第4話「拾いものの男」
新しい朝が来た。
古びた洗面台で顔を洗い、新品のタオルで顔を拭く。
水垢のついた鏡に映るのは、くすんだ茶髪に、死んだ目、疲れた顔の冴えない痩せ型の男。俺だ。
「……よしっ」
俺は、気合いを入れるために自分の頬を叩いた。
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「何してるんだ?」
「見て分からないか? 雨戸を直してるんだ」
夕方。
昨日言っていた通り、契約書やらなんやらを持ってきたらしいセイラが、雨戸を修理している俺を見て怪訝な声を上げる。
「これでよし、と。気になるなら確認してくれ」
「あ、ああ……」
最後に釘を打ち付けて修理し終えた雨戸に、セイラが少し不安そうに顔を近づける。
しかし雨戸を確認してその表情を一変させた。
「ほう? 中々見事なものだな」
「ガキの頃から納屋の修理やら大工仕事をさせられてたからな。冒険者になってからも大工仕事を請け負ってたし」
感心するセイラに、俺は大工仕事ができる理由を話す。
そんな俺に、セイラが不思議そうに問いかける。
「ならどうして大工にならなかったんだ?」
「経験と大工スキルがないからだよ。それに俺にできるのなんて簡単な事だけだし」
大工の求人も探してみたが、経験者を求めるのがほとんどで、大工スキルも求められる。
しかし俺が持ってるのはバインドスキルのみ。面接に行ったがあっけなく門前払いされた。
「大工スキルを持っていなくてこの仕事か…。どうやら私は良い拾いものをしたようだ。家の中も……掃除したんだな」
「ああ、って言ってもザッとだがな」
昨日は屋根裏部屋の埃を全部掃き出し、床を雑巾がけしただけだったが、
今日は半日かけて家の中を掃除した。
換気をして空気を入れ換え、床を掃き、雑巾をかけ、窓拭きもした。そこで雨戸が壊れてるのに気づき修理した訳だ。
「裏庭もキレイにしてくれたんだな」
「雑草引っこ抜いただけだがな。なあ、畑作っていいか? 花や野菜を育てたいんだ」
「あ、ああ。もちろんいいぞ。ひいおばあさまも畑にしてたし……」
「やっぱりか、そういう感じがしたんだよな」
セイラの隣に並び、縁側に腰掛ける。
「いい家だな」
「……!」
「住んでた人間が丁寧に暮らしていた事が感じられる、いい家だ」
「……ああ、ひいおじいさまとひいおばあさまが2人仲良く暮らしていた、いい家だ」
セイラが少し目を潤ませて、鼻を鳴らしながらそう言う。
この家を受け継いだのは個人的な想いがあるらしい。
ハンカチで目元と鼻を拭ったセイラが、気を取り直すように顔を上げる。
「どうやら貴様にこの家の管理を任せたのは正解だったようだな。これからもよろしく頼む。これが契約書だ」
「ああ」
契約書をざっと読んでサインをし拇印を押すと、セイラが何やら取り出してきた。
「夕飯を買ってきた。食べるか?」
「おお、ありがたい。それにしても……多くないか?」
「私の分の食事があるからな。それに……、今日は泊まるつもりで来た」
「え?」
「な、なあ……」
俺の隣に腰掛けたセイラが、夕陽に照らされている。
オレンジ色に染まる彼女の顔は、息をするのもためらわれるほど美しかった。
甘く、爽やかな香りもする。俺の胸は緊張から高鳴った。
顔のパーツひとつひとつが整っているセイラ。
その美しい口から……
「今夜また、私にバインドをかけてくれないか…?」
……とんでもない言葉が出てきた。
・この世界のスキル
スキルはそのジョブに関わるものが基本取得できる。
レベルアップすればスキルポイントがたまって、取得できるスキルが冒険者ブックに記載される。
セイラのように好きなスキルを選んで取得できる者もいれば、ユイトのようにまったくスキルを取得できない者もいる。




