第30話「レベルアップ」
「サレン様、お久しぶりですね」
「……」
「ここに来るのは……1週間ぶりですか? こんなに早く来る事になるとは思わなかったな……」
「……」
「言っときますけど、この前と違ってわざと死んだ訳じゃないですよ。レベッカは背が高い分アスミちゃんより重いし、抱えて避けきれないだろうからとっさの判断で突き飛ばしたんです」
「……」
「ただまあ……こんなに早く死ぬとは思わなかったなあ。さすがに、ショックというか……」
この世のものではない雰囲気が漂う『死者の部屋』で、俺は1週間ぶりにサレン様に相対していた。
俺の前に座るサレン様が、ふんわりと笑う。
「冒険者ユイト、落ち着いてください。あなたは死んでません。気を失っているだけです」
「え?」
サレン様の言葉に戸惑う。
『死者の部屋』にいるのに死んでない? どういう事?
「魔王の幹部の拳がかすって致命傷を受けてますが、気を失っただけです。アスミがあなたの身体を一生懸命治療しています。目を覚ました頃には普段と変わらない健康体になっているでしょう」
かすっただけで致命傷を食らっているという自分の貧弱さにイヤになるが、気を失っただけという事に安心する。しかし疑問は晴れてない。
「じゃあなんでこの『死者の部屋』に?」
「気を失っているので連れてきちゃいました」
「え?」
「あなたとお話したかったのです。この前聞けなかった話などを聞きたいですし」
「あ、そうですか……」
てへぺろと舌を出して片目をつむりお茶目な顔をするサレン様。
レベッカあたりがしたら張り倒している所だが、可愛い。サレン様マジ女神。
「冒険者ユイト。お手柄でしたね」
「え?」
「魔王の幹部の1人を倒し、仲間を救った。あなたの行為は称えられるものです」
「いや、倒したのはジンジャーですし……」
「ウフフ、それはどうでしょうね?」
サレン様が意味深な笑みで笑う。
どういう意味だ?
気になるけどサレン様の笑みに心奪われてしまう。
その笑みはまさに女神、いや、小悪魔? 反則級に可愛い。 サレン様マジ女神。
「サレン様! バインドをかけさせてください!」
「……冒険者ユイトよ、何を言っているのですか?」
「縛らせて下さい!」
「何を言っているのですか!? 縛らせません!!!」
顔を真っ赤にして断るサレン様。
その顔も可愛い。サレン様がむ~っとした顔で俺を叱る。
「まったくもう、冗談はやめてください」
「いえ、本気ですが……」
「嫌いになりますよ? そして神罰を食らわせますよ?」
「申し訳ございません」
椅子から降りて土下座を敢行する。
サレン様からの神罰なら喜んでお受けするが、嫌われるのはゴメンだ。
女子に嫌われるのは慣れているが、サレン様に嫌われるのはマジ勘弁。
「サレン様、ひとつお伺いしてもいいですか?」
「なんですか?」
「以前『これからあなたには、魔王の幹部達との戦いが待っています。そして魔王の幹部達に勝つには、あなたの力が必要なのです』って言いましたよね」
「はい」
「俺の力って、何ですか?」
「分かりません」
「はっ?」
「魔王が関わる事になると、わたくしでも見通しづらくなるのです」
「はあ……」
「ですがこれから、魔王の幹部との戦いであなたの力が必要になる。それは間違いありません」
「それって……俺の中に秘められた力が目覚めるとか?」
「目覚めません。あなたにそんな力はありません」
「伝説の武器を手にするとか?」
「できません。あなたに伝説の武器なんて装備できません」
「実はシーフが最強職で、レベルが上がると最強になるとか?」
「なりません。あなたのジョブは弱い割にレベルが上がりにくく、レベルが上がっても低ステータスの弱いジョブです。最弱職ではありませんが」
「バインドスキルは実は最強のスキルで、魔王の幹部だろうと倒せるスキルになるとか?」
「なりません。あなたのスキルは人間には効果があるものの、モンスターや魔王の幹部には効き目が薄い弱いスキルです」
「……」
「そんな顔しないでください。ですが確かにあなたの力がこれから魔王の幹部との戦いに必要になるのです」
「……」
サレン様はそう言うけど、俺なんて素手じゃ近所の野良犬相手でも苦戦する弱っちい冒険者だぞ?
レベッカと腕相撲で勝負して、瞬殺されたくらいの力しかないんだぞ?
