリリーにしても、俺への評価高すぎんだろ。レベル4……今はレベル24のクソ雑魚冒険者に魔王の幹部なんて相手できる訳ないだろ。

んんっと、セイラが咳払いをする。


「他にも魔王の幹部かどうかは知らんが、魔王の配下で有名なのは大量のゴーレムの軍隊と最近現れた、あちこちの街で暴れている魔人が有名だな。こちらは剣士ではなく格闘家のようだが」

「写真はないのか?」

「ああ、動きが素早くて写真に収められないそうだ」


 大量のゴーレムというのも気になるが、格闘家の魔人とやらも厄介そうだ。


「そもそも魔王ってのは何なんだ? 人間なのか? 魔族なのか?」

「魔族らしい。……らしいと言われてるだけで、誰も見た事はないがな。でも200年以上生きているのだから人間ではないだろう」

「だろうな」

「200年ほど前に突如として現れ、ある城を占拠し人間を襲っているが……。その目的は分からん。正直、その気になれば王都を落とす事だってできそうな戦力がいるのにそれをしてこないのが不思議なくらいだ。魔王の幹部達もバラバラに動かしているし」

「ふーん……」


 セイラが何か言っているが、俺はピンと来ない。

魔王なんてこの先会う事ないだろうし、会いたいとも思わない。

そもそもこんな辺境の街に……




『緊急警報発令! 緊急警報発令! 住民の皆様は避難所に避難して下さい! 冒険者の皆様は武装して正門に集合をお願いします! 魔王の幹部です! 魔王の幹部が出ました!』




 突然、けたたましい音がして緊急警報が流される。

 俺達は、『魔王の幹部』という言葉にギョッとして武器や杖を手に取るのだった。




****************************




「頼もう!」


 城門の前に立つ魔王の幹部が、俺達がやって来ると同時に声を上げる。

砦の城門はまだ壊れたままだというのに、俺達が来るまで待っていたようだ。

 紺色の髪を頭頂部でまとめ、空色の着物を着て、桔梗色の袴を履いた青紫色の肌の魔人だ。

着物の胸には魔王軍の紋章がついている。

特筆すべきはその腕だ。

着物の袖は4つあり、そこから4本の腕が覗いている。

そして両腰に2本ずつ、計4本の刀を差していた。


「オ、オイ、アイツって……」


 さっきセイラに見せられた写真と同じ姿に、カイルが戦慄する。

カイルだけじゃない。俺達全員がそいつから発せられる剣気に気圧されていた。


「『四剣(しけん)の、イゾウ』……!?」

「頼もう!」


 『四剣(しけん)のイゾウ』が、ビリビリと響く声を上げる。

それほど怖い声でも大きな声でもないのに、すごい威圧感だ。

空気が震え、首筋を汗が流れる。

アレはヤバい。

『死』だ。

『死』がそこにいる。戦う前から分かる。あれを相手にしたら死ぬ。

その『死』が、俺達に向けてまた声を上げた。


「拙者は『四剣(しけん)のイゾウ』! 『剛腕のリューガ』を倒した者と戦いに参った!」

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