第35話「アスミ様の懺悔室①」
「次の方、どうぞー」
魔王の幹部との戦いから1週間。
レイフォード領の街は落ち着きを取り戻し、わたしも神官としての仕事に励んでいました。
神官の仕事は冠婚葬祭から礼拝の実施、罪や悩みを聞く告解と多岐に渡ります。
今日はこの街の冒険者達の告解を受ける日です。
「カイルだ、よろしく」
「名前は名乗らなくていいです、よろしくおねがいします」
懺悔室は顔が見えないようになっていて、名前も名乗らなくていいのに名前を名乗ったカイルさんに注意します。
この街の冒険者達がどんな人なのか、大体ユイトさんに聞きましたが一番イメージが違ったのがこの人でした。
オーガ達と戦った時は頼りになる人という印象でしたが、女遊びが好きな自由人だそうで、ユイトさんが副業で働いていたお店にもよく通っていたそうです。ハレンチな!
「では、あなたの罪と悩みを打ち明けてください」
「罪はないな。サレン様に誓っていい。ウソも吐いてないし物も壊してねえし、人を傷つけたりもしてねえよ」
ユイトさんもそうでしたが、この街の冒険者達は熱心なサレン様教徒なようです。
ちょっと熱心すぎる気もしますが……
「でも最近、悩みがあるんだ」
「なんでしょう?」
「気になる子達がいるんだけど、どの子をデートに誘えばいいか分からなくてな」
「はい?」
「最近このレイフォード領に可愛い女の子が増えただろ? 領主の娘のセイラちゃんに、魔法使いのレベッカちゃん、それに神官のアスミちゃん。どの子も違った魅力があって1人だけなんて選べないんだ」
「……」
「いっそ3人まとめてデートに誘おうかと思うんだけど、アスミちゃんはどう思う?」
「次の方、どうぞー」
****************************
「ゲ、ゲイル・クオンタントです。兄ちゃんが失礼しました……」
「名前は言わなくていいです。よろしくお願いします」
カイルさんの弟で戦士のゲイルさんが、大きな身体を縮こまらせてるのが仕切りから見えます。
ユイトさんの話だと、カイルさんと違い真面目で実直で照れ屋な性格だそうです。好感が持てます。
わたしを口説き続けるカイルさんを、懺悔室から引きずり出してくれましたし。
「では、あなたの罪と悩みを打ち明けてください」
「罪はありません。サレン様に誓っていいです」
実直そうな返事が返ってきます。ゲイルさんも熱心なサレン様教徒だそうです。
「でも、最近っていうか、ずっと前から悩みがあって……」
「なんでしょう?」
「昔からずっと好きな子がいるんだけど、話かける事もできなくて……勇気が出ないんです」
ほほう?
興味深い話が出てきました。
昔から好きだというのに話かける事もできないとは、軽薄なお兄さんと違い真面目なゲイルさんらしいです。
「人見知りする子で、兄ちゃんやマシューにナンパされた時もずっと無視してたような子だから、俺なんかが話しかけても無視されるんじゃないかと思って……」
人見知りという時点で、誰だかなんとなく想像がつきました。
話した事はありませんが、あの人は確かに手強そうです。
「付き合いたいとかは、ないんですけど仲良くなりたくて……どうしたらいいですかね」
「そのままでいいと思います」
「えっ?」
「あなたは誠実な人です。人見知りなその人も、あなたに話しかけられて無視するという事はないと思います。勇気を出して話しかけてみて下さい」
「あ、ありがとうございます! 勇気が湧いてきました!」
ゲイルさんがお礼を言いながら、懺悔室を後にします。
いやまだ、アドバイスの途中なんですが……
きっと話しかけた後は会話に詰まるでしょうけど、まあ勇気が出たならよしとしましょう。
後日、冒険者ギルドでリリーさんに話しかけるゲイルさんを見たのですがそれはまた別のお話です。
****************************
「ノッシュだ。よろしく」
「名前は言わなくていいです。よろしくお願いします」
この街の冒険者の中でも落ち着いた常識人という戦士のノッシュさんが、のっそりと懺悔室に入ってきます。
奥さんと2人の子供がいるベテラン冒険者で、とても頼りになる人だそうです。
「では、あなたの罪と悩みを打ち明けてください」
「罪はない。サレン様に誓っていい」
落ち着いた返事が返ってきます。この方も熱心なサレン様教徒なようです。
「それより聞いてくれ、最近生まれた娘が、もう可愛くて可愛くて」
「それはそうでしょうね」
ノッシュさんが最近洗礼を受けさせに連れてきた可愛らしい赤ちゃんを思い出し、わたしの頬が緩みます。
どうして赤ちゃんは、あんなに可愛いのでしょうか?
