第43話「第二王子リオン」
「貴様、どこに行っていたのだ」
パーティー会場に戻ると、セイラがきつい目で睨んできた。
俺は手をふるふると振りながら受け流すように答える。
「お手洗いだよ、お手洗い」
「そうか。随分と長かったような……いや、済まなかった」
「大じゃないから距離取るな。戻る途中でエリア様にお会いしたんだよ」
「エリア様に?」
「ああ、文通してくれって頼まれた」
「ほう? エリア様の文通相手にか」
「知ってるのか?」
「エリア様が文通をしているというのは有名な話だからな。学者から商人、市井の子供にいたるまで、様々な相手と文通してるらしい」
「ああ……、そういや1日自分の部屋にいて退屈だって言ってたな」
「お相手に貴様が選ばれたというのは理解できんが……。エリア様も変わり種の話が知りたいのだろう。精々エリア様を楽しませてやれ」
「そうする」
セイラに言われるまでもなく、あの第二王女と文通ができるというのは心躍るものがある。ジンジャーの話とか、冒険者の話とか楽しい話を書いて送ってやろう。
「ほう、エリアと文通してくれるのか」
と、突然鈴の鳴るような声が掛けられる。
見ると第二王子リオン様がにこやかな表情を浮かべて立っていた。
え? この人まだいたの?
「セイラ、この御仁を紹介してくれないか?」
「は、はっ! この男はユイト。私の配下の者で、冒険者です。魔王の幹部の1人、『剛腕のリューガ』を討ち取った男です」
「いや違う、違わないけど違う」
セイラの言葉にリオン様と、その背後に控える剣士の女が感心したように目を見開いたので、慌てて訂正する。
しかし聞いてくれる様子はなく、リオン様がセイラに話しかけ続ける。
「セイラ、この御仁のお歳は?」
「ええと……ユイト、貴様歳はいくつだ?」
「23だけど……」
「なんと! 私と同い年ではないか! ぜひ友になってくれ!」
何やら興奮した様子で手を握ってこようとするリオン様。
しかし俺は頭を下げてその手を躱す。
「恐れ多いです。遠慮させて頂きます」
「オイキサマ! リオン様の頼みを聞けぬと言うのか!」
リオン様の後ろに控えていた女剣士が、剣を抜きながら俺を睨んでくる。
オレンジ髪の女だ。うん? この顔、誰かに似てるような……
「あれ? さっきエリア様についていたお付きの女性に似てるな?」
「ドロシーの事か? 似ていて当然だ。ドロシーはわたしの双子の妹だからな」
この女剣士はさっきの女魔法使いと双子らしい。髪型が違うのと、こっちの方がまだ見た目に可愛げがあるが……。化粧もしてるし。
「それよりキサマ、リオン様の頼みは絶対だ。リオン様の友となれ」
「イ、イエスマム……」
「分かればよい」
俺の喉元に突きつけていた剣を引っ込め、女剣士がフンと鼻を鳴らす。
相当な、というより異様な忠誠心だ。
「すまない、ライラは私を思うあまり行動が先走ってしまう事があるんだ。許してやって欲しい」
「は、はあ……」
なら止めろよと思うのだが、リオン様はにこやかなイケメンスマイルを浮かべて俺に手を差し出してくる。
「今日から私と君は友だ。気軽に『リオン』と呼んでくれ。敬語も使わなくていい」
「いや、それはさすがに……恐れ入り奉りまする」
「ユイト、その敬語は変だぞ」
「キサマ! リオン様の頼みを聞けぬと言うのか! 敬語を使うな!」
「は、はあ……じゃあリオン。これからよろしく」
「キサマ! リオン様に向かってなんという口の利き方だ!」
「どっちだよ!?」
剣を突きつけてくる女剣士に、両手を上げてビビる。
俺達の間にリオン様が入り、女剣士に向けて首を振る。
「私がいいと言っているのだからいいのだよ、ライラ。気軽に話せる男友達になりたいのだ」
「リオン様がそうおっしゃるなら分かりました。オイキサマ、長年の男友達のようにリオン様に接しろ」
「んな無茶な……」
「何か言ったか?」
「イ、イエスマム……」
ギロっと睨まれライラとやらに従う。ああ、やっぱこいつさっきのドロシーって女の姉だわ。キレやすい所とかいっしょだもの。
リオン様にガッチリ手を握らされた。うわあ、イヤだなあ……。恐れ多いなあ……。
なんか知らんけど実力以上に高評価されてる気がするし。
「『剛腕のリューガ』を倒したと言っていたな。どうやって倒したんだ?」
その証拠にリオン様がそんな事を言ってくる。
「いや、倒したのは俺じゃない。俺はたまたまリューガにとどめを刺したというだけだ」
「そうなのか?」
「ああ」
敬語を使うなと言われたのでタメ口で話していると、後ろのライラが気になるがリオン様がいいと言っているからか、何も言ってこない。
