第45話「アスミ様の懺悔室②」
「次の方、どうぞー」
王都から戻って数日。
ユイトさんに言われた通りわたしは教会にずっといたのですが、ユイトさんもセイラさんもレベッカさんも特に何もありませんでした。
レベッカさんは「やっぱ考えすぎだったんじゃない?」と言っていましたので、その通りだったのでしょうか。
ですがわたしもイヤな予感を感じたので考えすぎじゃないと思うのですが……
しかしいつまでも気にしてもいれません。
神官の仕事は冠婚葬祭から礼拝の実施、罪や悩みを聞く告解と多岐に渡ります。
今日はこの前告解を受けられなかった人達の告解を受ける日です。
「……ん、リリー。よろしく」
「名前は名乗らなくていいです、よろしくおねがいします」
懺悔室は顔が見えないようになっていて、名前も名乗らなくていいのに名前を名乗ったリリーさんに注意します。
この街の冒険者達は名前を名乗らないと気が済まないのでしょうか?
しかし一番お話したい人が来たのでわたしは張り切ります。
「では、あなたの罪と悩みを打ち明けてください」
「……ん。罪、ない。悩みも、ない」
「……」
「……帰っていい?」
マズいです。数秒で終了してしまいそうです。
この人、人と話す気なさすぎじゃないでしょうか。
レベッカさんとは仲いいようですが、セイラさんやわたしとは、打ち解ける気なさそうです。
「お待ちください」
「……何?」
「何も悩みがないなんて本当ですか? 何か、仕事や人間関係でお悩みは……」
「……ん、ない」
「では、家族関係で」
「……ん、ない。お父さんにもお母さんにも、好きな事、させてもらってる」
「だ、男女の関係では……! どなたか好きな人がいるとか……!」
「……ん、ない」
「……」
機械みたいな感情のない返答が返ってきて、心が折れそうです。
本当に悩みがなさそうです。
ですがこの人には色々聞きたい事があります。
ユイトさんの事とかユイトさんの事とかユイトさんの事とか!
「あの! わたしから質問してもいいですか?」
「……何?」
「リリーさんは、ユイトさんと古くからのお知り合いなんですよね?」
「……ん、10年前くらいからの付き合い」
「ユイトさんって、昔はどんな人だったんですか?」
「……どうも何も、今と変わらない。ユイトは、ユイト」
リリーさんの返答に、これ以上話したくないという感じがして心折れそうになります。
多分カイルさんやマシューさんにナンパされた時もこんな感じなのでしょう。
ゲイルさんが心折れてない事を祈るばかりです。
「……帰っていい?」
「も、もうちょっとだけお話しましょう。告解は1人20分時間を取っていますので」
「……ん」
不満そうな気配がして、リリーさんが上げかけた腰を下ろします。
「リリーさんは、どうして冒険者になったんですか?」
「……魔法が、好きだったのと、冒険がしたかったから」
「冒険?」
「……ん、そういう物語が、好きだったから。だから15歳で冒険者を始めた」
話題をリリーさん自身の事に振ると、淡々とした様子ですが答えてくれます。
ですがそれ以上は黙っていて続けてくれる気ないようです。
わたしは、根気強く話しかけます。
「今はお仕事をされているんですよね? 何のお仕事をされているんですか?」
「……ん、お父さんの会社を手伝っている。布や糸の生産から加工まで請け負ってる、商会。主に事務だけど、たまに大口の取引先の営業も、任されてる」
意外な答えが返ってきて、驚きます。
言われてみればいいところのお嬢様の雰囲気がしなくもないですが、まさか経営者のご令嬢だったなんて。しかも多分この街で一番大きな商会です。……この人に大口の取引先の営業を任せて大丈夫なんでしょうか?
「ええと……、お仕事は、大変ですか?」
「……ん、そんなに大変じゃない。地道な作業は向いてるし、商談は話を聞いてるだけで大体まとまってる」
しかしどうやら大丈夫なようです。
あの商会は商売が好調なようですし、待っているだけでも仕事を頼まれるのでしょう。
「リリーさんは、お仕事を続けながら冒険者も続けてるんですよね?」
「……ん、そうだけど」
「どうしてですか? どうして冒険者も続けてるんですか?」
「楽しいから」
迷いのない答えが返ってきます。
「楽しいから、続けてる。いっしょにクエストしたり、いっしょにコーヒー飲んだり、キャンプしたりするの、楽しいから」
それは誰とというのはさておき、どうやらこの人は根っからの冒険者のようです。
お嬢様ですがアウトドア派のようです。印象と違います。
「あと、この街を守る冒険者が少なくなってるから」
「少なくなってる?」
「……ん。領主の人が、冒険者に配るお金を減らしたり、税金を上げたりしたから。冒険者が冒険者やめたり、よその街に行っちゃったから。前は100人くらいいたのに、今は30人ちょっとくらいしかいない」
「……」
セイラさんのお父さんがこの街の冒険者に嫌われている理由が分かりました。
というか、この街の人達皆に嫌われているようです。
セイラさんがこの街に戻ったのは1年前ですが、その苦労が忍ばれます。
「モンスターとか、たまにだけど来る魔王軍とか、冒険者がいないとこの街を守れない。こないだは、魔王の幹部も来た。魔法は使い続けないと腕が落ちる。だから、腕を落とさないためにも、冒険者続けてる」
「そう、なんですね」
「……ん。でも、一番は楽しいから続けてる」
それは誰といっしょだからというのが気になりますが、焦ってはいけません。
こういうタイプの人は、焦ると逃げてしまいます。
「では次に、好きな食べ物について……」
「……ちょっと、いい?」
「? 何でしょう?」
少しずつ話を聞き出そうと質問を続ける前に、リリーさんに遮られます。
「……これ、告解じゃない」
リリーさんのご指摘に、わたしは力なくうなだれるのでした。