親であればなおさらなのでしょう。
それにしてもこの無骨なノッシュさんの奥さんが、あんなに可憐な人だったなんて。
初めて見た時は驚きました。
「ミルクを飲ませてる時も、おしめを替えている時も、お風呂に入らせてる時も、もう可愛くて可愛くて仕方ないんだ! なんであんなに可愛いんだろうな! 子供って……」
この後、ノッシュさんののろけ話は時間いっぱい続きました。
後で気づいたんですけどこれ、告解じゃないです。
ただの子煩悩なパパの、のろけ話です。
****************************
「ミアよ。よろしく」
「名前は言わなくていいです。よろしくお願いします」
女魔法使いのミアさんが肩にかかるか、かからないかくらいの短めのピンク髪の頭の後ろで腕を組んで、懺悔室にふんぞり返ります。
10歳から冒険者をしている天才魔法使いだったとの事でしたが、最近はくすぶっているというのがユイトさんの話でした。
「では、あなたの罪と悩みを打ち明けてください」
「罪はないわよー、悩みもないわー。帰っていい?」
「それはウソですね」
わたしに言われ、ミアさんがピクッと身体を動かします。
「アタシがウソを吐いてるって?」
「はい、あなたはウソを吐きました。ご自覚あるでしょう?」
「……こないだカイルの唐揚げをつまみ食いしたわ。これでいい?」
「まだですね。あなたからはウソの気配がしています」
「……」
ミアさんがチッと舌打ちをします。
強気な態度は、弱気の裏返し。わたしは彼女の心の弱い部分を突っつきます。
「あなたは悩んでいる。今の自分のあり方に」
「ハア? アタシが何に悩んでるって?」
「ご自分で理解してるでしょう? そしてそれから目を逸らしている」
こういうタイプは助けを求めているくせにプライドが高いタイプなので少々きつめに言っておきます。
「……何なのよ、アンタも、あの魔法使いも、あの領主の娘も」
「それが、あなたの悩みですね」
「……チッ」
痛いところを突っつかれ、ミアさんが舌打ちをします。
少々やりすぎたでしょうか? 投げ出して帰るかと思いきや、ミアさんが足を組んで椅子にもたれかかります。
「アタシは天才なのよ、天才だったのよ。なのに全然レベルが上がんないし、リリーにも抜かれた。その上アンタ達みたいな高レベル冒険者が来た。面白くないのよ」
「それは、あなたが努力を怠ったからでは?」
「あー、はいはい。そうですねー。アタシはリリーみたいに努力家じゃないわよー。でもアンタ達は違うでしょ? 生まれつき才能があって」
「それは違います」
ミアさんの言葉を遮り、わたしは言います。
生まれつき才能がある? この人は何を言っているのでしょう。
「ミアさん、この事は皆さんには内緒にしておいてください」
「何を?」
「レベッカさんの話です」
「レベッカ? あの魔法使いの?」
「はい、レベッカさんは実は……」
わたしの話に、ミアさんが目を見開きます。
その後、バツが悪そうな顔で懺悔室を後にしていきました。
これで少しはねじ曲がった性根が変わるでしょうか。
後日、ミアさんがリリーさんといっしょに魔法の基礎訓練をしてたり、レベッカさんに話しかけている所を見るのですが、それはまた別のお話です。
****************************
「マシューだ。よろしくアスミちゃん」
「名前は言わなくていいです。よろしくお願いします」
カイルさんと並ぶ要注意人物パート2がやって来ました。
いきなりわたしの名前をちゃん付けで呼ぶツンツン頭の槍使い。
ナンパが趣味のマシューさんです。
ユイトさんが副業していたお店の常連でもあります。ハレンチです。
「では、あなたの罪と悩みを」
「アスミちゃん、デートしない?」
「はい?」
「オレとデートしようよ。この街の事、まだ知らないだろ?」
おっと、いきなり口説いてきやがりましたよこのナンパ男。
正直顔がいいので、オーガ達との戦いを見た直後ならコロっと行っていたかもしれませんが、昔街の女性達に4股をかけていたという話を聞いてしまったので幻滅です。
「アスミちゃんまだこの街詳しくないだろ? 俺にアスミちゃんの初めてを……」
「次の方、どうぞー」
****************************
「バロン、よろしく」
「名前は言わなくていいです。よろしくお願いします」
最後の人が来ました。
軽薄ナンパ野郎をキュッとシメてくれた大柄なアサシンの人です。アサシンなのにすごく体格がいいです。
ユイトさん曰くいい人だそうです。
「では、あなたの罪と悩みを打ち明けてください」
「バロン、罪ない。サレン様に、誓う」
大分キャラの立ったしゃべり方をする人です。
ですが誠実そうな人です。いい人オーラが漂っています。
「バロン、田舎に、妹、いる」
おっと? ユイトさんから聞いてない話が出てきました。
おそらくユイトさんも知らない話でしょう。
「妹、バロンと歳、離れてる。病弱。薬代かかる。だからバロン、冒険者なった。冒険者、お金、稼げる」
「……」
「今は、健康。結婚もした。心配、しなくていい」
「そうですか……、よかったです」
「アスミ様、バロンの妹、似てる」
「……」
「バロン、アスミ様、守る。また魔王軍来ても、戦う。もっと強くなって、頑張る」
「はい、ありがとうございます」
言葉はつたないですが、一生懸命な気持ちが伝わってきます。
この方が守ってくれるというのは非常に頼もしいです。
この方だけじゃありません。
この街の冒険者は頼りになる人が多いです。数人ほど軽薄な方もいますが……
「アスミ様、この街、好き?」
「え?」
「バロン、この街、好き。この街の仲間、好き。アスミ様も好きになってくれたら、うれしい」
「はい、わたしも好きですよ」
バロンさんの問いかけに、わたしは笑顔を浮かべて答えます。
来た頃はどうかと思っていたこの街ですが、今では好きになりました。
その……好きな人もできましたし。
こうしてわたしは、この街の冒険者の人と話をしました。
そして益々、この街の事が好きになったのです。
冒険者 バロン・アロンゾ
年齢:33歳
身長:186cm
誕生日:3月10日
ジョブ:アサシン
レベル:40
スキル:ナイフ レベル5
投擲 レベル5
格闘 レベル5
アサシン レベル5
回避 レベル2
敵感知 レベル4
状態異常耐性 レベル2
好きな食べ物:クッキー・牛乳
特技:お菓子作り・魚を捌く事
趣味:食べ歩き・絵を描く事・釣り
ステータス:こうげき 42
ぼうぎょ 40
すばやさ 41
まほう 0