「リューガをほとんど倒したのは俺の師匠だ。ジンジャーという」
「ジンジャー……聞いた事のある名前だな。ライラは?」
「私も聞いた事がございます。確か……前に魔王の幹部を討ち取った冒険者の名前がそのような者だったかと」
「そう、それだ。確かワーウルフの幹部を退治したとか言ってたな」
「ああ、そういえば15年ほど前にそのような事があったな。確かその時は論功行賞を断ったとか……」
「ジンジャー殿は自由な人間ですから。今回も誘ったのですが断られてしまいました」
「そうか、1度お会いしてみたいものだな」
セイラの言葉にリオン様が頷く。
2人の様子に、俺は気にかかるものができた。
「リオン様」
「リオンでいい。リオンと呼んでくれ」
「……リオン、ひとつ聞きたい事があるんだが」
「何だい?」
「セイラとは昔からの知り合いなんだろ? なんでセイラには敬語を使わせてるんだ?」
「私は敬語を使わなくてよいと言っているのだが、セイラは頑として譲ってくれなくてね」
「当然だろう。相手は次期国王、第二王子リオン様なのだぞ」
苦笑するリオンに、頑なな様子でセイラが答える。
こいつ、アスミちゃんにもずっと『アスミ様』だからな……
ライラとやらの方を見るが、リオンが許しているからかセイラには何も言う気はないようだ。
なら俺も敬語にしたいんだけど……
「ユイトさ~ん、ユイトさんも飲みましょう!」
突然、背中にやわらかい感触が当たる。
見るとすっかりできあがったアスミちゃんが俺に顔を寄せてきていた。
その顔は、今まで見た事ないくらい赤い。そして……
「酒臭えっ!?」
「にゅ~ふ~ふ~ふ~」
酒臭い息を吐くアスミちゃんが、俺の腰にからみついてくる。
ワインを何杯飲んでも平気な顔してるアスミちゃんがこんなにふにゃふにゃになるなんて、どうやら相当飲んだらしい。
ウェイター達が、涙目で大量のワインのボトルを片付けている。
「こりゃダメね。早く宿屋に戻って寝かせましょう」
いつの間にか戻って来ていたレベッカが、アスミちゃんの様子を見て結論づける。
こいつ、多分遠巻きにずっと見てたな。
「そうだな。俺達はもう戻るか」
「ええ、セイラはどうする? まだ残る?」
「いや、私も宿屋に戻ろう。リオン様、ではこれで」
「ああ、気をつけて」
「お気をつけて」
俺とレベッカの気遣いを袖にし、セイラが俺達と戻る意を表する。
そんなセイラにリオンは手を振り、ライラはセイラに丁寧な礼をする。
ライラの中ではセイラは敬意を払う対象のようだ。貴族の令嬢と聞いているが、格ではセイラの方が上なのかも知れない。
あるいは……
「アスミちゃーん、ありゃ、寝てるわ。ユイト、アンタおんぶしてあげなさい」
「あいよ」
「ユイト、また会う日を楽しみにしているよ。今度ゆっくり話をしよう」
「は、はあ……、そんな機会があるかどうか……」
「キサマ、リオン様が話をしたいと言っているのだ! また魔王の幹部でも退治して王都に来るがよい!」
「無茶言うなよ……」
貧弱冒険者の俺に魔王の幹部なんか退治できる訳ないだろ。
俺は眠りこけているアスミちゃんをおんぶして、セイラ達といっしょに会場を後にした。
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「ホエ~。ブシン、あの娘が欲しいホエ~」
「あの娘? 女騎士の領主の娘ですか? あの娘はリオン様の……」
「違うホエ。あの神官の娘だホエ」
「神官の……。神官に手を出すのは、王族といえどマズいのでは?」
「サレンとかいう女神の力で守られている教会やここではという事だろホエ? でも、外なら問題ないホエ」
「……つまり、外でという事ですか」
「そうホエ。あの連中が外に出たら、いや今夜はやめとくホエ。あの娘もかなり飲んでいて酒臭いだろうし、ベッドを汚されたくないホエ。明日の朝に攫えホエ」
「……よろしいのですか?」
「何がだホエ? お前は余の言うとおりにすればいいんだホエ」
「承知しました。……フアン様」
『花剣のライラ』 ライラ・ミンケイビッツ
年齢:22歳
身長:160cm
誕生日:4月1日
ジョブ:ソードマスター
レベル:70
スキル:花剣 レベル5
格闘 レベル5
回避 レベル5
身体能力強化 レベル5
敵感知 レベル5
状態異常耐性 レベル3
好きな食べ物:リオン様といっしょに食べるご飯
特技:リオン様の素晴らしさを語る事
趣味:リオン様観察、リオン様と剣を手入れする事、リオン様とetc.
ステータス:こうげき 75
ぼうぎょ 56
すばやさ 67
まほう 0