俺なんかの力が、どうやって……
「まあ今は目が覚めたら、いい事が続きますのでそれを楽しみなさい」
「いい事?」
「ええ、楽しみにしておくとよいでしょう。あなたの人生は、これから変わるのですよ」
そう言ってサレン様が、ふんわりと笑う。
そのいい事とやらが、あまりいい事のようでない予感がするのだがやぶ蛇はつつかないでおこう。
それから俺はサレン様に、この前できなかった話をしたりした。
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「んっ……」
目が覚めると、見覚えのある景色が広がっていた。
この前と同じ、サレン様の教会の中庭だ。
ただ、俺を膝枕してるのはこの前と違う人物だった。
「気がついた?」
「レベッカ……。リューガはどうなった?」
「アンタにパンチを食らわせた後、そのまま倒れて力尽きたわよ。ジンジャーさんの話じゃ、爆発玉を食らった時に事切れてたんだろうって」
レベッカの膝枕から頭を起こし、辺りを見回す。
「皆は? どうしたんだ?」
「アスミちゃんは今回の戦いでケガした冒険者達の治療を教会の中でしているわ。全員助けられるって。セイラは領主に報告に行った後壊された城門の復旧工事の試算と見張りに行ってる。ジンジャーさんは気になる事があるって何か調べに行ったみたい。この街に住んでる人達は避難解除されて、普通の暮らしに戻ってるって」
「ああ、そうか……」
「で?」
「で?」
「あたしに何か言う事は?」
「何か言う事って……?」
「アンタはあたしを庇って死にかけたのよ。何か要求しなさいよ」
「ハア? 別に見返り求めてやった訳じゃねえよ」
「何か要求しなさいよ!」
「しねえよ。お前が無事でよかった」
「……」
レベッカが、呆けた表情で固まる。
そして顔を真っ赤にして殴りかかってきた。
「何なのよ何なのよ何なのよアンタは! もう!」
「痛え!? 痛えよお前高レベルなんだから! 低レベルの俺をいじめるな!」
「低レベル? 何言ってんの?」
「ハア?」
「冒険者ブック見てみなさいよ」
「冒険者ブック?」
「いいから見てみなさい」
レベッカに言われ、俺は冒険者ブックを開く。
冒険者ブックのページが光っている。
そして、そこに書かれている内容に驚いた。
「レベル24!? ウソだろ!? なんでこんなに上がってるんだ!?」
「何でも何も、アンタがリューガを倒したからよ」
レベッカに言われ、俺は討伐したモンスターが載っているページを開く。
その討伐欄に……『剛腕のリューガ』の文字があった。
「え? なんで!? なんでリューガを俺が倒した事になってんだ!?」
「アンタが投げた爆発玉がリューガにとどめを差したのよ。だからジンジャーさんじゃなくてアンタが倒したって事になったみたい。懸賞金もアンタにあげるってよ」
「え? いやそれはマズいだろ……リューガを倒したのはジンジャーなんだし……」
「ジンジャーさんから伝言よ。『懸賞金でもっといい装備買いな』ですって」
「……まったく、あの人は……」
欲がないジンジャーに呆れる。魔王の幹部の懸賞金となりゃ億単位だろうに。それをポンとやれるなんて……
「……あら? アンタの冒険者ブック、まだ光ってない?」
「え?」
レベッカに言われ、俺は冒険者ブックに目を落とす。
レベッカの言うとおり、冒険者ブックのページがまだ光っている。
冒険者ブックのページが光る時は2つ。
1つはレベルが上がったとき、2つ目は新しいスキルが習得できるようになった時。
まさか、
まさかまさかまさか。
「遂に……俺もバインド以外のスキルを身につける事ができるのか!?」
サレン様の言っていた「いい事」が続くという言葉を思い出す。
ある意味レベルが上がるよりも喉から手が出るほど欲しかった新しいスキル。
スキルが増えれば、できる事が増える。
戦闘系のスキルなら、モンスターとの戦いが楽になる。
俺は期待を込めて冒険者ブックのページを開く。
ページには、取得できるスキルが1つ光っていた。
そのスキルとは……『拘束 レベル2』
「なんでだよ!」
俺は、冒険者ブックを地面に叩きつけた。
これで第1章は完結です。
次回更新は1ヶ月後を予定しています。
この物語の主人公はチート能力もなく、
秘められた力なんてものもなく、
必殺技を使えるようにもなれず、
実は最強職だったなんて事もなく、
丸腰じゃゴブリン相手にもあっさり殺されてしまうだろう凡人で、
女魔法使いに腕相撲で負けてしまう、
死に戻りもできない、メンタルが強い訳でもない、
主人公の器でも魔王と戦う器なんかでもない冒険者Bの男の物語です。
そんな男が、これから何を成し遂げるのか。
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