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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第2章「不穏のはじまり」

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第44話「気になる男」

 宿屋に戻り、アスミちゃんをベッドに寝かせ自分の部屋に戻った。

アスミちゃんとレベッカのダブルの部屋で、朝までレベッカが面倒を見る事になった。

俺とセイラはそれぞれシングルの部屋だ。

ひとっ風呂浴びてタオルで身体と髪を拭く。

……何だか今日は自分が自分じゃなかったみたいだ。

 着慣れない服を着て、髪を整えられ、表彰され王族に声をかけられた。その前には王女と焼肉も食べたっけ。あの王女は全然王女には見えなかったけど……


「フウ……」


 ベッドに横になろうとして小腹が減っている事に気づく。

パーティー会場ではあまり食べられなかったからな。

どうしようか? 宿屋の主人に頼んで何か作ってもらうか?

そう思っている所で、部屋のドアがノックされた。


『ユイトー、起きてるかー?』

「ああ、起きてるぞ」

『今入っても大丈夫か?』

「ああ、大丈夫だけど……」

「では失礼する」


 返事と同時に、セイラがドアを開けて入ってくる。

やけに布面積が少ない、ノースリーブで肩を出したネグリジェだ。

春先とはいえ寒くないのか?

その手には何やら、湯気を立てている皿があった。


「あの会場ではあまり食べられなかったと思ってな。私もほとんど料理を口にできなかったし。宿屋の主人に頼んで作ってもらった。お前も食うか?」

「おお、ちょうど何か食べたいと思っていた所だ。ありがたい」

「よし、ではいっしょに食うか」


 そういいながらセイラが、ベッドの上に皿を置く。

結構な量のサンドイッチだ。

俺が食べないと言ってもセイラ1人で食べるつもりだったのだろう。こいつ、ガッツリ食うもんなあ……


「いただきます」

「いただきます」


 2人並んでベッドの上に腰掛け、セイラと手を合わせてサンドイッチを食べる。

作りたてらしく温かい。

腹と心が満たされ、ホッとする。

ある程度食べた所で、セイラが俺に話しかける。


「今日はどうだった?」

「どうもこうも、疲れたよ。第三王女に振り回され、着慣れない服と履き慣れない靴で場違いな場に出され、第二王子にやたらと高評価されて。こういうのはもうご勘弁願いたいな。第二王女様にはまたお会いしたいが」

「貴様という奴は……。論功行賞に出られる人間も、王族に会える人間も一握りに限られているというのに贅沢言うな。でもまあ、うん……私も疲れたな」


 貴族達や商人達の相手をさせられ、よほど疲れたのかセイラがため息を吐く。


「ああいうのは私も苦手なんだ、対外的な話は兄上がするし、私はまだ結婚する気もないのにな」

「そういやレベッカがお前に兄がいるって言ってたな。どんな奴なんだ?」

「どんな奴……。父上に似ているとしか言いようがないな。昔から領主の跡取りとして父上に教育されている男だよ」

「うげえ、そりゃ会いたくないな」

「……」


 俺の感想に、セイラが俺をじっと見る。


「なあ、私の父上は、いや領主はやはり領民に嫌われているのか?」

「聡いお前なら気づいているだろ。領主の事を好きな奴なんていねえよ」

「そうか。やはりそうか……」


 俺の言葉に、セイラが難しい顔をする。


「税金はやたらと上げるし、今まで猶予されていた金の徴収も容赦ないし、こっちの事を考えねえ政策を打ち出してくるし、アイツが領主になってから悪い事ばかりだって皆言ってるぞ」

「そうか……。具体的にはどこがダメだ?」

「上げればキリがないが、前に公衆浴場を有料化するって話があっただろ? 住民の大反対で撤回されたが、ああいうのを見ると、机の上でしか物事を考えてねえのがダメなんだろうなって思うぜ。視察とかじゃなくて買い物をしたり、食事をしたり、普通の感覚で街を見てりゃああいう発想は生まれないだろうな」

「……そうだな、確かにそうだ」


 思い当たる節があるのか、セイラが俺の意見にため息を吐く。

きっとそういう話を度々上げているのだろう。

もっともあの領主は聞く耳を持たないだろうが。


「なあ、貴様は恋をした事があるか?」

「なんだいきなり?」

「いいから答えろ。恋をした事があるか?」

「あるぞ。人並みにはしてきたつもりだ。誰かと付き合った事はないけどな」

「そうか……。私もそうだ」


 足を組み替えながら、セイラが悩ましげな息を吐く。


「昔から好意を向けられる事は多かったが、自分が誰かに恋心を抱くというのが難しくてな。恋をしても、相手に気づいてすらもらえない。眼中にすら入れられていない節すらある」

「そうか、そりゃ大変だな」

「……」


 セイラが、何か言いたげな目で俺を見る。

なんだ? リオンの事だろ? お似合いだと思うし、リオンは好意の目でセイラを見ていたと思うのだが。

しかし口にするとブチ切れられそうな気がしたので黙っておく。


「……なあ、貴様はどんな女が好みなんだ?」

「ああ?」

「いいから答えろ。どんな女が好みだ?」

「どんな女と言われても……特にはないな。今まで好きになった相手はタイプがバラバラだし、気がついたら好きになってるって感じだ。恋ってそういうもんじゃないのか?」

「……うん、まあ、そうだな」


 セイラがまた足を組み替えながら思案気にサンドイッチを食べる俺を見つめる。

なんだ? サンドイッチが足りなかったのか?


「俺はもう食べなくてもいいぞ。残りはお前が食べたらどうだ?」

「何を言い出しているのだ貴様は。……まあ、食べるが」


 残りのサンドイッチをつまみ始めるセイラ。

普段ガッツリ食べる派のコイツは、かなりの健啖家だからな。この量のサンドイッチでも足りないのかもしれない。

ふと、セイラが何かに気づいたように顔を上げる。


「そうだ。私は外面の私より、こういう私を見せられる相手が好きだな」

「こういう私って?」

「よく食べる私や剣を振り回している私を見ても引かない男だ。前にいっしょに食事をした男は、普段通りに食べる私を見て『イメージと違った。もっとおしとやかにしてほしい』などと抜かしおったからな」

「そりゃダメだな。そんな男やめておけ」

「ああ。だから私は、こういう私を見せても引かない男がいい」

「そうか。いい相手が見つかるといいな」

「……」


 セイラが、何か言いたげに俺を見つめる。

そしてハーッと息を吐き皿の上のサンドイッチを片付けた。


「……何だか疲れた。私はもう寝る」

「そうか、お休み」

「ああ、貴様も早く寝ろよ。明日の朝レイフォード領に戻るのだからな」

「そうする」


 立ち上がったセイラが、俺をジトッとした目で見た後、ため息を吐いて俺の部屋を後にする。

……一体なんなんだ? やっぱり食べ足りなかったのか?




****************************




 翌朝。


「レイフォード領に帰るぞ。忘れ物はないな」

「ないぞ」

「ありません」

「あたしもないわよ」


 宿屋の中で、セイラの呼びかけに俺、アスミちゃん、レベッカが答える。

忘れ物も何も、持ってきた物も持って帰る物も少ない旅だ。俺にはマジック・バッグがあるし。

宿屋の主人に部屋の鍵を返し、セイラが外に向かおうとする。


「――待て」


しかし、俺がその前に回り込み手で制して止める。


「どうしたんだ?」


 セイラが不思議そうな顔で俺に問いかける。

俺はレベッカに向けて小声で声をかけた。


「……レベッカ。テレポートだ」

「え?」

「外に、何かヤバイのがいる」


声を潜めて、レベッカに話しかける。

レベッカは、怪訝な顔をしながらも俺に合わせ声を潜めた。


「ヤバイのって……。ここ王都よ? モンスターなんていないでしょ?」

「モンスターじゃない。モンスターじゃないが外にヤバイのがいる。テレポートで俺達の街に移動するんだ」

「わ、分かったわ」


 俺の剣幕に押されたのか、レベッカが頷く。

セイラとアスミちゃんも何か感じたのか同意のようだ。

レベッカが詠唱を唱え始め、足元に白い魔法陣が光り始める。

俺達は魔法陣の中に入り、レベッカに触れた。


「『テレポート』!」


 レベッカのテレポートでレイフォード領まで移動する。

そこで、俺は気が抜けてしまい地面にへたり込む。


「……ハアっ、ハアっ……」

「ユイト? どうしたのだ?」

「す、すごい汗ですよ!?」

「……気に当てられたんだ。外にいたのは、相当な武人だったんだろうな」

「武人……。確かにピリっとした空気を感じたが」


 セイラが眉を顰めながら思い出したように言う。


「武人が、我々に一体何の用だったんだ?」

「……そこまでは分からねえよ。ただ、ロクでもない事になっていたのは間違いないだろうな」


 魔王の幹部を討ち取った相手と手合わせしたかったか、それで自分の名を上げたかったのか。それとも何か別の理由があるのか。

何にせよ相当ヤバイ相手があの外で待ち構えていたのは間違いない。


「ここまで追ってくるとは思わないが……、しばらく用心した方がいいかもしれない」

「用心って……」

「なるべく1人にならない事と、人通りが少ない所を歩かない事だな。アスミちゃんはなるべく教会にいてくれ」

「は、はい……」

「考えすぎじゃない? ただ単に手合わせしたかっただけかも」

「だったら、いいんだけどな……」


 何やらそれだけじゃない物を感じたので、俺は俺の懸念が外れである事を願う。

こうして俺達の王都訪問は、最後に不穏な物を感じさせながら終わったのだった。




****************************




宿屋の扉を開け、目当ての連中がいない事を確認する。


「テレポートで逃げたか。勘の鋭い者がいるようだな」


 あの領主の娘の女騎士か、それともあの冴えない男か分からないが、我の気配に気づき逃げ出したようだ。


「フッ、面白い」


 任務は達成できなかったが、あのバカ王子の薄汚い欲望などどうでもいい。

それより手合わせできなかったのが残念だ。

特にあの男、今まで見た事ないタイプだ。戦う事ができれば面白かっただろうに。


「まあよい。近い内に必ず来るだろうからな」


 あの男には、そんな予感がする。

その時が楽しみだ。

我は、踵を返して連中がいた宿屋を後にした。

・王族の生まれた順番と年齢


 第一王子フアン(30歳)

 第一王女ジーナ(27歳)

 第二王子リオン(23歳)

 第二王女エリア(20歳)

 第三王女ミソラ(15歳)

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